※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

シンガポールを拠点とするフィリップ証券は、アジアでのビジネス展開を加速させ、既存の証券業務に加え、ブロックチェーン技術を用いたデジタル証券化を推進。理系学部から金融業界に飛び込んだ永堀真氏は、投資家が企業を直接支援する直接融資に魅力を感じ、多くの困難を乗り越えてきた。彼の歩みと、フィリップ証券が描く「アジアのゲートウェイ」としての未来、新たな金融市場への挑戦について話をうかがった。

理系から金融の世界へ直接金融への情熱が原点

ーー永堀社長のこれまでの経歴をお聞かせください。

永堀真:
大学、大学院と理学部に在籍しており、多くの友人たちは研究者になる道を選びました。しかし、私は何かをつくり上げることや、経済自体にも強い興味があり、さまざまな本を読み進めるうちに「金融」という分野に出合いました。

中でも、銀行や保険会社が預金や保険料を集め、彼らの裁量で投資を行う間接金融に対し、投資家が「この企業を応援したい」と共感し、自らのお金を会社に託す「直接金融」に強く憧れを抱いたのです。この思いが、私の金融業界でのキャリアの出発点です。

ーー社長業を務める中で、これまでの経験がどのように活かされていると感じますか。

永堀真:
これまでの経験が活きていると感じる点は、大きく二つあります。一つは、「一見不可能そうに思えることでも、注意深く観察したり、多くの人と意見を交わしたりすることで、その大半は実現可能になる」ということです。

野村證券時代にも感じていたことですが、弊社に入ってからも、リソース不足や経験の浅さなど、会社ならではのさまざまなハードルに直面してきました。しかし、私自身の強い思い、社員との密なコミュニケーション、そして社外の方々との対話を通じて、そうしたハードルは乗り越えられることを実感し、実現してきました。

もう一つは、「辛い時でも、自分自身で勇気と信念を持って突き進んでいくことの重要性」です。野村証券時代ではニューヨークで仕事をする機会があったのですが、英語が全く話せなかった私が、「ウォール街でビジネスをする」と宣言したことは、段階を踏まずに一番高い目標に飛び込んだようなものでした。

しかし、そうした「有言実行」の姿勢が、今でも私の行動原理になっています。孫正義さんの著書である「焦燥〜俺はまだ100分の1も成し遂げていない」という言葉に私は共感しており、今の到達点は目指す場所の100分の1以下だと感じており、常に向上心を持っています。
(ご参考:孫正義の焦燥 俺はまだ100分の1も成し遂げていない | 大西 孝弘 |本 | 通販 | Amazon)

ーーフィリップ証券の組織のトップとして、社員の方々にはどのようなメッセージを伝えていますか。

永堀真:
私が常に社員に伝えている理念は「わかる、かわる」です。これは、物事を一歩踏み出す時や、相手との信頼関係を築く上で最も大切なことです。

まず相手を「わかろう」と本気で努めること。相手がどのような人生を歩み、今どのような課題を抱えているのかを深く理解する姿勢が不可欠です。それによって初めて、その人に対してどのような形で貢献できるかという思いが生まれ、そして、その関係性が「かわっていく」のです。

この理念は、お客様や競合他社だけではなく、隣の席の同僚にも当てはまります。「あの部署がダメだから会社の収益が上がらない」と考えるのではなく、まずはその部署の人々と本気で膝を突き合わせて話し合うこと。そうすれば、お互いを理解し、「一緒にやっていこう」という前向きな変化が生まれます。会社の発展を願う思いは皆同じはずですから、互いを尊重し、分かり合うことで、本当に強いチームを築くことができると信じています。

「アジアのゲートウェイ」として目指す唯一無二の証券会社

ーー改めて、貴社の事業内容と強みについて教えてください。

永堀真:
弊社は多岐にわたる事業を展開する証券会社です。お客様と直接向き合う対面営業部門では、富裕層の方々に対し、金融商品のご提案だけでなく、不動産取引など、トータルなウェルスマネジメントサービスを提供しています。

