※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

1975年に創業した日本ジッコウ株式会社は、他社に先駆けてコンクリートの劣化問題に着目し、コンクリートの腐食を防ぐ技術の開発と補修・改修に関する品質規格の確立に着手してきた。2014年に父から経営を引き継いだ代表取締役社長の佐藤匡良氏に、インフラを支える「コンクリートの維持・補修」について同社の取り組みを聞いた。

つくる時代から守る時代への転換を先取りする技術開発

ーー貴社は創業当時からコンクリート施設の維持や補修に力を入れているのでしょうか?

佐藤匡良:
弊社は、建設ラッシュの時代の1975年に神戸で創業し、品質の良いコンクリートをつくるための化学混和剤を販売していました。業績は右肩上がりでしたが、創業者は建設ラッシュがいつまでも続くとは考えていなかったので、事業の柱としてコンクリートの劣化対策に着目していました。弊社がコンクリート構造物、なかでも下水処理施設、浄水処理施設といった社会インフラの補修事業に移行したのは、創業から間もない時期だったのです。

1978年にはコンクリートの防水防食工法を開発し、1984年にはコンクリート構造物の表面処理技術の共同開発を行い、技術躍進を重ねてきました。現在、弊社はコンクリート防食の分野においてリーディングカンパニーとなっています。

ーー創業当時は建設に意識が向いていた時代だったので、補修技術や工法への関心度は低かったのでしょうか?

佐藤匡良:
確かに1980年代は、コンクリートの劣化に対する関心は低かったようですが、創業者は日常生活に直結する社会インフラを守ることに非常に強いやりがいを感じていたそうです。創業者がその当時から持っていた社会貢献の意識は、いまも弊社に息づいています。

弊社は技術開発だけでなく、コンクリート防食に関する品質規格の確立にも力を入れてきました。具体的には、JERコンクリート補改修協会という団体を立ち上げ、方向性を同じくする施工会社や材料製造会社との連携を構築しています。

この協会では、技術研修会や資格認定試験を実施し、専門技術者の育成、知識や技術の普及といった取り組みを地道に続けてきました。全国規模での連携の中枢を担っていることは、間違いなく弊社の強みのひとつです。

競合他社での営業時代に日本ジッコウのポテンシャルの高さを痛感

ーー貴社ならではの事業の強みは何でしょうか?

佐藤匡良:
弊社を含めた4つのグループ企業では相互に連携して、コンクリートの劣化状態の調査から補修方法の提案、補修剤の開発、実際の施工までの全てをカバーし、用途によってはモルタル類の提供もできます。また、水インフラ以外の社会インフラである高速道路、トンネル、橋脚などの補修や補強にも総合的に対応できます。この点は、同業他社にはない強みだと言えるでしょう。

ーー顧客貢献度の高さを物語るエピソードを教えてください。

佐藤匡良:
私は大学を卒業後、樹脂メーカーに就職し、5年間コンクリート防食に関わる工事や商品販売の営業をしていました。当時の勤務先は、日本ジッコウとは競合する会社だったので、営業先で日本ジッコウという会社がどれだけすごいかということを実感していました。

当時の日本ジッコウは社員50人前後の規模でありながらも、お客さまとの間に密接な関係性を築いていて、提案メニュー、施工技術から施工後のアフターケアまで全ての点において太刀打ちできませんでした。単なる価格競争では勝てない相手でした。

日本ジッコウの企業理念のひとつに「技術革新と質実サポートで顧客満足」というものがありますが、当時を振り返ると全ての社員がそれを自分のものとして実践していたことがわかります。「日本ジッコウから取引先を切り替えるつもりはない」という、お客さまの言葉が今でも耳に残っていますね。

ーー社員教育についてはどのように考えていますか?

佐藤匡良:
学校を卒業したばかりの人間が知識も経験も乏しいのは当たり前です。むしろ果敢に挑戦する姿勢があれば十分です。仮にうまくいかなくても、必ず気づきや学びがあるはずです。

重要なのは、困ったときに、遠慮なく同僚や先輩、上司に相談できる環境です。弊社は問題解決に向けた十分なサポートを提供しています。

弊社の事業は、一つひとつの案件が社会インフラを守るという社会貢献につながっています。その責任の重さとやりがいが社員を成長させてくれるのです。

技術ニーズの掘り起こしと事業者間の協力関係でコンクリート構造物の保全に貢献

ーー現状の問題を踏まえた今後の展開について教えてください。

佐藤匡良:
弊社の事業は、水インフラに関わるものが多いので、コンクリート防食では官公庁からの受注案件が90%以上を占めています。

コンクリート構造物は、地上にも地下にもあらゆる場所に存在し、しかも全てが劣化という問題を抱えています。弊社の技術や工法を提供できる場所は、下水管やマンホールといった公共設備だけでなく、酸の発生が多い食品工場など幅広くあります。

これからも技術開発の手を緩めることなく、事業領域の拡大を図りつつ、国土の強靭化や環境の保護に貢献していく覚悟です。

ーー将来を見据え、貴社が基盤とする考え方を聞かせていただけますか?

佐藤匡良:
弊社の企業理念の一番目にあるのは「誠実・挑戦・即実行」です。挑戦すると決めたら直ちに実行するとありますが、私はその前提となっている「誠実」を重く考えています。

プランを立てて、いよいよ挑戦すると決めたら即座に実行に移しますが、自社の利益だけを考えるのではなく、弊社とパートナー事業者そしてお客さまのベネフィットを公平に調整する必要があります。この調整を行うときの絶対的なルールが誠実だと思います。そこから生まれる信頼関係があるからこそ、先ほどお話ししたJERコンクリート補改修協会の会員事業者との絆が今でも続いているのです。

無数に存在するコンクリート構造物を補修し維持していくためには、弊社のリソースだけでは限界があり、各地の事業者との連携が不可欠です。連携の力を結びつけるのは信頼であり、信頼を守るのは誠実だと思っています。

編集後記

コンクリートなくして社会インフラの形成も都市空間の創造も成立しない。一方、日本では大規模地震や豪雨による災害の危険がいつも目の前にある。つまり、人々の暮らしの安心、安全を守るために、コンクリート構造物の補修、補強に関する技術や工法の開発は限りなく続いていくということだ。

佐藤匡良社長は、「誠実」を持ってコンクリート補修事業者の連携を深めると語っている。日本ジッコウ株式会社の技術開発力と事業者ネットワークの充実に期待が膨らむ。

佐藤匡良/1973年、兵庫県生まれ。広島工業大学卒業後、樹脂メーカーに5年間勤め、2001年に日本ジッコウ株式会社に入社。事業部長、営業本部長を歴任し、会社の事業や経営を全体的に把握した後、2014年に代表取締役社長に就任。JERコンクリート補改修協会の会長も務める。