※本ページ内の情報は2024年11月時点のものです。

製品開発の一分野には、「試作モデル製作」と呼ばれる職種がある。「試作モデル製作」とは文字通り、製品を本格的に生産・販売する前の段階で、実際の製品に近い試作品をつくる仕事のことだ。

株式会社プロトワークは、5軸加工機による切削加工で、樹脂から金属まで幅広い素材を使った試作モデル製作を行っている。高い技術力を誇る同社は、創業から現在に至るまでの間にどのような道を歩んできたのだろうか。同社の代表取締役である田村 常之進氏にお話をうかがった。

高校1年生で製造業の面白さを知った

ーーまずは起業の経緯を教えてください。

田村常之進:
私が試作モデル製作や樹脂切削加工の仕事に出会ったのは、高校1年生のころで、親戚が経営する会社でアルバイトしていたことがきっかけです。そのときにこの仕事の面白さを知り、高校卒業後、アルバイト先の会社にそのまま就職しました。

社内ではとても恵まれた環境で仕事をしていましたが、私自身が人に使われることに馴染めない部分がありました。その結果、同じ会社に居続けることができず、当時在籍していた会社の社長が師匠と呼んでいた方のもとに2年間出向するなど紆余曲折を経て、個人事業を立ち上げることになったのです。

その後、1996年に工場をスタートさせると同時に事業を法人化し、株式会社プロトワークを設立しました。目的があって起業したわけではなく、そのときの流れに沿って、起業という選択になりましたね。

リーマン・ショックの悔しさがコロナショックに生きた

ーー創業から現在までの間に苦労したことや印象に残った出来事はありますか。

田村常之進:
2007年から2008年にかけて起きたリーマン・ショックは、大きな転機になりました。当時、弊社は金属加工の分野に参入し始めていて、周囲から「技術力が高い」と評価されていた時期でした。しかし、2007年10月には過去最高の売上を記録したものの、翌11月には過去最低にまで落ち込むことになりました。

以後も低迷が続き、銀行から借り入れをしたところ、「この不況の中でも利益を上げているところはある」と聞かされ、私は不況に対して手も足も出せなかったので、非常に悔しい思いをしました。これをきっかけに過去の自分の経営方針を振り返り、次に何か大きな社会情勢の変化が来たときのために、それに対応するための対策を立てようと考えました。

この対策は、2020年のコロナショックに活かすことができました。他社が休業している中、設備や人材に投資し、材料を確保しました。その結果、コロナ前には4〜5億円だった売上が7億円、10億円と上昇しました。不景気で仕事がない中で投資するのはかなり不安だったのですが、しっかりと実績がついてきたので自分の判断に自信がつきました。弊社の本質的な力が見えた出来事だったと思います。

事業の強みは幅広い素材の切削加工ができること

ーー貴社の事業の強みや他社との違いはどのようなところですか。

田村常之進:
樹脂加工だけでなく、アルミニウムやステンレス、鉄などあらゆる種類の金属も加工できるところが特徴です。弊社はもともと、家電メーカーや医療、OA機器などのプラスチック製品の試作を手がけていました。OA機器の需要が減少する中で、金属加工をやり始めたのですが、「金属の一体加工(※)の技術を樹脂加工に活かしたらどうか」と思い、樹脂の一体加工を始めたのです。

他社では専門業者のように、樹脂や、アルミニウムなどの軽金属、ステンレスなどの金属における加工は、それぞれ素材ごとに単独で受注しています。一方、弊社では樹脂から金属まで幅広い素材をカバーできますし、なかでも樹脂の一体加工をしているというのは、弊社ならではの強みだと考えています。

※一体加工:接着や溶接をしないでブロック材から一体物で加工すること

ーーカバーできる領域が広いということは、それを扱う人材の育成にも労力がかかるのではないですか?

田村常之進:
最初はマンツーマンで仕事をしながら、1年間教育するということをやっていました。今では教育担当を1人置いて、その担当者は教育に専念してもらうようにしていますね。面倒見がいい社員が多いので、教育で苦労した覚えはありません。むしろ、人材の入れ替わりが激しく、育てた人材が定着しないことに当時は苦労していました。

その問題に対しても、現在では電子システムで労務管理を行うことで、退勤時間や残業の見える化をしており、残業時間を減らしています。その結果、定着率もよくなりました。定着率が改善したことで技術力も向上し、営業面でもいい影響が出ています。

日本の町工場のリーディングカンパニーを目指す

ーー最後に、貴社の今後の展望をお聞かせください。

田村常之進:
2年ぐらい前から、アメリカに進出しています。ある営業畑の方と出会ったことをきっかけにアメリカに進出したのですが、その方から「プロトワークはいい会社なのだから、もっと大企業とつながっていくべきだ」と言われました。最近では大企業の方も弊社に注目し始めてくれているので、これからは大手メーカーさんにもっと弊社について知ってもらうために、営業の人手を増やしていきたいですね。

これは私の個人的な見解ですが、中小零細企業は技術力が高い会社は営業が弱く、営業力がある会社は技術力が低い傾向があると思っています。営業力と技術力、この2つを兼ね備えている会社は、私が知る限りありません。弊社は人手不足や長時間労働など、他社が課題として抱えている悩みをほぼ解消できています。これは、私の経営方針が間違いではなかったということでしょう。

これからは、私の経営方針を他社にも広められるように、ベンチマークとされる企業を目指したいですね。弊社が日本の町工場のリーディングカンパニーとしてリスペクトされる企業になることが、これまで支えてくださった皆様への恩返しになると考えています。

編集後記

リーマン・ショックで味わった悔しさを忘れず、コロナショックの対応に活かしたというエピソードに、田村社長の不屈の精神を垣間見た。自社の技術力と営業力を高めた田村社長率いる株式会社プロトワークが日本の中小企業の指標になる未来が楽しみだ。

田村 常之進/高校卒業後、親類が社長を務める会社に就職。21歳で起業し、1996年に株式会社プロトワークを立ち上げる。