法人営業部門では機関投資家への情報提供と日本株の執行サービスを行っています。投資銀行部門では、主にスタートアップ企業の上場支援や、アジアへの事業展開サポートも手掛けております。

オンライン事業部門では、個人のお客様向けに先物、CFD、FXなど多様な金融商品をワンストップで取引できるサービスを提供しています。これらの事業全体が、アジアを中心としたグローバルでの連携という命題のもとに動いています。

ーー特に注力されている事業について詳しくお聞かせいただけますか。

永堀真:
デジタル技術を用いた証券化こそが、フィリップ証券に来て最も実現したかったことの根幹です。その第一号として、私たちは映画のデジタル証券化を実現しました。

投資家の方々には、試写会や完成報告会への参加、監督との交流といった体験を提供し、映画の成功によってリターンを得られる仕組みです。この取り組みの素晴らしい点は、投資家が単なる出資者ではなく、映画の成功を共に願う「真のサポーター」となることです。

実際に、ポスター配布に協力したり、知人へ映画を薦めたりと、自発的にプロモーション活動に参加してくれる投資家の方々が多数現れました。これは、既存のマス広告では得られない、つくり手と応援者が直接繋がる新たなプロモーションの形であり、映画業界をはじめとするさまざまな分野で活用できる可能性を秘めています。

日本の伝統芸能をアジアで広めたり、新進気鋭の画家を応援したり、コンサートを企画したりといった、これまで実現が難しかった多様なプロジェクトが、このデジタル証券によって可能になります。

投資家は単なる傍観者ではなく、そのプロジェクトの「つくり手」の一員として参加できるのです。ブロックチェーンを使ったデジタル証券であれば、技術上、24時間365日リアルタイムで取引や投票が可能になるため、たとえばコンサート中に「次に歌ってほしい曲」を投票で決め、その場で演奏するといった、よりインタラクティブな体験も提供できます。

これにより、全ての方が、エンタメの世界に深く関わり、自らがプロデューサーのように感じられる世界です。

社員の誇りと企業の成長を追求する未来戦略

ーー永堀社長の描く今後のビジョンと、その実現に向けた成長戦略についてお聞かせください。

永堀真:
フィリップ証券は「アジアのゲートウェイ」として、唯一無二の存在になりたいと考えています。私自身がこの会社を本当に大好きで、選んで入社したように、全社員にも「この会社を選んでよかった」と思ってもらいたい。そして、ここで働くことに誇りを持てる、そんな会社であり続けたいと強く願っています。

さらに、アジアが今後数十年で確実に成長していく中で、弊社は他社を圧倒するほどの成長を遂げると確信しています。そして、日本の事業会社やアジアの投資家・事業会社が日本とのビジネスコラボレーションを考える際に、「まずはフィリップ証券に聞いてみよう」と思ってもらえるような存在になりたいですね。

そのためには、知名度や事業内容、処遇といった面を改善していく必要があるでしょう。この壮大な目標に向けて、全社一丸となって邁進していきます。

編集後記

デジタル証券化の取り組みは、これまで誰もがアクセスできなかった領域への投資を可能にし、映画や伝統芸能といった多様な分野に新たな価値と可能性をもたらすだろう。永堀社長が掲げる「わかる、かわる」の理念と、それを体現する社員への思い、そしてグローバルな人材交流への熱意は、フィリップ証券が単なる金融機関に留まらない、未来を創造する唯一無二の企業へと進化していくはずだ。

永堀真/1973年生まれ。東京大学理学部・大学院修了後、1999年野村證券入社。株式トレーディング業務、ニューヨーク支店での米国株式トレーディング業務を経て、2012年日本株電子取引業務責任者。2014年チャイエックス・ジャパン代表取締役社長、2017年モルガン・スタンレーMUFG証券電子取引部門責任者を歴任。2021年7月よりフィリップ証券株式会社代表取締役社長に就任し、金融業界の新たな未来を拓いている。