
喫茶店経営、治療家、そして健康を支える製品の開発へ。ユニークな経歴を持つファイテン株式会社の代表取締役社長、平田好宏氏。同氏は大病を患った自身の経験から、人の健康に貢献する道を模索し始めた。常識にとらわれない発想と、「理屈より現象」を突き詰める開発哲学から生まれた同社の技術は、多くのアスリートや健康を願う人々の支持を集めている。
近年では、革新的な「ナノメタックスコーティング」技術を武器に、物販から施工ビジネスへの転換という新たなステージを迎えようとしている。今回は平田氏に、これまでの軌跡と未来への展望について話を聞いた。
料理人から治療家へ。常識を覆した独自の理論
ーーこれまでのご経歴をおうかがいできますか。
平田好宏:
弊社を創業する前は、個人で喫茶店とレストランを経営していました。料理人を目指して修行しているときに「膠原病」という難病を患ったのですが、幸いにも体調が回復して調理の道に戻ることができました。お店が軌道に乗り、時間とお金に余裕ができたとき、自分が大病した経験から「健康に関する仕事ができないか」と考え始めました。
とはいえ、健康に関する知識はほぼゼロの状態。異業種への挑戦でしたが、親戚や周りからは「どうせ止めても聞かないから」と反対されることはありませんでした。これまでも人生で色々な進路変更をしてきましたが、家族から反対されたことはありません。私がさまざまなことに挑戦しても、経済的に困ったことがなかったからかもしれません。
ーー今のキャリアはどのように切り拓かれたのでしょうか。
平田好宏:
まず、治療のライセンスを取得するために学校へ通いました。一緒に学んだ仲間のほとんどは、治療家になるためにカイロプラクティックなどの治療院へ修業に行きました。しかし私は、ライセンス取得に向けて勉強しているうちに、体の中に刺激を与えれば治ってしまうポイントが存在することに気づいてしまったのです。これにより、私は治療院での修業はせず、開業することにしました。
具体的には、「通電点」と呼ばれる、鍼灸治療における電気刺激を与えるためのポイントです。この手法は「良導絡(りょうどうらく)」という考え方を応用し、私なりにアレンジしたものです。
「どっちが効くか」料理人の経験が活きる製品開発
ーー貴社の商品はどのようにして生まれたのですか。
平田好宏:
治療院時代、たくさんの患者さんが来院されましたが、症状がなくなると来なくなってしまいます。これでは根本的に治ったことにはならないため、ホームケアとしてさまざまな道具や体操を勧めました。しかし、それらを続けてもらうことは、なかなか難しいことでした。そこで、もっと簡単な方法はないかと探し始めました。
そして、たどり着いたのが体のツボに貼るだけで効果が期待できる方法です。どんなものが効果があるのか、いろいろと試してみることにしました。宮崎県高千穂で採れた土がいいと聞いて、試してみました。また、その頃アメリカではヒーリングストーンブームで、水晶を貼り付けてみたりもしました。そして、天然石よりセラミックの方が効果が高いことが分かりました。そこからセラミックの加工が始まりました。これが弊社技術の始まりです。
より簡単にホームケアをしてもらいたい一心でつくったものだったので、当初は販売せず貸し出していました。すると、ある時患者さんから「これを売って欲しい」と相談されました。話を聞くと、ご家族が使ったところ、そのご家族にも効果があったというのです。そこで初めて値段をつけました。
ーー製品開発する際、大切にされていることはなんですか。
平田好宏:
経験の中で生まれてくる「直感」を大切にしています。私がいう「直感」とは、詳細な根拠を言葉で説明するのは難しいです。しかし、これまでの膨大な経験則に基づいています。料理人時代も調味料の量はほとんど量らず、「これくらいがいい気がする」という直感で味を決めていました。それと同じで、開発においても多くの試作と検証を繰り返すうちに、だんだんと直感が磨かれていきます。今では、実際に現象を確認しなくても「大体こうなるだろう」と予測できるようになり、技術の進歩は飛躍的に速まりました。
