※本ページ内の情報は2025年8月時点のものです。

株式会社ローランズは、生花や観葉植物の販売を中心としたフラワー事業と、障がい者雇用に特化した就労・雇用支援事業を展開する企業だ。社員の約7割が障がいや難病と向き合いながら働く同社は、工程を細分化した独自の業務設計により、1人ひとりが専門性を発揮できる環境を構築している。「みんなみんなみんな咲け」のスローガンのもと、誰もが活躍できる社会の実現を目指す代表取締役の福寿満希氏に話をうかがった。

アレンジメント教室での体験が「やりたいこと」を教えてくれた

ーー起業に至るまでの経緯を教えてください。

福寿満希:
私は新卒でスポーツマネジメントを手がける会社に入社し、2年ほど働いていました。落ち込んでいる時や悩みがある日に、通勤途中にあるお花屋さんの前を通るとフッと心が軽くなった経験があります。それから、仕事が終わった後にお花を1輪買って帰るようになり、それがきっかけで花が好きになり、会社近くの花のアレンジメント教室に通い始めました。花に触れる中で、止まった心が再び動いていく感覚を覚えています。

小さかったつぼみが徐々に咲いていくのを見たり、植物の水が減っている様子を見たりして、たしかに生きているのだなと感動しました。循環し続ける命に触れることに魅力を感じ、次第に花にかかわる仕事をしたいと思うようになっていきました。

そうして今後のキャリアについて考えていたときに、当時お世話になっていた経営者の方から、「やりたいことに気づいたのなら、大切なものが増える前に、早めに動きなさい」とアドバイスをいただき、そこで起業を決意。23歳のときに株式会社ローランズを設立しました。

花を通じて障がい者の社会参加を促進する3本柱の事業戦略

ーー貴社の事業内容について教えてください。

福寿満希:
現在、弊社は3つの事業を展開しています。1つ目の花屋事業では、企業向けと、個人向けで原宿、晴海及び天王洲にある店舗やオンラインストアを通じて生花や観葉植物のギフトを販売しています。

特に天王洲の拠点は2025年7月に「LORANS Bloom Factory -Green-」としてオープンした場所です。天王洲の店舗では、会社が大切にしていることを社員やお客様に伝えていくために、ローランズのバリューに定めている言葉が空間に散らされています。仕事中にちょっと落ち込んでしまう時や悩むこともあると思いますが、そんな時にそっと背中を推してくれる言葉たちがあるような空間作りにこだわって作りました。

ローランズ天王洲店は、企業向けレンタルグリーン事業の旗艦店で、拠点では、花やグリーンの商品を制作する職人の様子を覗くことができます。さらに、企業向けのブライダル装花、カフェの運営まで幅広く手がけ、多くの方に障害な難病と向き合う人たちが「こんな素晴らしい商品を作り、花が咲ける」ということを商品やサービスを通じて伝えられるよう取り組んでいます。

2つ目の就労支援事業では、就労継続支援A型事業所を運営し、一般的な働き方が難しい方々に花の仕事を通じたトレーニングの機会を提供しています。

そして3つ目の事業として、障害者雇用をさらに広げるための雇用支援事業も展開しています。その一つとして、中小企業を対象としたウィズダイバーシティ有限責任事業組合(WDLLP)では、ローランズが事務局業務を担い、障害者雇用の促進に向けた組合運営をしています。WDLLPは、障害者雇用を促進したい中小企業と、障害者雇用のノウハウを持った障害福祉団体が企業の垣根をこえて障害者雇用促進事業を行う、日本で初めて誕生した有限責任事業組合(LLP)です。

今、障害者の法定雇用率は2.5%(40人に1人)ですが、これが2026年7月から2.7%(37.5人に1人)にあがることが決まっています。経営資源が限られている中小企業は、業務の切り出しの検討や障がいがあるスタッフへのサポート体制を作るためのリソース確保が課題となり、障害者雇用へのハードルは高いものになっています。

そこで、「障害者雇用は1社でやらない。みんなでやる!」というスローガンを掲げ、大企業の特例子会社モデルを応用し、中小企業が地域の障害者福祉事業所への業務発注を通じ、障害者雇用をつくっていく新たな仕組みをつくりました。中小企業は業務発注を通じて、働く障害のあるスタッフとの交流が生まれ、障害者雇用への様々なハードルが下がることが期待できます。組合に参加している企業のなかには、自社雇用(企業が障害者を直接雇用すること)へつながった事例もあります。

