
1984年の創業以来、翻訳会社からIT資産管理、クラウドソフトウェア開発、そしてドローン事業へと姿を変えてきたクオリティソフト株式会社。その根底には「地方に雇用を生み出し、日本を豊かにする」という40年前から変わらない強烈な志がある。和歌山県白浜町へ本店を移し、多様な人材が交わる拠点構想を掲げる同社。一見、関連性のない多角化事業を1本の線でつなぐ指針と、次世代へ向けた自律型組織への挑戦について、同社の代表取締役CEO、浦聖治氏にうかがった。
豊かな日本を取り戻す 27歳で感じた「地方の貧しさ」への違和感
ーー地方創生への志が芽生えた創業の原体験について教えてください。
浦聖治:
27歳でアメリカから帰国した際、「なんと日本は貧しい国だろう」と衝撃を受けたことがすべての原点です。私は20代の頃、メーカーに勤めており、アメリカに赴任していました。そこで2年半を過ごし、世界最先端の環境に触れたのですが、帰国したときに日本の地方の現状に強い違和感を覚えたのです。
和歌山県のような地方には豊かな自然環境があるにもかかわらず、雇用がないために都市部へ人が流出してしまっています。豊かな地方に住むことこそが、日本が世界一豊かである価値を示すことになるはずです。そのためには地方に雇用をつくらなければならない。このときの課題意識こそが、40年経った今も変わらない私の執念です。
ーー創業後に実行した最大の変革は何でしょうか。
浦聖治:
受託事業から自社製品を展開するIT企業へと事業モデルを転換したことですね。下請けという受託産業の構造から脱却し、自社で生き残る道を切り拓くためでした。当初はDTPを用いた翻訳を手がけるなど、最先端の機器向けの仕事をしていました。しかし、印刷会社の下請け、さらにその下請けという厳しい階層構造の底辺では、自社の将来がないと強い危機感を抱いたのです。
そこで、アメリカのソフトウェア「キーサーバー」の販売へと舵を切りました。さらに、そのソフトをネットワーク経由で大量のPCへ一括インストールできる自社独自の仕組みを開発したのです。その後も定額制やクラウドの時代を見据え、ニーズに合わせて自社製品を進化させてきたのが、私たちの40年続く生存戦略です。
南紀白浜から事業が湧き出る「INNOVATION SPRINGS」と多角化の真意

ーー次なる戦略はどのようなものでしたか。
浦聖治:
事業展開の拠点として、和歌山県の白浜町へ本店を移しました。白浜を、新しいアイデアや事業が次々と湧き出る「源泉」にするためです。アメリカのシリコンバレーのように、私たちは白浜温泉にかけて「INNOVATION SPRINGS」をつくりたいと考えました。単なる移転として捉えているわけではありません。多様な人が集まり、交流する場として再定義するという不退転の決意で、10年前に登記上の本店所在地を移しました。
実際、社員食堂を地域の方や県職員の方々へ開放し、人が集まる仕組みをつくっています。人が集まれば、そこから不思議と新しいものが生まれていくのです。
ーー多角的・多層的な事業展開をされていますが、その意図を教えてください。
浦聖治:
私たちの事業は、大きく分けて二つの車輪で構成されています。一つは、PCセキュリティやクラウド基盤といったITの車輪。もう一つは、ドローンによる防災支援や地域の食を届けるEC(電子商取引)といった、より人々の生活や地域課題に密着した事業の車輪です。
これらは一見するとバラバラに見えるかもしれませんが、実は「地方の課題を解決し、どこでも働ける環境(アドレスフリー)をつくる」という一つの目的で、一本の線につながっています。私たちは、PCを守るエンドポイントセキュリティをクラウド経由で提供することで、場所を問わず安全に働ける環境を実現してきました。この強固なITの土台があるからこそ、ドローンによる防災や地域の特産品販売といった、現場に即した地方創生事業を強力に下支えできる構造になっているのです。この両輪を回すことこそが、日本を豊かにするための私たちのスタイルです。
信用資本と「マカバ」が牽引 ワイワイガヤガヤ楽しむ組織づくり
ーービジネスパートナーから長く厚い信頼を得ている最大の理由は何だとお考えですか。
浦聖治:
「逃げない、裏切らない」という律儀な姿勢を貫いてきたからでしょう。私たちはパートナー企業を何よりも大切にしており、目先の利益にとらわれず、長期的な信頼関係を優先しています。
たとえば、自社の商品を販売してくださるパートナー企業が営業活動を重ねて受注をする、という段階で他社からより安価な提案が入り競合してしまうことがあります。そのような場面では、パートナー企業が確実に受注できるように、弊社も条件面などで調整を行い全力で支援します。このように、「律儀であること」の積み重ねが信用資本となり、最大の競争優位性になっているのだと思っています。IT業界という世界で25年以上事業を展開し、地方創生などの新たな分野に挑戦し続けられるのも、この強固な信頼関係があるからこそです。
ーーそうした組織の価値観は、社内へどのように浸透させているのでしょうか。
浦聖治:
「ポラリス・マカバ」という独自の指針を通じ、組織全体に根付かせています。私が社員に求めているのは「素直・誠実・挑戦」という3つのシンプルな軸です。素直でなければ成長できず、誠実でなければ喜ばれません。そして挑戦するからこそ新しいものが生まれます。この軸は、経営陣から新卒社員、グローバルメンバーまでをつなぐ弊社の共通言語です。
また、仕事のスタイルとして「ワイワイガヤガヤ」と楽しむ文化を大切にしています。多様性の中で遊び心を許容することが、イノベーションを生む土壌になるからです。
ーー貴社の人材育成についてお聞かせください。
浦聖治:
多角化経営を支える「チャレンジ48」という制度を導入しています。年間48時間を、自分の本業以外の仕事や地域活動のボランティアに充てられる制度です。社員はどうしても日々の自分の業務に縛られがちになります。しかし、自ら手を挙げて別の事業や活動に触れることで、多角化経営を支える広い視野を持った人材が育つのです。この制度の成果もあり、現在の組織状態には非常に自信を持っています。「足りないピースはない」と言い切れるほど、強固なチームが完成しつつあります。
「会社はクラウドにある」 次世代とともに描くエンパワーメント
ーー採用強化を推し進める中で、今後はどのような人物像を求めていますか。
浦聖治:
白浜町から世界を獲りにいく野心と、それを面白がる遊び心を両立できる方ですね。今、弊社は大きな転換期を迎えています。私は新規事業の創出に注力し、主力のIT事業は次世代を担う若手世代へどんどん権限委譲していきたいと考えています。同時に、若手だけでなく50代の経験豊富なベテラン層の力も非常に期待しています。弊社では多様なバックグラウンドを持つ人たちが、それぞれの強みを発揮できる環境が用意されています。
ーー最後に、次の100年に向けた組織としてのビジョンを教えてください。
浦聖治:
「会社はクラウドにある」という考え方を追求し、場所の制約を超えた新しい働き方を提示することです。どこにいようと会社の機能にアクセスし、誰もが自律的に力を発揮できる「エンパワーメント」を実現します。私がこれまで好奇心を源泉にして広げてきた事業のレールを、次は若い世代がどう走っていくのか。彼らが活躍するためのガイドラインを敷き、エンパワーメントしていくことが、私の今の使命だと思っています。
編集後記
70代を迎えてなお、誰よりも好奇心にあふれた瞳で新規事業について語る浦氏の姿が印象的だった。無秩序にも見える多角化戦略は「素直・誠実・挑戦」というシンプルな軸で強固に支えられており、困難から逃げない律儀さが同社の信用資本となっている。自身の役割を冷静に見極め、次の世代へ思い切って権限を委譲していく「エンパワーメント」の姿勢は、自律型組織の理想形といえるだろう。場所の制約を超え、白浜町から世界を見据える同社の進化に期待が高まる。

浦聖治/1952年、和歌山県串本町生まれ。和歌山工業高等専門学校電気工学科を卒業後、パイオニア株式会社に入社。1984年にクオリティソフトの前身である翻訳会社クオリティサービス株式会社を設立し、その後、ソフトウェア製品の開発や販売、クラウドサービスを展開。近年はIT事業の他に、防災災害対策ドローン、ドローンプログラミング教材、地元産の自然食品の販売・ECサイト運営などの新規事業創出にも尽力している。