料理の世界は、最終的に「どっちが美味いか」で決まります。理屈ではなく、実際に食べてみて、お客様に受け入れられるかどうかでメニューが決まるのです。私の製品開発もこれと似ていて、「どっちが効くか」が全てです。科学的な根拠を先に求めるのではなく、まず効き目があるという事実に着目します。そして、その成分や製法を分析し、似たものを制作しては、もとになったものと比較する。これを繰り返し、より高い効果を持つものを生み出してきました。
重大な経営課題を解決した革新的技術
ーー新技術「ナノメタックスコーティング」が開発された背景について教えてください。
平田好宏:
「ナノメタックスコーティング」とは、弊社の独自技術「ナノメタックス」(※2)と光テクノロジー「健光浴®」(※3)を組み合わせた、水煙加工によるコーティング技術です。このコーティングは、筋緊張の緩和や疲労回復、集中力向上に効果があると評価されています。
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この技術が開発された背景には、弊社が抱えていた在庫問題があります。Tシャツやサポーターといった商品に弊社の技術を付加して販売していましたが、サイズや種類をそろえる必要がありました。その結果、アイテム数は4000ほどに膨れ上がってしまったのです。弊社の規模としては在庫が多すぎて、深刻な問題でした。そこで発想を転換しました。「私たちが製品を作るのではなく、お客様の持ち物に直接技術をのせられれば在庫は不要になるのでは?」と考えたのです。これが「ナノメタックスコーティング」が生まれたきっかけです。
お客様から大切な品物を預かり、それにナノメタックス加工をするのですが、品物への劣化リスクを考えると、開発は簡単ではありませんでした。しかし最終的に、ごく微量が付着するだけで効果を発揮する特殊な粒子を開発することに成功しました。物そのものを加工するのではなく、加工された微粒子を物に付着させるという発想です。以前の技術とは比べものにならないレベルまで引き上げる必要があり、完成までに7年もの歳月を要しました。
(※2)ナノメタックス:3種類のアクアメタル(水溶化メタル)とマグネシウムを分子レベル(およそ1ナノメートル単位)のスケールで複合化させた素材。従来素材よりも極めて微細で、繊維の奥まで浸透。
(※3)健光浴®:メタックスカーボンセラミックを配合した素材に光を照射することで、筋肉をほぐしリラックスさせる効果があるとされている。※詳しくはこちら
ーー利用者の反応はいかがですか。
平田好宏:
アスリートの方々に「ナノメタックスコーティング」されたウエアやシューズなどを使っていただいています。その結果、高校生が中距離走で日本新記録を出したり、走り幅跳びの選手が自己記録を80cm以上も更新したりといった事例が生まれました。
「ナノメタックスコーティング」されたウエアを着たことで急に筋力や瞬発力が上がるわけではありません。平衡バランスに良い影響を与えているのではないかと推測します。バランスの軸ができると、人間はすっと落ち着き、不安感がなくなります。たとえば、走り幅跳びでいうと、ファールラインなどを過度に気にすることなく、初めて思いっきり地面を蹴ることができたのだと思います。
アスリートの方が弊社のシューズを履くと、「なんだか安心する」「不安感がなくなる」と話してくれます。この言葉は商品力を代弁してくれていると感じています。
「体験」こそが全て。顧客との信頼を築く方法

ーー販売や商品開発をする上で、大切にされていることはなんですか。
平田好宏:
創業当初、いきなりセラミックを売るのではなく、試し貼りをして、効果があった分だけ買っていただく販売方式を採用していました。この「使ってみて良かったから欲しい」という考え方が、今もずっと続いています。
弊社の技術は新しく、過去のデータが豊富なわけでも、著名な研究機関から生まれたわけでもありません。そのため、耳から入ってくる情報だけでは、聞けば聞くほど怪しく聞こえてしまいます。お客様に信頼していただくためには、実際に使っていただくしかありません。そして、体の感覚で効果を実感し、理解してもらうことが重要です。
