近年、ゲノム創薬(※1)の分野において、RNA(※2)編集技術が注目されている。RNA編集技術は遺伝情報のおおもととなるDNAを操作しないため安全性が高いなどのメリットがあるからだ。
エディットフォース株式会社は、独自のRNA編集技術「PPRプラットフォーム技術」を活かして新薬の開発に取り組んでいる。2019年より同社の代表取締役社長 CEOを務める小野高氏に、社長に就任した経緯や事業の内容、今後の展望について話をうかがった。
(※1) ゲノム創薬:DNAの遺伝情報のデータを活用して、新薬を開発する方法のこと。
(※2) RNA:Ribonucleic Acid(リボ核酸)というDNAによく似た物質。DNAに記録された塩基配列を、細胞の核の中で写しとる働きを持つ。
ヘッドハントの投資会社を通じて入社
ーー社長のご経歴をお聞かせください。
小野高:
大学院卒業後の2002年に株式会社そーせい(現ネクセラファーマジャパン株式会社)に入社して、研究企画開発に従事しました。当時そーせいでは開発中の薬の候補やすでに販売されている薬を別の適応症に利用するプロジェクト(Drug Reprofiling)を手がけており、薬の種の権利を持つ製薬会社との交渉や、薬の特性を再度検討するために別の標的に対してスクリーニングする技術を持つバイオテックとの提携など、さまざまな関係者の間の橋渡しをしながらプロジェクトを推進し、その後は他の開発プロジェクトに関する提携交渉も担当しました。あるとき、バイオ関連企業に投資をしていた伊藤忠商事から、「手伝ってくれないか」というお話をいただき、同社に転職しました。その後、同社の投資先だったソレイジア・ファーマの事業開発や経営に携わり、最終的に弊社、エディットフォースに入社しました。
ーーどのような経緯で貴社の社長に就任したのですか。
小野高:
私は2018年に取締役COOとして弊社に参画しました。弊社はもともと九州大学の中村崇裕教授と、現CTOの八木祐介、化学系の商社であるKISCO株式会社が、2015年に立ち上げた会社です。創業時に私は参画しておらず、中村教授が社長を務めていました。研究開発が進展するにつれ事業の旗振り役が必要となり、ヘッドハンティングの投資会社を通じてお誘いいただいたことが、参画のきっかけです。参画から1年後の2019年に、中村教授からバトンを受けとって社長に就任しました。
患者さんに薬を届けるため、社員と一緒に業務に取り組む
ーー社長就任後はどのようなことを意識してきましたか。
小野高:
弊社は大学発のベンチャーということもあり、私の入社当時は研究志向の強い社風でした。そこで、私は、産業に近い医薬品の開発に集中するための意識付けを行ってきました。できるだけ多くの社員の声を聞くようにし、社員だけでなく多くの株主の意見もとり入れながら、常に全体のバランスを見て調整することを心がけています。
ーーどのようなことに仕事のやりがいを感じますか。
小野高:
自社独自のRNA編集技術という他社にはないツールを使って、研究開発をコントロールできるところが面白いですね。日々いろいろな出来事があり、一つひとつ解決していかなくてはいけない問題などもありますが、社員と一緒に業務を進めていくところにやりがいを感じています。
RNA編集技術の特許権を持っていることが最大の強み
ーー創薬系のベンチャーとしての目標を教えてください。
小野高:
弊社の事業の最終的な目標は「今まで治らなかった病気の薬を開発して患者さんに届ける」ということです。そのために、弊社独自のRNA編集技術を最大限に活用して、研究開発を進めています。DNAを編集する技術はすでにアメリカなどで盛んに開発されていますが、RNAを編集できる技術を持つ会社はまだ少なく、競合が少ない状態です。
ーー貴社ならではの強みを教えてください。
小野高:
前述のRNA編集技術に関して、私たちは特許権を持っていることが最大の強みです。弊社のRNA編集技術を使う場合は、まず私たちにご相談いただくことになります。RNA編集技術は農業など医薬以外の分野にも応用できますが、ニーズが高いので現状は医薬の分野に集中して取引を行っています。
即戦力になれる人材を採用し、研究開発に注力したい!
ーー今後はどのような分野に注力していきたいと考えていますか。
小野高:
研究開発に全力を注ぎたいと考えています。将来的に薬の製造・販売をするにあたっては、大手製薬会社の製造技術が必要です。今後は大手製薬会社を中心に、さまざまな企業との取引・提携を増やしていきたいですね。
ーー最後に、貴社で働きたいと考えている方に向けてメッセージをお願いします。
小野高:
弊社では、製薬会社で薬剤の研究開発の経験がある方など、即戦力になれる人材を求めています。業務を前に進めることが優先されるので、チャレンジ精神があり、世界と渡り合っていくことを面白いと思う方は、ぜひ弊社の求人に応募してください。1人でも多くの患者さんに薬を届けられるように、私たちと一緒に頑張っていきましょう。
編集後記
取材中、小野社長が何度も「患者さんへ薬を届ける」という言葉を繰り返したことが印象的だった。DNA/RNA編集による創薬は、これまで治療薬がなかった患者さんにとって大きな希望となる。患者さんたちの未来を明るく照らしたいと願う小野社長の思いが伝わり、温かい気持ちになった取材であった。
小野高/1974年、山梨県生まれ。東京大学大学院博士課程修了(薬学)。株式会社そーせい(現ネクセラファーマジャパン株式会社)に入社し、2004年より事業開発部長に就任。2009年に伊藤忠商事株式会社へ入社し開発・調査部にてプロジェクトマネージャーを務め、2013年よりソレイジア・ファーマ株式会社事業開発部長を兼任。2018年より取締役COOとしてエディットフォース株式会社に参画し、2019年に同社代表取締役社長に就任。