※本ページ内の情報は2026年7月時点のものです。

IT業界で約20年の経験を積んだのち、趣味のキャンプメディア運営をきっかけに起業した株式会社TENTの代表取締役、松田基臣氏。同社は、高付加価値なアウトドア用品のレンタルから始まり、現在ではあらゆるモノのシェアリングやリユースを支えるモール型プラットフォーム「カウリル」を展開している。加えて、自社の課題解決から生まれた在庫管理システム「ZAIKA」は特許を取得。メーカーの直販や少額の法人需要など、新たな市場を開拓し続けている。目指すのは「消費者から循環者へ」という価値観の変革だ。循環型経済の牽引を目指し世界を見据える同氏に、事業の軌跡と未来の構想をうかがった。

趣味のメディア運営から プラットフォーム事業への転換

ーー起業の経緯と、アウトドア用品のレンタルに着目した理由を教えてください。

松田基臣:
趣味で立ち上げたキャンプメディア単体での収益化に限界を感じていたからです。確実な事業基盤をつくるために高単価なレンタルサービスに目を向けました。また、もともと私はIT業界に長く身を置いていましたが、子どもの成長を機に家族でキャンプを再開したことも理由の一つにあります。当時はウェブ上にキャンプ情報が少なく、自らメディアを構築したのが始まりです。スタートアップ界隈の方々と交流するなかで、自分の好きな領域を事業として拡大させる面白さに気づきました。

しかし、メディアだけで事業を成立させるのは容易ではありません。そこで目を付けたのがキャンプ用品のレンタルというわけです。当時の主流は安価な品でしたが、私たちは20万円台のグランピング用テントなど、体験価値を向上させる高付加価値な品物をオンラインで提供することにしました。

ーーレンタルから複数の事業者が参加するプラットフォームへ事業転換したのは何故ですか。

松田基臣:
自社の取り扱い領域をアウトドアに絞り、他の領域は専門事業者に任せることで、事業規模を大きく拡大できると考えたためです。最初は個人のモノを預かって貸し出す、個人間取引のサービスとして開始しました。しかし、貸し出されるモノが十分に集まらず、自社で在庫を抱える事業モデルへと変更しています。一定の需要は確認できたものの、より大きな成長を描くにはアウトドア市場単体では限界がありました。

シェアリングの需要と課題解決の仕組みはすでに把握できていたため、自社は知見のあるアウトドア領域に特化しました。そして、楽器や家電など他の分野はそれぞれの専門事業者に参画してもらう「モール型プラットフォーム」へと展開を広げたのです。これが現在の「カウリル」の原型です。

現場の課題から生まれた特許システムと広がる顧客層

ーー現在提供されている在庫管理システム「ZAIKA」は、どんなきっかけで生まれたのでしょうか。

松田基臣:
自社でレンタル事業を運営する中で直面した、在庫一つひとつの収益性が把握しにくいという課題からです。レンタル事業は一つのモノを繰り返し貸し出すことで利益を生みますが、個別の品物が実際に利益を出しているのか正確に追うことが困難でした。

そこで、在庫にRFIDやQRコードを付与し、発送から返送、収益までを個別に管理できる仕組みを独自に開発しました。これは同業他社にとっても共通の悩みであると考え、外部へシステムとして提供を始めたのです。直近では、販売用とレンタル用の在庫を連動して管理できる仕組みで特許を取得しました。レンタルで回収したモノをリユース販売するなど、両方を一元管理できるシステムを提供することで、企業が循環型の事業に参入する際の障壁を取り除いています。

ーー近年は、どのような企業からの需要が増加していますか。

松田基臣:
以前は小売業の企業による利用が主流でしたが、最近はメーカーが直接出店し、自社製品を販売するだけでなく、レンタルや定額制サービス、リユースとして提供する事例が増加しています。

また、法人向け領域での利用も拡大傾向にあります。従来のリース会社では対応が難しかった個人事業主や設立間もない企業に対する、数万円から数十万円規模の少額リースの代替としての需要です。通信機器やパソコン端末など多岐にわたる分野で引き合いがあり、購入のハードルが高い企業に対して新しい選択肢を提示できています。環境配慮への取り組みに関心があっても、ノウハウや人的資源が不足している企業は少なくありません。私たちはシステムだけでなく運用の知見も包括して提供し、事業としての収益性を両立させられる点が強みです。

「消費者から循環者へ」 日本発のシステムで世界を変える

ーー貴社の展望にはどのような思いが込められているのでしょうか。

松田基臣:
弊社は「消費者から循環者へ」という展望を掲げています。「消費」という言葉が持つ、モノを使い尽くすという意味合いにとどまらず、「循環(巡り回る)」という新しい選択肢を社会に定着させたいという思いを込めているのです。消費を完全に無くすのではなく、状況に応じて循環させることもできるという、価値観の転換を起こしたい。また、シェアリングだけでなく、返却されたモノをリユースしたり、定額制で提供したりと、メーカーを中心にモノが循環し続ける社会構造をつくりあげたいと思っています。

ーー循環型ビジネスの未来像として、どのような構想を描かれていますか。

松田基臣:
将来的には、プラットフォームの提供にとどまらず、メーカーと協業して「循環専用の商品開発」にも踏み込む予定です。たとえば、長期間の循環を前提として、通常は交換できない消耗品を簡単に取り替えられる設計にするなどの工夫です。そして、この循環型ビジネスの需要は日本国内に留まりません。欧米など海外市場の方が関心が高く、需要も膨大です。まずは国内で確固たる地位を築き、将来的には日本発のシステムとして世界へ展開したいと考えています。

ーー現在、その目標に向かってどの地点にいるとお考えですか。

松田基臣:
山登りにたとえるなら、まだ1〜2合目といったところです。実現したいことや、市場から求められている機能はまだまだ数多く存在します。私たちの理念に共感してくださるメーカーや出店者をさらに増やし、この壮大な目標に共に挑んでくれる強力なメンバーとともに、歩みを進めていきます。

編集後記

趣味のキャンプから始まった事業が、今や社会におけるモノのあり方を変えようとしている。松田氏の語る「消費者から循環者へ」という展望は、単なる環境配慮の枠を超え、企業の収益性とユーザーの利便性を高度に両立させるビジネスモデルである。自社の課題解決から生まれたシステムで特許を取得し、メーカーの参入や新たな法人需要を取り込みながら進化を続ける株式会社TENT。まだ山の1〜2合目と語る同氏の視線の先には、日本発のシステムが世界中で循環型経済を牽引する未来が広がっていた。

松田基臣/1981年、東京都生まれ。趣味のアウトドアを通じてシェアリング市場にIT領域の可能性を感じ、2017年7月、株式会社TENTを設立。