※本ページ内の情報は2026年7月時点のものです。

2020年に始まったコロナ禍では、特に人流の抑制が大きな課題となった。多くの企業や自治体が人流の予測と抑制に力を入れる中、「人流データ」という新たなマーケットを切り開いて躍進したのが株式会社unerryだ。人流データの集積と解析を行う同社の代表取締役社長、内山英俊氏が意識しているのは「常に変化すること」。「弊社は、1年後には全く新しいチャレンジを行っている会社だ」と語る同氏に、コロナ禍を経て社会インフラになりつつある現在地と、「ワールドモデル」構想をはじめとする今後のさらなる展望、そして急成長を支える独自の組織づくりについて詳しく話を聞いた。

情報配信のニーズに気づき人流データの会社を創業

ーー社会人としてのキャリアのスタートと創業背景について教えてください。

内山英俊:
もともとアメリカのミシガン大学院でコンピューターサイエンスを学びながら、AIの研究もしていました。そのときに、「データや技術は世界を変えるものなのだ」と強く実感したのです。

その後、コンサルティング会社に5年ほど勤めてから、2007年に独立しました。飲料メーカーや小売企業向けに、モバイルアプリやモバイルサイトをつくる事業をスタートしました。企業向けアプリの事業を進める中で、「その企業の周りにいる人たちにも、もっと情報を配信したい」「マーケティング施策の結果を正しく計測したい」と思うようになりました。当時はそのようなサービスを提供している企業がなく、確実なニーズがあると感じて2015年に株式会社unerryを創業しました。

ターニングポイントの決断 「失敗があるから面白い」と捉える価値観

ーー創業後、最も大きな決断を下したターニングポイントはいつでしたか。

内山英俊:
創業して3年が経ったときです。自分たちでさまざまな試行錯誤をした結果、現在主力として提供している「分析・可視化」「行動変容」「One to One(一人ひとりの好みに合わせたマーケティング)」の3つの事業でいくと決断しました。「必ず成功する」という確証があったわけではありません。しかし、この3つの事業に決めてすぐに鈴木がCOOに就任するなど、チームが大きくまとまって企業らしく推進していく契機になりました。

ーー失敗を恐れずに挑戦し続ける価値観はどこから生まれるのですか。

内山英俊:
失敗には、「楽しさ」もあります。困難な場面でも、その状況を反転させ、成功に向けて全力で頑張るプロセスは、その瞬間は苦しくとも振り返ればとても楽しい。物語には必ず苦難や絶望がありますが、それを乗り越えるからこそ面白いわけです。最初から明確な基準を決めきるのではなく、たくさんの失敗を恐れずに繰り返す中で、結果的にうまくいく新たな道筋が紡ぎ出されていくと考えています。

リアルとデジタルが融合した環境知能が備わった未来へ

ーー現在提供している事業の全体像について詳しく教えてください。

内山英俊:
弊社は、チラシアプリや地図アプリなど、150を超えるモバイルアプリと提携し、それらのアプリから位置情報データを集めて蓄積する会社です。現在、年間で1.9兆件以上のデータを取り扱っています。

弊社の主な顧客は小売業者、消費財メーカー、不動産会社、自治体などです。たとえば小売業者に対しては、人流データを活用した分析と広告のサービスを提供しています。具体的には、商圏内のお客様が自店舗や競合店を訪れる時間帯や、どのようなライフスタイルの人が多く訪れているかなどを弊社が解析します。この解析結果をもとに弊社の担当者が、どのようなマーケティング施策を行えばターゲット顧客に響くのかを考えたうえで、各企業に対して広告配信サービスを提案します。

ーー貴社のサービスの特徴や魅力はどういった点にありますか。

内山英俊:
消費財メーカーの多くは、テレビ広告を中心に宣伝を展開してきましたが、それで実際にどのくらいの来店や売上に繋がったのか、効果を正確に計測するのは難しい状況です。しかし、弊社のサービスでは、たとえば「テレビ視聴者における来店率や購買率」といった観点での効果計測が可能。これは【小売業のデジタル変革】への貢献でもあると思います。

また、自治体や不動産会社がまちづくりを進めるためには、駅前にどのような人が集まっているかに関するデータが必要です。こういったスマートシティ事業にも、弊社のサービスは役に立ちます。どれだけデジタル化が発達したとしても、消費の9割以上はリアルな社会で行われています。「混雑してお店に入れなかった」「お店に行ったらほしいものが欠品していた」など、リアル社会の非効率を弊社の技術が解決して、よりスムーズで心地よい社会をつくっていく。unerryではこうした「環境知能」(※)の実装を目指しています。

(※)環境知能:意識してコンピュータを操作するのではなく、IoTデバイスが環境に遍在し状況を賢くセンシングすることで⾃然な形で必要な情報が提供されたり安全安⼼な状況が保持される、環境が知能を持ち、くらしをサポートする世界。

