※本ページ内の情報は2026年5月時点のものです。

専業主婦から育児情報誌の自費出版、NPO法人の立ち上げを経て、ITビジネスの世界へ飛び込んだ異色の経歴を持つイーディーエル株式会社の平塚知真子氏。倒産の危機や多額の資金喪失といった絶体絶命のピンチを乗り越え、現在は全国の中小企業に向けたスモールDXの普及に尽力している。父の世代が築き上げた豊かな日本を次世代へつなぐため、「共創・貢献・誠実」を企業理念に掲げ、エコシステム構築に挑む平塚氏に、組織づくりの原点と未来への展望をうかがった。

100人に断られても一人で形にした自費出版と「この指とまれ」の原点

ーー貴社を起業されるきっかけは何だったのでしょうか。

平塚知真子:
私の原点は、専業主婦時代に立ち上げた育児情報誌の出版にあります。子どもと遊び歩いた記録を近場のお出かけ情報誌としてまとめようと思い、「子連れで楽しめるお出かけ情報の冊子を一緒につくりませんか」と100人くらいに声をかけたのですが、見事に全員から断られてしまいました。それでも諦めきれず、一人で原稿を書き上げて自費出版し、生協の受付で一冊500円で販売させてもらったところ、口コミが広がり1年間で2000冊を完売。当初「多くて200〜500冊」と言われていた予測を遥かに上回る反響を呼んだのです。

この経験から、「誰も賛同してくれなくても、まずは形にして見せることで共感した人が集まってくる」という、「この指とまれ」の精神で仲間を巻き込む組織づくりの原点と重要性を学びました。

ーーその後起業に至るまでには、どのような葛藤や壁があったのでしょうか。

平塚知真子:
つくばでの育児情報を扱うNPO活動は順調でしたが、その後に関わった大規模なNPO組織で、理想と現実の乖離、いわば「光と闇」を目の当たりにして深く絶望してしまったんです。「NPOという形では限界があるのかもしれない」と悩んでいた時期に出会ったのが、国立情報学研究所の新井紀子先生でした。新井先生から「将来を考えるなら、しっかり学位(修士)を取ったほうがいい」と背中を押され、筑波大学大学院へ進学しました。そこで学ぶうちに「自分のやりたいことを、自分の責任で形にしたい」という思いが強まり、起業を決意したのです。

ところが、創業して1年も経たないうちに倒産の危機に直面しました。当初はNPO時代の延長で「出版事業」を主軸にしていたため、全く利益が出なかったのです。「このままでは立ち行かない」と危機感を抱き、出版をすっぱりと断念。当時お手伝いしていた新井先生のシステム導入支援や運営代行など、IT活用を軸にした現在の事業へと大きく舵を切ったことで、ようやく会社を存続させることができました。

スモールDXのエコシステムで全国津々浦々の中小企業を救う

ーーそこから現在の事業基盤はどう築かれていったのでしょうか。

平塚知真子:
実は数年前、経営コンサルタントに任せた結果、3000万円近い資金を失い、売上高が半減するという大きな挫折を味わいました。多額の資金を失う苦境に立たされましたが、人に頼るのではなく自力で這い上がらなければならないと猛省しました。「どんなお客様を救うのか(顧客理解)」、「どんな価値があるのか(価値の言語化)」、「どう売っていくのか(販売の仕組み化)」というビジネスの3つの本質を徹底して見直し、仕組みを再構築したのです。これが功を奏し、劇的なV字回復を成し遂げることができました。

ーー現在最も注力されている事業について教えてください。

平塚知真子:
私が今後最も注力していくのは、Googleアプリと生成AIを活用したスモールDXの全国展開です。莫大なコストをかけずとも、週にわずか30分の学習と実践を仕組み化することで、1年後には次元の異なる生産性を実現できる仕組みを構築しました。

これまでは自社のみで支援を行ってきましたが、それだけでは全国の中小企業に届けるスピードが追いつきません。そこで、今年からは「フランチャイズ(FC)展開」へと大きく舵を切ります。自社で徹底的に成果をコミットする「DX業界のライザップ」とするならば、新たに立ち上げた一般社団法人日本10Xデザイン協会を「チョコザップ」のような相互支援のコミュニティとして機能させます。全国のDX支援者を育成する強固なエコシステムを構築し、全国津々浦々の中小企業を救っていきたいと考えています。

