※本ページ内の情報は2026年7月時点のものです。

「日本一の会社をつくる」その決意は、高校時代の挫折と父の経営する会社の倒産から生まれた。株式会社アイガーを率いる代表取締役社長の木田裕士氏は、学生時代から行動力を発揮してビジネスを起こした。その後も環境の変化に合わせて事業を転換し、現在同社は学校パンフレットや企業の求人広報で高いシェアを持つ。強さの根底には、「外部委託しない」「下請けはやらない」というこだわりがある。さらに、世間の常識に逆行する独自の組織論も同社を支えている。売上高100億円企業を見据える同氏に、これまでの歩みと未来への展望を聞いた。

冒険家への夢が断たれた日 日本一の会社をつくる決意へ

ーー起業に至るまでの原体験をお聞かせください。

木田裕士:
高校2年のときに起きた、父の会社の倒産と憧れの人の遭難が原体験です。「日本一の会社をつくる」という決意は、この2つの出来事が重なって生まれました。私は山岳部で、将来は冒険家の植村直己さんのように生きようと考えていました。しかし、父の会社が倒産したことや、母から「雪山は危険だからやめてほしい」と懇願されたこともあって、私の中でも「父の会社を再建したい」という思いが芽生えてきたのです。

ーー起業の準備はどのようにされたのでしょうか。

木田裕士:
大学時代にはすでに複数のビジネスを手掛け、起業の資金をつくっていました。高校3年の秋に事業計画を練り始め、大学1年のときには「アイガーグループ」という名刺を同級生に配っていましたね。当時は法人ではありませんでしたが、学生向けフリーペーパーでの協賛金集めやイベント企画、家庭教師の派遣などを行いました。結果として潤沢な資金ができ、大学卒業と同時に資本金200万円で会社を設立できました。

時代の波を読み切る 卒業アルバムから学校求人広報の最大手へ

ーーこれまでのキャリアで特に苦労したことは何でしたか。

木田裕士:
会社を設立して数年後のことです。バブルが崩壊を迎え、一般企業からの仕事が消失してしまいました。そこで生き残るために着手したのが、学校の卒業アルバムの営業です。広告会社がつくる「デザイン性の高いアルバム」という切り口が支持され、ピーク時には140校と取引し、数億円規模の売上高へと成長しました。

ーーそこから現事業の学校パンフレットや求人広報へシフトした理由を教えてください。

木田裕士:
個人情報保護法の施行と少子化という2つの環境変化です。法律により卒業アルバムに住所録を載せられなくなり、商品価値が低下しました。購買の自由化や価格競争も進み、事業としての魅力が薄れたのです。

また、少子化の影響で学校側には「宣伝しなければ生き残れない」という危機感が生まれました。そこで学校のパンフレット制作を請け負う方向に転換したのです。学校広報は学術的要素と宣伝要素の両立が必要ですが、他社が敬遠しがちなこの領域に弊社の強みが合致しました。現在では大学や専門学校の広報、さらに企業の求人広報でも確固たる地位を築いています。

利益率を生み出す完全自社制作と直取引への執念

ーー貴社の競争力の源泉はどこにあるとお考えですか。

木田裕士:
「すべてを自社で制作すること」です。現代は、経営効率化のために外部委託を多用する企業が少なくありません。しかし弊社は、デザインから印刷、システムの開発まで自社で完結させています。外注費が発生しないため、製造原価を抑えることができるのです。結果として粗利率が高まり、コンペティションにおいても他社より多くの提案を提示できています。

ーーこれまでに他社と協業することはなかったのですか。

木田裕士:
一度もありません。「エンドユーザーと直接取引をする」という姿勢を貫いています。実績として誇るべきは、直接契約を獲得した事実です。厳しい道のりですが、これこそが会社を存続させ、発展し続ける秘訣だと考えています。

システム化の限界 会社を伸ばすのは人の可能性

ーー組織づくりにおいて大切にしていることは何でしょうか。

木田裕士:
「属人化を否定しないこと」です。近年はシステムで業務を補う風潮があります。しかし、事業を動かすのは結局のところ、鍵となる優秀な人材です。どれほど予算をかけ、システムを構築しても、人の力には敵いません。

ーー事業の鍵となる人材は、どのように見つけるのですか。

木田裕士:
市場と人に任せ、じっくりと待つことです。これは川の流れに似ています。意図的に水をせき止めようとしても流されますが、偶然引っかかった枝葉を起点に、次々と物が集まり水溜まりができます。組織も同様で、期待通りに人員を配置して成功する確率は高くありません。さまざまな人材に挑戦の機会を与え、そこで踏みとどまってくれた人が事業を支える柱になります。だからこそ、人の可能性を信じて待つ姿勢を大切にしています。

ーー最後に、今後の目標と展望をお聞かせください。

木田裕士:
現在の売上高は20億円規模ですが、ここから5〜7年で50億円、将来的には100億円を目指しています。この目標に向けて、まずは完全自社制作による既存事業の成長で30億円のベースをつくり、さらに新設部隊を通じた「戦略的M&A」で20億円を生み出していく計画です。

M&Aにおいては独自のブランド力や知的財産(IP)を持つ、歴史あるメディアとタッグを組むことを目指しています。すでに老舗の出版社を、近代映画社 雑誌「SCREEN」等を買収しており、狙いは従来の広告代理店事業にとどまりません。「初任給ナビ」や「学費ナビ」といった自社メディアの基盤に、新しく合流したブランドやIPを掛け合わせることで、弊社にしか発信できない独自のコンテンツを展開していく方針です。

編集後記

世間の合理化の波に逆らい、徹底した内製化と人の可能性に賭ける木田氏の姿勢には、現場で培われた確かな説得力がある。高いクリエイティブ力と、歴史あるメディアブランドの獲得を掛け合わせる戦略。これらは、同社が目指す独自のメディア基盤構築への重要な布石だ。業界の常識を覆し、新たなビジネスモデルを創出するダイナミックな展開が、今後社会にどのような影響を与えていくのか。その躍進に非常にワクワクさせられる展望であった。

木田裕士/1968年、東京都出身。1986年、大学で建築を専攻しながら在学中にブランディング会社のアイガーグループを起業。1990年、株式会社アイガー設立。2011年、米国ニューヨーク州拠点のIGER America Inc.のCEOを兼任。2022年、東京証券取引所へ上場。日米両国でグローバルに事業展開し、経済界では経済同友会幹事として政策提言や社会課題解決にも携わり、経営者としての責任とリーダーシップを発揮。