少子高齢化は現代の日本の大きな課題であり、それに伴い労働人口が大きく減少している。人材不足が深刻化する中、多くの企業が労働人口の減少に対応するために外国人材の採用を積極的に行っているが、企業と求職者のミスマッチが問題となっている。
そんな問題に立ち向かい、外国人材の留学から就職まで一気通貫したサービスを提供しているのが、株式会社Lincだ。
今回は、代表取締役である仲思遥氏から、企業を立ち上げたきっかけや、今の日本への外国人材の提供に対する思いなどについて、話をうかがった。
外国人材サポートを行う急成長スタートアップ企業が生まれたきっかけ
ーー起業のきっかけは何ですか?
仲思遥:
外国人の方が活躍できる環境づくりに取り組みたいと思ったのがきっかけです。
起業前は、証券会社の投資銀行部門にて国内外のIT企業向けに合併や買収、上場の支援を行っていました。その際に大手IT企業を担当する機会があり、その企業のサービスがとても面白いと感じました。
人材メディアから住宅、美容院のマッチング等、生活に関連するプラットフォームを提供されていたのですが、情報の非対称性を解決できる素晴らしさを持つ一方で、私を含め、外国人から見ると、まだまだ使いづらいと感じる部分もあり、もっと外国人の方が過ごしやすい環境を作りたいと考えるようになりました。
そして今後、少子高齢化社会となり、外国人が日本で進学、就職をする機会はますます増えていく中で「外国人の利便性をより高くするサービスが提供できれば」という思いがあり、起業しました。
起業後はコロナ禍で大苦戦
ーー起業してからぶつかった壁や苦労したことは何でしょうか?
仲思遥:
外国人材に対してサービスを提供している事もあり、コロナ禍によりユーザーが日本に来ることさえ、国境を跨ぐ事さえ出来なくなったので会社の存続自体が課題でした。
しかし、それを乗り越えられたのは、一緒に頑張ってくれた社員の皆さんはもちろんのこと、株主様や提携先のお客様のおかげです。海外のユーザーからは「コロナ禍でいつ日本にいけるのかわからないのに、eラーニングで勉強する意味があるのか」といった声もいただき、売上も一気に下がりましたが、新規事業を通じて、ユーザーやクライアントに必要な価値提供し、皆で一緒に乗り切る事ができました。
一人では到底何もできないという学びを得られ、周りのご縁に助けられて、強い感謝の気持ちを抱くきっかけにもなりました。
これは会社勤めをしていたときはあまり実感できなかったことです。会社勤めをしていたときは、能力の高さのみが基準となってしまいがちでした。しかし、一人でできることには限界があり、今日ある自分は周りの人々に支えられていると感じています。そのため、今は常に周りの全てのステークホルダーに対し感謝の念を抱いています。
企業の強みを牽引する2つのサービス
ーー貴社の事業の強みを教えてください。
仲思遥:
弊社では「LincStudy(リンクスタディ)」と「LincCareer(リンクキャリア)」という2つのサービスを提供しています。
「LincStudy(リンクスタディ)」は、大学進学eラーニングサービスです。
利用者は中国や香港といった主に中華圏の方が中心で、他にもマレーシアやシンガポールの方にも使っていただいています。
外国人が日本の大学を受験する際には、「日本留学試験」という独自の受験制度を受けなければなりません。日本語以外に社会や数学、理科等の試験が含まれています。
たとえば歴史・政治の科目では、日本の選挙制度といった日本に来ないとわからない内容が含まれます。そして、これらは語学中心で学ぶ日本語学校に在籍していたとしても、なかなか学ぶ機会がない内容です。
「Linc Study(リンクスタディ)」は、そのような日本特有の受験科目をオンライン化し、来日前の方も日本語学校に通う方も利用できる日本初のサービスです。
日本への留学の効率性や利便性を一気に上げることを期待して作ったサービスでして、おかげ様で来日前のユーザーや、日本全国約160校の日本語学校と提携し、ご利用していただいております。
一方「Linc Career(リンクキャリア)」は、アルバイト/インターンシップから、正社員まで外国人材と企業の架け橋として人材の採用から採用後の研修育成までトータルで支援しております。直近では、インバウンド需要の本格回復に向け、人手不足が深刻化するホテル宿泊及び飲食業界に特化した外国人材採用ソリューションの開発を加速化すべく資金調達を実施しました。また、既に業界大手企業複数社に対し一部サービス導入を開始しております。
Linc CareerによりLincは日本に来る外国人材に対し、留学から進学、就職までを一貫してサポートする事が可能です。
また、日本の就職の課題である入社後のミスマッチは、外国人材にも当てはまります。弊社社内のデータだけでも、ミスマッチにより退職する外国人材は6割います。これは企業と求職者両方にとって、大変もったいないことです。
まずはインターンアルバイトから入り、相性を確認した後に正社員を目指すという形式でサポートを行っています。おかげで、最近では様々な業界のスタートアップ企業から、大手シャツメーカー、著名飲食チューンなど様々な企業にご利用頂いております。
ーー都心部のクライアントが多いと思いますが、エリアは限定されていますか?