Googleパートナーとしての強みと生成AIがもたらす次元の異なる生産性

ーーどのようなツールを活用して付加価値を生み出していきたいとお考えですか。

平塚知真子:
実は、弊社は9年前にGoogleの認定研修パートナーになっています。文部科学省が提唱する「GIGAスクール構想」(※)において、Googleは教育現場でのOSシェアをわずか1年半で43.8%へと劇的に伸ばし、現在では6割を占めるまでになっています。この圧倒的な普及と進化の速さを背景に、私たちの研修では単なるツールの使い方ではなく、Google Workspaceや最新の生成AI「Gemini」を組み合わせて、社内をどう変革するかに焦点を当てています。

実際にこれらのアプリを活用して業務の時短が進むと、年間で1人あたり171時間もの業務時間削減が可能です。ある100人規模の企業様では、研修導入の1年後に残業が30%削減され、現在では40%減にまで達しています。現在はリスキリング助成金を活用した半年間の研修プログラムに注力しており、2026年4月中旬にはウェブサイトをリニューアルし、コーポレートカラーも従来の青から赤へと一新して、新たなフェーズへと挑戦を続けていきます。

(※)GIGAスクール構想:全国の児童・生徒1人1台の端末と高速ネットワークを整備し、ICT(情報通信技術)を活用して「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実現する文部科学省の教育改革。

ーーDX推進の根底にある思いをお聞かせいただけますか。

平塚知真子:
私の父は高度経済成長期に小松製作所で働き、何もないところから「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われる豊かな日本社会を築き上げた世代です。しかし今の日本は国際的な順位も下がって、従来の慣習から脱却できずにおり、その現状に対して申し訳なさと強い危機感を抱いています。

「日本人はもっとできるはず、テクノロジーで必ず人を幸せにできる」という強い確信こそが、今の私を突き動かす原動力となっているのです。ですから弊社は「共創・貢献・誠実」を企業理念として掲げています。単にツールの使い方を教えるのではなく、「5年後、10年後にどんな会社にしたいか」を経営者と共に描き、テクノロジーの力で現場の社員を巻き込みながら会社を変革していく。日本の企業を再び元気にし、次世代へ誇れる社会をつくり上げていくというワクワクする未来への挑戦が始まっています。

この挑戦を加速させるため、私たちは新しい仲間を求めています。これからの時代、生成AIやGoogleのテクノロジーをどう使うかは、まさに「正解のない問い」です。だからこそ、単なるITスキル以上に、テクノロジーで人を幸せにしたいという思いがある方、そして人に教えることや、お客様の成功に伴走することに喜びを感じられる方に来ていただきたい。

Googleパートナーとして凄まじいスピードで進化する最先端の情報に触れ、それを自分の地域や業界を救うために役立てる。少数精鋭の今だからこそ、自分たちの手で仕組みをつくり、社会に大きなインパクトを与える経験ができるはずです。「日本の未来を、自らの手で漕ぎ出していきたい」という志を持つ方と、共に歩んでいけることを楽しみにしています。

編集後記

専業主婦から起業家へ。そして幾多の絶望的危機を乗り越えてきた平塚氏の言葉には、確かな重みと周囲を巻き込む熱量があった。ただのツール導入支援にとどまらず、「この指とまれ」の精神で全国津々浦々の中小企業を救うためのエコシステムを築こうとする姿勢は、まさに現代の日本企業が必要としているカンフル剤だろう。父の世代が築いた日本への敬意を胸に、「DX業界のライザップとチョコザップ」で社会の底上げを図るイーディーエルの快進撃から目が離せない。

平塚知真子/1968年生まれ。早稲田大学卒業、筑波大学大学院修了(教育学修士)。出版社勤務、専業主婦を経て、2006年にイーディーエル株式会社を設立し、代表取締役に就任。Google for Education 認定トレーナーとして活動し、NHK Eテレに出演。Googleより5年連続で感謝状を受贈。関連著書は累計6万部突破。日本商工会議所との連携や講演を通じ、日本のスモールDXを草の根から牽引している。