現在、組合の参加企業は16社(2025年4月1日現在)で、参加企業も日本一です。組合全体での実雇用率は6.63%で、法定雇用率の約2.6倍です。このWDLLPの仕組みについては2025年2月に、東京都庁で開かれた「東京の雇用就業を考える有識者会議」でもお話させていただくなど、行政からも中小企業の障害者雇用を促進する一つの仕組みとして注目いただいています。

これらの事業によって、障がいのある方々が花を通じて社会参加し、周囲の人々も明るい気持ちになれる環境を目指しています。

ーー積極的に障がい者雇用を始めたターニングポイントをお聞かせください。

福寿満希:
起業から3年ほど経ったころに、就労移行支援事業所の方から「障害者向けにお花のワークショップを開催してほしい」というご依頼をいただいたことがきっかけです。私たちが制作したアレンジメントの見本をお見せして、障害と向き合う皆様に制作してもらったのですが、短い時間で見本通りに複製できる方がいれば、花の名前や花言葉をすぐに記憶できる方がいたり、それぞれ得意なことが異なって、たくさんある事に気づきました。

それと同時に、事業所の方から、利用者の方たちがなかなか就職できない現状を教えてもらい、「なんて勿体無い!ローランズでぜひ働いて欲しい」と思ったのです。

それまでは業務の最初から最後までを1人で担当するというやり方でしたが、業務構造を見直し、すべて1人で行うのではなく、工程を細かく分解して分業し、それぞれの工程に特化した人材を育成していくという方針に切り替えました。こうすることで、障害と向き合うスタッフたちが活躍できる場をつくることできました。現在は、スキルアップのために、ほかの工程に挑戦できる機会も設け、引き算ではなく足し算の考え方で仕事の幅を増やしていけるようにしています。

新商品の開発と他社コラボで広がる障がい者雇用の可能性

ーー現在はどのような部分に注力していますか?

福寿満希:
現在力を入れているのが、ドライフラワーを活用した新商品の開発です。生花を用いた商品は、納期に追われる部分があり、障害と向き合うスタッフにとって参加のハードルが高い面があります。そこで、私たちは時間に余裕を持って制作できるドライフラワーに着目しました。ドライフラワーは作り置きが可能なため、無理のないペースで作業できますし、万が一、作業の行程で花が折れて短くなってしまっても、短いお花を使うボックス型のアレンジメントに活用できるので、スタッフたちは失敗を恐れずに挑戦できます。

現在は、ローランズのドライフラワー商品を委託販売いただく、外部企業とのコラボレーションも進めており、より多くの方に私たちの商品と取り組みを知っていただけるよう努めています。

ーー今後の展望について聞かせてください。

福寿満希:
現在の日本では、障害があることによって、働きたい気持ちがあっても機会に恵まれない方が数多くいらっしゃるのが現状です。私たちはこの状況を変えるために、今後もより多くの雇用機会を創出していきたいと考えています。そして、将来的には、弊社で経験を積んだ方々がさまざまな場面で活躍し、「ローランズ出身の人たちって素敵な仕事をするよね」と言われるような社会を目指しています。

そのためには、私たちと一緒に新しい仕組みを作り上げていく仲間がもっと必要です。新しい仕組みや考えが広がるよう新たなアイデアを生み出し、一から形にしていく挑戦が好きな方に来ていただけると嬉しいですね。社会課題の解決と共に、事業を成長させていくことに関心がある方々と「みんなみんなみんな咲け」が実現する社会づくりに挑戦していきたいと思います。

編集後記

「できないこと」ではなく「できること」に焦点を当てる福寿社長の視点が印象的だった。ローランズは、就労・雇用支援事業を展開しているが、自社が展開する事業でも障害者雇用を実際に進めているため、障害者雇用を進めたいが実際にどのように取り組めばよいのかわからないという中小企業のよきロールモデルになるだろう。今後、ローランズが社会でどのような花を咲かせるのか、今から楽しみでならない。

福寿満希/1989年、石川県生まれ。2013年に株式会社ローランズを創業。「みんなみんなみんな咲け」をスローガンに掲げ、障害者雇用に特化した花屋を運営。2019年には、ウィズダイバーシティ有限責任事業組合を設立し、中小企業の障害者雇用促進にも取り組んでいる。