※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

近年、商業宇宙旅行を企画する企業や民間ロケットの開発といった、宇宙産業に参入する企業が世界的に急増している。そんな中、さらに宇宙を身近な存在にしてくれる企業が、株式会社天地人だ。

同社はJAXA(宇宙航空研究開発機構)から初めて出資を受けた宇宙ベンチャー企業である。宇宙を周回する地球観測衛星から得られるデータを活かして、地球のさまざまな課題改善に活用している。同社の代表取締役社長である櫻庭康人氏に、事業内容と今後の展望をうかがった。

新規事業立ち上げから宇宙ビジネスへ参入、そしてJAXA初の出資企業へ

ーー貴社を起業し、宇宙ビジネスを始めることになったきっかけを教えてください。

櫻庭康人:
20歳の頃は、地元青森で美容系の専門学校で学びながら、土日は美容室でアルバイトをする生活をしていました。専門学校を卒業後は、勤務していた美容室に就職することが決まっていたものの、青森以外の景色も見てみたいという気持ちが強くなり、上京することにしたのです。そして、インテリア商社に入社し、店舗運営やECサイトの起業に携わりました。この経験をきっかけに、私自身もECサイトの運営を始めましたが、リーマン・ショックの到来で物販の厳しさを痛感し「モノよりサービスを売りたい」と思うようになったのです。

ちょうどその頃、尊敬していたIT開発者の方が起業されたのを知り、直接会いに行ったことがご縁でその会社への就職が決まりました。その会社のオフィスが六本木にできたことで、六本木のIT関連事業との接点が生まれ、経営者の方々との人脈も広がっていきましたね。

のちにそのオフィスの売却が決まったタイミングで、企業の新規事業開発を専門とする会社へ転職。大手メーカーや出版社などの新規事業、新規サービスの立ち上げに企画段階から携わりました。今となっては世に知られているサービスを、当時はゼロから立ち上げるという経験を、まるで千本ノックのようにやり遂げていく中で、農業IoTセンサー関連の仕事に出会ったのです。この経験を通して、気候が農業に与える影響や地球温暖化といった環境問題への関心が高まっていきました。

転機となったのは、JAXAに勤めている知人から、内閣府主催の宇宙ビジネスアイデアコンテストへの参加を勧められたことでした。同時に、その知人からJAXAの地球観測衛星の専門家であり、現在弊社の取締役副社長を務める百束泰俊を紹介されたのです。

私が持つ地球環境に対する問題意識と、百束の持つ宇宙に関する専門知識を掛け合わせて話し合ううちに、自然と意気投合し、株式会社天地人を創業しました。さらに、応募した宇宙ビジネスアイデアコンテストで賞をいただくことができ、その後JAXA初の出資企業となったのです。

フラットな組織文化で実現する、新しい社会インフラの最適化サービス

ーー貴社が注力されている「天地人コンパス」についてお聞かせください。

櫻庭康人:
「天地人コンパス」とは、宇宙ビッグデータを活用し、水道や環境インフラ、農業などの各分野において、お客様の目的に応じたデータの提供を行うサービスです。地球観測衛星から得られるデータを活用して、これまで地上のデータだけでは難しかった課題を解決することを目指しています。具体的には、現在地球の周りを飛び交う2万8000機もの人工衛星から得られた過去数十年分の情報を解析することで、事業に最適な場所を探したり、リスク評価を行ったりすることが可能になるのです。

現在提供中のサービスは、自治体向けの「漏水リスク診断サービス」、「風力発電の適地選定」、「太陽光パネルの最適配置の分析サービス」です。また、米の卸売りトップシェア企業と協力して、農家向けのサービスを開発しています。

ーー現在、会社全体では何名の方が働かれているのですか?

櫻庭康人:
社員は約80名おり、エンジニアを中心に部門は多岐にわたり、営業部門は「自治体応援部」と名付けて活動しています。名前のとおり、「応援される」という顧客視点でサービスを提供しているのが特徴です。また「セミラティス」という独自の組織形態も導入しました。

ーー「セミラティス」とは、どのような意味をもつのでしょうか?

櫻庭康人:
役職や性別、入社年次、国籍といった属性に関係なく、実力で正当に評価される組織という意味があります。創業時よりフラットな組織を目指したかったことから、「セミラティス」と名付けました。社員一人ひとりが自律的に動き、プロジェクトごとに柔軟にチームを編成することで、組織全体の横の連携を強化するのが目的です。この取り組みにより上下関係に縛られることなく、それぞれが自立した存在として能力を発揮できる環境づくりの実現を目指しています。

さまざまなバックグラウンドをもつ仲間と世界トップシェアの獲得を目指したい

ーー求める人物像を教えてください。

櫻庭康人:
中途・新卒を問わず向上心とやる気のある人を求めています。理系・文系など分野や業種経験は不問です。実際に、弊社にはいろいろな経歴の人がおり、適切な能力があれば海外拠点からの勤務も可能です。ポジティブな姿勢で人と協力し、互いを尊重できる人がいいですね。宇宙の魅力と、新しいビジネスモデルに共感してくれる人を歓迎します。

ーー今後に向けて、注力したいテーマを聞かせてください。

櫻庭康人:
まず挙げられるのが、新規取引先の開拓です。2030年までに、世界のトップシェア獲得を目標としています。現在、国内では30以上の自治体に漏水リスク診断サービスを提供していますが、今後は海外での新規取引先の開拓・採用強化を並行して進めていく計画です。

さらに、JAXAの知見と技術を活かし、ビジネス領域の拡大を目指します。現在はデータ分析・サービス提供が中心ですが、自社での衛星開発も進めています。GPSのように、誰もがその存在を意識することなく利用できるサービスを世界に提供できるよう、宇宙ビジネスの可能性を追求し続けたいです。

編集後記

「フラットな組織で全員が自発的に動く」という櫻庭氏の考えから社内の活気が生み出されている印象を受けた。JAXAから初めて出資を受けた企業として宇宙ビッグデータを使いこなす櫻庭氏は、近年問題になっている漏水問題にも「使命感をもって取り組んでいる」と力強く語る。株式会社天地人のさらなる飛躍が楽しみだ。

櫻庭康人/1982年青森県生まれ。2002年に専門学校卒業後、美容師として勤務。その後上京し、インテリア商社での店舗運営やITスタートアップでの事業開発に従事。多様な人的ネットワークと、マインドスコープ株式会社、株式会社センスプラウトなどの設立・事業拡大を通じて身につけた豊富な新規事業開発の経験を活かし、株式会社天地人の代表取締役を務める。農業IoTセンサーの開発経験もあり、ハードウェアからソフトウェアまでその知識は幅広く、天地人サービスをビジネス視点でデザインする。