※本ページ内の情報は2024年8月時点のものです。

スマートフォンで簡単に写真を撮ることができる時代に、プロカメラマンの出張撮影サービスで成長を続ける株式会社ラブグラフ。2022年には株式会社MIXI(以下、ミクシィ)の子会社化したことで話題となった。間もなく設立10年を迎える現在、トップはどのような境地で事業を展開しているのか。起業の経緯や現在の事業内容、そして今後の展望について、ラブグラフ創設者の駒下社長に話を聞いた。

「世の中を良くする取り組みがしたい」学生フォトグラファーから起業家の道へ

ーー起業に至るまでの経緯を教えてください。

駒下純兵:
関西大学在学中の18歳の時にカメラを始め、学生生活を送りながらスナップ撮影やミスコンのカメラマンをしていました。撮影を続ける中で一定の技術は身に付きましたが、ただ撮影が上手くなるだけでは達成感がなく、「もっとカメラを通して世の中を良くすることはできないか」と考えるようになりました。「写真の力で戦争を止めることができないか」と思い、戦場カメラマンを目指していた時期もあります。

ありがたいことに依頼は途切れることなく、全国から声をかけてもらうようになりました。最初は無償で引き受けていましたが、すべて自分で対応するよりも、現地のカメラマンとお客様をつなぐ方が良い循環が生まれると考えるようになったのです。

そのためには、依頼するカメラマンに報酬を支払う必要があり、本格的にビジネス化するために大学3年生の時に「ラブグラフ」を設立しました。「経営者になりたくて会社を立ち上げた」というよりは、フォトグラファー活動の一環として会社を始めたという感覚ですね。

ーー現在、どのような事業を行っていますか?

駒下純兵:
「幸せな瞬間を、もっと世界に。」というビジョンのもと、3つのサービスを展開しています。

1つ目は、一般家庭向けの出張カメラマンサービス「ラブグラフ」です。お客様はご家族やご夫婦が中心で、七五三やお宮参り・入学式・卒業式など、「ハレの日」の撮影が多いです。また、ウェディングフォトや妊娠期のマタニティフォト、ペットの撮影などにも対応しています。最近では、海外からの観光客を撮影するインバウンド需要も高まっていますね。

2つ目は、​​法人向け出張撮影サービス「ヒストリ」です。特にスタートアップやベンチャー企業からのご依頼が多く、資金調達リリースや新しい役員採用の発表、イベントの撮影に活用いただいています。

そして3つ目は、月額制のオンライン写真教室「ラブグラフアカデミー」です。こちらは趣味でカメラを始めたい方とプロを目指す方の両方に対応しています。現在ラブグラフと契約しているカメラマンの中には、この写真教室の卒業生も多数います。

ーー貴社の強みは何ですか?

駒下純兵:
カメラマンの人柄ですね。弊社のお客様は、俳優やモデルのように撮影慣れしている方ばかりではありません。写真を撮られるのが初めてという方も多く、「撮影には来たものの、旦那さんが乗り気ではない」といったケースもよくあります。したがって、カメラマンがどれだけお客様と打ち解けられるか、家族の輪に溶け込めるかは、撮影の技術と同じぐらい大切なのです。

そのため、採用時にも志望者の人柄は特に重視していますね。たとえカメラの技術が高くても、弊社の求める人柄でなければお断りします。逆に未経験であっても、人柄が良く、意欲の高い方は採用しています。入社後は3〜4ヶ月かけて研修を行うため、未経験の方でも十分な技術を身に付けられるからです。

ミクシィグループへの参画で広がるサービスの可能性

ーー2022年にはミクシィの子会社となりましたが、グループ入りした経緯やその後の変化を聞かせてください。

駒下純兵:
ミクシィは、ラブグラフ設立と同じ2015年から「家族アルバム みてね」の提供を開始しました。「みてね」の利用者向け出張撮影サービスが始まったことをきっかけに弊社に声がかかり、2020年に資本業務提携を結び、2022年にはM&Aでミクシィの子会社になりました。

「みてね」のプロデューサーでもあるミクシィ創業者の笠原健治さんとは、私が起業して少し経った時から接点があり、M&A以前にも投資家としてラブグラフに出資いただいていました。以前から相性の良さは感じていましたが、2年間の資本業務提携の期間を経て、「笠原さんやミクシィの皆さんともっと一緒に働いてみたい」という思いが強くなったのです。

ミクシィの傘下に入ったことは、ラブグラフが抱えていたボトルネックの解消にもつながりました。1組のお客様がラブグラフを利用する機会は1年に1、2回程度であり、接触頻度が少ないサービスのため、どれだけのお客様と接点を生み出せるかが長年の課題でした。「みてね」は毎日利用されるサービスで、2021年の時点で利用者数が1000万人を超えています。

これによって、利用している皆さんに、お子様の誕生日などの節目のタイミングで「記念写真を撮りませんか?」と提案できるようになり、非常にありがたいと感じています。自分たちの力だけでは、ここまで成長できなかったかもしれません。

写真を通して、身近にある愛に気づくきっかけを

ーー今後、どのようなビジョンを持っていますか。

駒下純兵:
私たちが目指しているのは、お客様の幸せを写真に残すことです。この思いは創業時から変わりません。家族やパートナー・友人・一緒に働いている仲間たちと撮った写真を見て、お客様自身が「自分にはかけがえのない存在がいて、幸せを手に入れている」と実感してもらえる写真を提供したいと思っています。

SNSが広がる中で、人と比較して落ち込んだり、他人がうらやましく見えたりする場面が増えていると感じますが、ラブグラフで撮った写真をきっかけに身近な幸せに気づいてもらえたら嬉しいですね。

もちろん「売上高100億円突破」などの数字的な目標もありますが、事業拡大はあくまでもプロセスに過ぎません。私が一番実現したいことは、世界中の人の価値観を変えることです。目の前の幸せに気づけた人は、周りの人にも優しくなれます。写真を通じて「優しさの連鎖」を広げていくことが、世の中をより良くできると信じて、これからも事業を成長させていきたいと思います。

編集後記

ミクシィグループの一員となった現在も、変わらず「身近な幸せに気づくきっかけ」としての写真撮影に打ち込む駒下社長の姿勢が印象的だった。ウェルビーイングが重視される時代の中で、同社のサービスはますます求められるのではないだろうか。経営基盤を強化した同社のさらなる飛躍に注目したい。

駒下純兵/1993年生まれ、大阪府出身。2015年にラブグラフを設立し、カップルや家族のための出張撮影サービス「Lovegraph(ラブグラフ)」を開始。これまでの利用者数は約10万組にものぼる。2019年、Forbesの「30 Under 30 Asia 2019」アート部門に選出される。2022年株式会社MIXIにM&Aでグループイン。