ブレイクスルーとなったコロナ禍での対応 「なくてはならない存在」に

ーーコロナ禍を契機に、社会への実装の手応えはどのように変化しましたか。

内山英俊:
新型コロナウイルスが蔓延した2020年は、社会が弊社のデータの価値を大きく認めたブレイクスルーの時期でした。当時、テレビ局や新聞などに弊社のデータを提供し続けた結果、人流データが何に役立つのかという市場の疑問が解消され、ご信頼をいただけるようになりました。

現在では、特に小売企業などにおいては「なくてはならない存在」と言っていただけるほどに進化し、非常に嬉しく思っています。

ーー具体的にデータを導入した顧客企業からはどのような評価を受けていますか。

内山英俊:
弊社が大事にしているのは、データの導入にとどまらず、顧客企業の売上高や利益が上がるところまで最後までコミットすることです。その結果、「最高業績を上げられました」とおっしゃってくださるお客様が本当に増えてきています。実際に売上高が上がるところまで全部証明でき、月次の数値がどんどん良くなっていくため、確かな手触り感を得られています。

次なる勝負の一手となるワールドモデル構想の全貌

ーー新たなビジネス構想について教えてください。

内山英俊:
これから5年、10年かけて「ワールドモデル」と呼んでいる事業を展開していきます。弊社は現在、人流データに加えてパートナー企業の協力のもと、購買データやテレビの視聴データなどとも連携しています。生活者を取り巻くあらゆるデータを分析することで、需要予測などのシミュレーションが可能になります。

今はAIが飛躍的に進化しています。顧客企業がAIを導入しても自社データだけでは得られる答えに限りがありますが、弊社のビッグデータを組み合わせることで、より精度の高い解がすぐに分かるようになります。顧客企業のAIを弊社のデータによって、より「かしこく」する。これは、世界中の行動をシミュレーションできるモデルへの進化です。

ーー人流データを用いて次に変革を起こせる未開拓の業界領域はどこだとお考えですか。

内山英俊:
これまでの小売・外食・自治体・消費財メーカーの業界に加えて、金融業界を非常に有望視しています。金融業界はビジネスのすべてがデータ化されています。弊社のデータを用いることで新しい融資の基準をつくったり、証券会社が株価予測に使うオルタナティブデータ(代替データ)として提供したりできるポテンシャルを秘めていると思います。すでに専門家をお呼びして業界へのアプローチも進めている段階です。

急拡大を支える組織カルチャーと求める次世代リーダー像

ーー急激な組織拡大の中で、カルチャーを維持するためにどのような手を打っていますか。

内山英俊:
妥協のない高い採用基準を維持し続けることは一貫して変えていません。同時に、入社いただいた方が早期に活躍できるよう、たとえばオンボーディングプロセスである「une鉄(うねてつ)」を導入しました。双六のように目標スコアを設定し、プロセスを進められる仕組みです。

また、株式会社ブログウォッチャーがM&Aでグループインしましたが、こうした合流を社内では「結婚」と表現しています。生い立ちや文化が異なる中で、お互いに理解を深め、新しい文化を築くための施策を進めています。

ーー事業のスケール化における一番の壁と、それに伴い求める人物像をお聞かせください。

内山英俊:
事業環境や需要は非常に強いのですが、一番の壁はやはり「人」です。適切な人材が提案を行えば確実に売上高は上がります。AI時代においては、各業界の経営課題を深く認識できるドメイン知識を持ち、AIの導き出した答えが何の課題解決に繋がるのかを解像度高く理解できる人材が不可欠です。

また、次世代リーダーには、自分自身が夢を持ち、何をやりたいかを発信できる方を求めています。弊社は私の夢を実現する会社ではありません。皆のやりたいことの結節点をつくるのがリーダーとしての私の役割なのです。

データをインフラに。「電気、ガス、水道、unerry」の実現へ

ーー最後に、今後の展望を教えてください。

内山英俊:
既存の顧客基盤のビジネスモデルを変えずに進めることで、まずは売上高100億円に到達させます。そこからさらに500億円、1000億円へと拡大させるためには、「ワールドモデル」を通じてあらゆる産業へ業種を広げることが不可欠です。

最終的には「電気、ガス、水道、unerry」と呼ばれるほど、どこに行っても弊社のデータが組み込まれているインフラ企業へと飛躍していきたいですね。

編集後記

取材中、内山氏は「社員一人ひとりに個性や挑戦したいことがあるので、その接合点をつくるのが社長である僕の役割」と語った。予測困難なビジネスの世界において、苦難すらも楽しむ姿勢には、市場を開拓し続けるリーダーとしての強靭な胆力が垣間見えた。人流データを「電気・ガス・水道」に次ぐ究極のインフラへ育て上げようとする同社の視座は極めて高い。株式会社unerryの、さらなる飛躍から目が離せない。

内山英俊/ミシガン大学院でコンピューターサイエンスを学ぶ傍ら研究所でAIエンジニアとして勤務。外資系コンサルティング会社にて、事業戦略・企業再生などを手掛けた後、事業会社を経て、2015年株式会社unerryを創業。業界団体LBMA Japanの理事を務めるなど位置情報業界の発展にも努める。