仲思遥:
エリアは特に限定していません。都心部はもちろんのこと、地方創生というのも、私たちが今後取り組んでいきたいテーマの一つです。日本の地方の企業様は独自の強みを持っている場合が多く、外国人材との相性が良いと考えております。
ーーサービスを提供する上で一番大切にしていることは何でしょうか?
仲思遥:
ユーザーである外国人材が、社会的な信用を高めるサポートを行うことです。
クライアントの方々はもちろんのこと、個人のユーザーが弊社のサービスを使うことにより、語学学習やキャリアのトレーニングといった能力の底上げができることで、自分たちの社会的な信用を高めることができます。
そして、クライアントにとっても私たちにとってもwin winな状況をつくることが一番理想的だと思っています。そのために、私たちは自社のデータベースやシステムをできるだけオープンにしており、パートナー企業が弊社のケーパビリティを活用し、外国人材に利便性を提供することを促進しております。
今後注力していく「新規取引先開拓」「新商品開発・新技術開発」「採用強化」について
ーー「新規取引先開拓」について、今後はどのように注力していきますか?
仲思遥:
今は大手クライアントの数が多いですが、今後は中小企業様もターゲットにしていきたいと思っています。
私たちは会社の規模にはこだわっておらず、外国人材の採用に真剣に取り組んでいるかを一番重要視しているためです。
日本で働く外国人材の数は、今後1000万人近く増えると政府が予想していますが、その全員が満足のいく生活をおくり、望ましいキャリアを築くことができるように願っています。
ーー「新商品開発・新技術開発」についてはいかがでしょうか?
仲思遥:
今後は外国人材のマッチングだけでなく、入社後の研修育成や日本語教育といったアフターフォローもしっかり行っていきたいと思っています。その他にも、ユーザーが求める生活関連サービスを積極的に強化していきたいです。1つ例を挙げると、現在、大手保険会社と提携し、外国人材に特化した保険商品の開発も検討しております。
弊社の「日本最大級の外国人コミュニティ」という強みを存分に活用していきたいと思っています。
ーー「採用強化」についてはいかがでしょうか?
仲思遥:
サービス強化、効率アップに向けて、現在エンジニアから営業まで全職種の採用を行っており、今後も引き続き積極的に活動を続けていきます。
企業の価値は人材が作ります。
サービスを売るのもつくるのも、人がいないと何もできないので、もっと社員を増やしていきたいですね。
ただ、単純に人数を増やすだけではなく、自社の成長スピードや求める能力に合った採用を行いたいと考えています。焦って採用をしてミスマッチを起こしてしまうことは一番避けたいことなので、慎重かつ適切な採用活動を行っていくつもりです。
読者に向けたメッセージ
ーー最後に、読者に向けてメッセージをお願いいたします。
仲思遥:
何に対しても果敢に挑戦してください。
特に若いときは何をしても間違いはないです。
世の中は自分が思っている以上に失敗に対して寛容なので、失うものも少ないのではないでしょうか。良い意味で今の現状に疑いの目を持ち、本当に自分がやりたいことは何かを考えてほしいと思っています。
また、主語を自分から他者に変えてみてください。自分を主語にすると、自分がやりたいことしか思いつかないことがありますが、他者を主語にすることで、今まで見えてこなかったことが見えるようになることもあります。
実際に弊社内でも、「これはお客様が必要としているのか?」という観点で、常に物事を考えるようにしています。一方的ではなく、お互いが満足できるためには何をすればいいかという考え方を大切にしています。
この意識を持つと、自然と自分のやりたいことがわかり、市場での価値を生み出すことにもつながるので、ぜひ意識してみてください。
編集後記
現代社会の大きな問題である人材不足に対し、外国人材支援サービスで大きく貢献している仲思遥氏。
「企業様やユーザーに満足していただけるかが一番大切」というカスタマーファーストの姿勢を継続しつづけ、日本最大級のサービスに成長させた。
これからの労働力不足時代を支える柱となる株式会社Lincの飛躍が楽しみだ。
仲思遥(なか・しよう)/1991年生まれ、中国瀋陽市出身。高校卒業後日本へ留学。慶應義塾大学法学部卒業後、野村證券の投資銀行部門にて国内外のIT業界におけるM&Aおよび資金調達業務に従事。自身が外国人ということもあり、急激に少子化が進み労働需要が高まる日本において外国人材が活躍でき、多様性と包容力溢れる社会を実現すべく2016年に株式会社Lincを創業。