※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

ネット証券が主流となり、「対面営業」が希少な存在となった今も、広田証券株式会社は、あえて“人が会う金融”を貫いている。創業100年を超える同社の最大の強みは、顧客一人ひとりに専任の担当者がつき、直接会って向き合う「対面営業」と、1株から株式を売買できる「単元未満株取引」という独自のサービスにある。伝統を重んじる一方で、近年はプライベートバンキング室の設立や「わんこフェスタ」への出展など、新たな顧客層の開拓にも果敢に挑戦している。長きにわたり築き上げてきた信頼を礎に、次の100年を見据える同社の代表取締役、廣田文孝氏に話を聞いた。

飛び込み営業で学んだ顧客との信頼関係の重み

ーー貴社に入社されるまでの経緯をおうかがいできますか。

廣田文孝:
大学卒業後は、大阪証券金融株式会社(現・日本証券金融株式会社)に入社しました。社名に「証券」がついていますが、信用取引の際に証券会社へ資金や株券を融通するのが主な業務で、銀行に近い業態と言えます。同社では、担保管理や証券会社からの申し込みを受ける部署を経験しました。

その後、リーマン・ショックが発生し、家業である広田証券株式会社に戻るきっかけとなりました。入社後は半年ほど、社内で自己資金を運用するディーリング(※)業務や、社内向けレポートを作成する投資情報室の業務を学びました。その後、アメリカ語学留学を経て、帰国後は当時横浜にあった営業所で1年間、営業を担当しました。

(※)ディーリング:証券会社や銀行などで、自社の資金を使って株式、債券、為替などの売買取引を行い、利益を追求する業務。

ーー営業時代で特に印象に残っていることはありますか。

廣田文孝:
当時は自転車で担当エリアを回り、飛び込み営業の日々でした。景気が悪い時期で、インターホンを押しても門前払いが当たり前。なかなか話を聞いてもらえませんでしたが、そのおかげで、一つひとつの口座開設の重みやお客様になっていただくことの大切さを学びました。

営業所時代、あるお客様に大変親しくさせていただき、「廣田さんに任せておけば大丈夫だ」という言葉をかけていただいたことは、今でも心に残っています。また、「お世話になっているから」、お酒をプレゼントしていただくなど、温かな心づかいをいただくこともありました。お客様との信頼関係を築くことの重要性を、肌で感じた貴重な経験でした。

対面営業と個別株提案による優位性

ーー改めて、貴社の事業概要と、他社にはない強みや特徴についてお聞かせください。

廣田文孝:
弊社は金融商品取引業を営んでおり、主な事業は3つあります。1つ目はお客様への資産運用のご提案を行う「営業」、2つ目は会社の資産を運用する「ディーリング」、そして3つ目は、他の証券会社から注文を受け、取引所へ取り次ぐ「株式取次」です。個人のお客様を中心に、資産運用のご提案でいただく手数料や、株式の取り次ぎによる手数料が収益の柱となっています。

弊社の強みは、お客様と直接お会いしてご提案する「対面営業」を基本としていることです。口座を開設いただいたお客様には取引の規模にかかわらず必ず1人の担当者がつきます。何かあったときにすぐに相談できるパートナーとして、お客様をサポートできる体制を整えています。

また、昭和23年(1948年)から続けている「単元未満株取引」も大きな特徴です。通常、株式市場では100株単位でしか売買できませんが、弊社では1株から売買できるサービスを提供しています。以前は「端株(はかぶ)の広田」として知られていました。長年にわたり、少額から投資を始めたいというお客様のニーズに応え続けてきた、弊社の歴史そのものともいえるサービスです。

ーー社長就任後に着手された改革と、現在特に注力されている取り組みについてお聞かせください。

廣田文孝:
就任後、最初に取り組んだのは「何を大切にする会社なのか」を言語化することでした。ミッションやビジョンの策定と浸透に加え、ホームページのスマートフォン対応や情報システム部門の立ち上げ、営業日報のシステム化など、業務効率化を含めた環境整備を行いました。

また、将来を見据え、新規顧客の開拓に力を入れています。現在、お客様は70代の方が中心であるため、より若い世代との接点を増やしていきたいと考えています。新規顧客開拓の一環として「プライベートバンキング室」を立ち上げ、今までの提案ではアプローチできなかった層に、資産運用やリサーチなど、これまでとは異なる切り口の提案を行っています。また、法人や信用金庫との連携を開始し、新たな顧客開拓を進めています。

さらに、既存の枠にとらわれない活動も展開しています。最近では、ペットイベントである「わんこフェスタ」にブースを出展しました。これは今までアプローチしてこなかった層と、LINE登録などを通じて接点を持つことが目的です。

また、他社との連携も進めており、なかのアセットマネジメント株式会社との協業では、長期分散積立投資の文化を伝える啓蒙活動に注力しています。

株式売買手数料型からのストック型への転換

ーー今後の事業戦略や、目指している企業の姿について教えてください。

廣田文孝:
整えた基盤の上でビジネスモデルの変革を進めており、従来の株式売買手数料を中心としたモデルからの転換を図っているところです。

目指すのは「ストック型」への転換です。以前視察したスイスのプライベートバンクが、顧客の「資産を守る」ことに徹することで、管理手数料という継続的な収益(ストック)を得ていることを知りました。この考え方を根幹に採用し、お客様の資産をお預かりし管理することで、継続的な収益を確保できるモデルへと転換を進めています。お客様の長期的な資産形成に貢献するため、今後も海外の知見を積極的に取り入れていく方針です。

弊社のミッションは「金融×チャレンジ=ワクワク」です。社員がワクワクしながら働くことが、お客様へのより良いサービス提供につながると信じています。今後は他業種と連携した新商品開発などにも挑戦し、証券会社の枠にとらわれない金融総合サービス業を目指します。

編集後記

創業100年を超える歴史の中で、同社は一貫して「顧客の資産を守り抜く」という信念を貫いてきた。その姿勢は、顧客一人ひとりに担当者がつく対面営業や、少額から投資を可能にする単元未満株取引という独自サービスに強く表れている。同社が掲げる「金融×チャレンジ=ワクワク」のミッションのもと、基盤を固めつつ、ストック型ビジネスモデルへの転換や、若年層に向けたユニークな市場開拓も進めている。「伝統」という強固な土台の上で新しい価値創造に挑み続ける姿勢は、同社が次の100年を築く原動力となるだろう。

廣田文孝/1983年大阪府生まれ。2006年関西学院大学経済学部卒業後、大阪証券金融株式会社(現・日本証券金融株式会社)に入社。4年弱の勤務を経て2010年に広田証券株式会社に入社。2011年にカブドットコム証券株式会社(現・三菱UFJ eスマート証券株式会社)に1年間出向。2019年、広田証券株式会社の代表取締役に就任。地域密着と富裕層向けプライベートバンキング事業の両立による新たな証券モデル構築を推進する。