「体感」を大切にしているからこそ、ほぼ全ての利用者に効果を体感していただけるレベルのものだけを商品化しています。「体感」と聞くと感覚的な話に思えるかもしれません。しかし弊社では「体感」を数値化しています。そして「これ以下なら商品化しない」という明確な基準を徹底しているのです。そのため、説明通りに使っていただければ、ほぼ100%効果を実感できるはずです。商品を言葉で説明したがるスタッフもいます。しかし私は「体感による納得こそが、弊社の技術を伝える唯一の方法だ」と伝えています。
施工ビジネスへの転換と技術が拓く世界の未来
ーー今後の事業構想について教えてください。
平田好宏:
今後は、これまで以上に「ナノメタックスコーティング」事業に力を入れる方針です。最近では、住宅全体をコーティングすることも可能になりました。そのため、今後は新築マンションや建売住宅などを販売している企業と協業して、弊社の技術が施工された住宅を増やしていきたいと考えています。
また、弊社が独自開発したオリジナルフィルターを使った「ファイテン メタックスウォーターシステム」事業にも注力したいです。東京にあるクリーニング店で、弊社の水処理システムを導入したところ、洗剤の使用量が半分になったという事例があります。さらに、洗濯機のパッキンやボイラーの釜の汚れまで取れたのです。この技術を応用すれば、例えば、半導体の洗浄プロセスを大きく変えられるかもしれません。各分野の専門家と技術コラボレーションを進め、私たちの手の及ばない分野でも技術を提供していきたいと考えています。
ファイテンが求める仲間と共有したい価値観
ーー貴社ではどのような人材を求めているのでしょうか?
平田好宏:
この事業に誇りや生きがい、プライドを持てる人を求めています。弊社の技術は、お客様に喜んでいただき、社会的な意義も大きいと確信しています。お客様からたくさんの「ありがとう」を言っていただけるスタッフになってほしいです。製品をただ売るのではなく、弊社の技術を伝えてお客様の生活にプラスを与え、本当の意味で徳を積んでいける。そんな価値観を共有できる仲間を求めています。年代や性別は問いません。
ーー入社後はどのようなキャリアを歩むことができるのですか?
平田好宏:
営業、財務、人事など、会社にはさまざまな仕事があります。営業でお客様と直接接するため、技術の手応えや感動が伝わりやすいです。しかし、そうでない部署の社員にも働きがいを感じてもらうことが課題となっています。そのため、アウトソーシングできる業務は活用し、なるべく多くの社員がお客様に近いポジションで働けるようにしていきたいです。
私も開発の傍ら、全国のショップでセミナーを開催しています。そこで、エンドユーザーの感覚を直接確かめるようにしているのです。そして、そこで得た「喜んでもらっているよ」という声を、開発担当者など他のメンバーに伝えること。これが大切だと考えています。
ーー最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
平田好宏:
まずは、ファイテンの技術を知ってほしいです。非常に画期的でユニークな技術であり、どんな分野にも活かせる可能性があります。もし皆さんの事業に活かせるものなら、私たちは全面的に技術提供をいたします。よい出会いを待っています。
編集後記
大病、喫茶店経営、そして治療家へ。平田社長の歩みは、常識のレールからは大きく外れている。しかし、一つひとつの経験が深く繋がり、現在のファイテンを形づくっていた。「理屈より、どっちが効くか」。この哲学は料理人時代に培われたものだ。現象を絶対視する姿勢は、科学では説明しきれない人体の神秘に挑む上で、何より強力な羅針盤となったのだろう。「ナノメタックスコーティング」という革新的な技術を手にしたファイテン。世界中の人々の生活を根底から支えるために挑戦を続ける姿に今後も注目したい。

平田好宏/1953年、京都府生まれ。1982年、自身の膠原病克服経験から治療の道を志し治療院を開業。1983年にファイテン株式会社設立、代表取締役に就任。現在も自ら先頭に立ち、商品開発をリードしている。