※本ページ内の情報は2026年6月時点のものです。

東京大学理学部を経て、外資系金融機関へ。誰もが羨むエリートコースを歩んできた清水佑磨氏。しかし、彼が選んだ次なる舞台は「高難度金属部品加工の自動化」という地道かつ壮大な起業への挑戦だった。株式会社YAMASTROは、職人の暗黙知をソフトウェアとAIで実装し、工場そのものを進化させる「Factory OS」の実現を目指している。なぜ彼は高額な報酬を捨て、未知の領域へと飛び込んだのか。日本の製造業が抱える根深い課題をいかに解決するのか。異色の経歴を持つ若き起業家の覚悟に迫る。

エリートコースで味わった虚無感と30歳を前にした覚悟

ーーまずは、起業を決意された経緯を教えていただけますか。

清水佑磨:
東京大学を卒業後、外資系金融機関に入社しました。しかし、そこで用意された既存のレールの上で高い報酬を得るだけでは、人生に対する達成感や誇りを持てなかったのです。私は学生時代から、勉強やスポーツといった「用意されたゲーム」に勝つことだけを頑張ってきました。『自分は何者なのか、どう生きたいのか、どこに辿り着きたいのか』といった問いから無意識に逃げ続け、なんとなく金融の世界を選びました。

同期たちは高い給与を得て満足していたようでしたが、私は全く心が動きませんでした。どれだけ金額が大きくなっても、結局は既存の仕組みの一部として長期間働いているに過ぎません。「自分で成し遂げた」という誇りが持てず、なりたい自分にはなれないという虚無感を抱えていました。

ーーそこから起業へと踏み切った決定的な理由は何だったのでしょうか。

清水佑磨:
30歳が目前に迫り、自分の身に確実に訪れる「死」を意識して焦りを感じたからです。子どもの頃、私が心から憧れていたのは、リスクをとって競争の世界で勝負するアスリートや起業家でした。アスリートの道は年齢的にもう選べませんが、起業という勝負の世界はまだ残されています。これに挑まない人生は私の中であり得ないと考えました。仮に失敗しても、挑戦した行動そのものに誇りを持てる人生にしようと決断したのです。そして、「FoundX」という東京大学の起業家・スタートアップ支援プログラムに参加し、ゼロから事業の種を探す日々を始めました。

ソフトウェアで動く全自動工場

ーー改めて、現在の事業内容を教えてください。

清水佑磨:
弊社は航空宇宙や防衛産業などに用いられる、複雑形状の高難度金属部品の製造リードタイムを劇的に短縮することを目指しています。従来の金属部品加工は、熟練の職人が図面を見て「どの工具で、どの順番で削るか」を感覚や経験をもとに考えて工程設計を行い、マシンを動かすためのプログラムを手動で作成するため、膨大な時間がかかっています。

そこでYAMASTROでは、職人の頭の中にある「図面を見た瞬間の加工判断」を、エンジニアがソフトウェアとして再現しています。図面解析、工程設計、工具選定、プログラム作成など、従来は人が時間をかけて行っていた中間工程をソフトウェアとAIで高速化することで、高難度金属部品のリードタイムを大幅に短縮できるのです。最終的には、実際の部品加工を行う工作機械である5軸マシニングセンタと接続し、図面解釈から部品加工までを一気通貫で行う次世代の製造基盤を目指しています。

ーー貴社の独自性はどこにあるとお考えですか。

清水佑磨:
最初から「人間が介在しないこと」を前提としている点です。他社の多くは、人が作業することを前提とした「人が使うための効率化ツール」をつくっています。しかし、私たちは「ソフトウェアとAIだけで動く工場」を設計するという逆転の発想を持っているのです。

また、製造業界は工程ごとに別のツールを導入する「部分最適」に陥りやすく、問題発生時に責任転嫁が生じる課題があります。だからこそ、私たちは単なる受注やソフト提供にとどまりません。自社で工場を持ち、実際に部品加工まで行う「垂直統合型」モデルを採用するからこそ、リードタイムの短さや品質の高さに責任を持てるようになると考えています。

物理世界をソフトウェアで制御する エンジニアへの挑戦状

ーー事業を進める上で、組織づくりはどのように行っているのでしょうか。

清水佑磨:
物理学や金融の知見を持つ私と、現場を知り尽くした熟練の職人、そして私の大学の学科同期である優秀なエンジニアという異能の混成チームを構築しています。これらは運と縁によって集結しました。職人が「図面のどこを見て、何を考えているのか」を一つひとつ聞き出し、リモートでエンジニアに伝えてルール化していく作業は非常に地道な世界です。しかし、世の中に落ちていないデータだからこそ、これを成し遂げれば圧倒的な競争力になります。

ーー採用において、エンジニアにはどのような魅力をアピールしていますか。

清水佑磨:
自分が書いたコードが画面の中だけでなく、現実の工場という物理世界を動かしてモノをつくり出す面白さです。これはソフトウェアエンジニアにとって、最高にワクワクする難問だと思います。根本的な問題解決を楽しみ、ゼロから新しいプロダクトをつくり上げることに面白みを感じる人にとって、私たちの環境は非常に挑戦しがいがあると確信しています。

ーー最後に、今後の展望をお話しいただけますか。

清水佑磨:
短期的には、宇宙や防衛、ロボット産業など、高精度で複雑な形状が求められる先端産業の部品調達におけるリードタイムを劇的に短縮し、試作や量産における部品調達のボトルネックを解消します。そして10年後には、熟練工不足に悩む製造業において、「複雑な金属部品加工といえばYAMASTRO」と言われるような、産業の供給インフラ(OS)になりたいと考えています。ソフトウェア駆動の工場であれば、日本からアジアなどへ展開しても、背後のデータを共有して複数の工場を同時に進化させられるのです。属人的な技術継承の限界を超え、進化し続ける自動化工場をグローバルに拡大する。それが私たちの進むべき道です。

編集後記

エリート街道を離れ、現場に根ざした製造業の世界へ飛び込んだ清水氏。彼の言葉からは、自身の人生に対する圧倒的な当事者意識と、常識を疑う知性が感じられた。AIやソフトウェアはバーチャルな世界に留まりがちだが、同社はそれを物理世界に直接接続し、工場のあり方を根底から変えようとしている。日本の強みであった職人技を数式化し、世界へ広がる新たな産業基盤へと昇華させる同社の挑戦は、製造業の未来に大きな希望をもたらすはずだ。

清水佑磨/東京大学理学部物理学科卒業。同大学院修士課程修了。Morgan Stanley(モルガン・スタンレー)にてIPO・公募増資などに従事。東大の起業家・スタートアップ支援プログラム「FoundX」を経て、2025年10月に株式会社YAMASTROを創業。2026年2月にインキュベイトファンド株式会社より1億円を調達。