※本ページ内の情報は2026年8月時点のものです。

artienceグループの事業会社として、色材設計技術と分散技術を強みに社会を支えるさまざまな機能性材料を提供するトーヨーカラー株式会社。同社を率いる長坪正樹氏のキャリアは、日本での生態学研究から始まり、イギリスでの環境学研究、鹿児島県庁の公園技師、海外拠点の営業、経営企画と多様なステップに彩られている。常に「命ある限り」という前向きな姿勢を持ち、出張先でも早朝の運動を欠かさないエネルギッシュなトップは、BtoB化学メーカーの未来をどう見据えているのか。異なる環境への挑戦を楽しみながら乗り越えてきた歩みと、現在注力する独自の組織づくりに迫る。

シェフの夢と生態学の研究 そして公園技師からのキャリアスタート

ーー子どもの頃はどのような夢をお持ちでしたか。

長坪正樹:
小さい頃は食べることが大好きで、将来はシェフなど食に関連する仕事に就きたいと考えていました。そこから成長するにつれて少しずつ興味の対象が広がり、学生時代にはイギリスの大学院へ進学して環境学を学ぶ道を選びました。「食」から「自然環境」へとテーマは大きく変わりましたが、自分が関心を持った分野を深く探求するという根底の思いは、昔から変わっていないのかもしれません。

ーーファーストキャリアはどのようなお仕事だったのですか。

長坪正樹:
ファーストキャリアとしては、鹿児島県庁に入庁し、公園技師としての道を歩み始めました。そこで公園づくりなどの公共プロジェクトに携わりました。その後新たな挑戦として、前職とは全く異なる「営業」へと職種を転換し、弊社グループの東洋インキタイランドへ入社することになります。

一見すると、公園技師という仕事と現在携わっている機能性材料の事業には何の接点もないように思われるかもしれません。しかし、ゼロからプロジェクトを形にしていくプロセスや、周囲と協調しながら物事を進める力など、県庁時代に培った経験は、タイでの営業活動や現在の業務にもしっかりと活きていると感じています。

タイからアメリカへ 商習慣の違いも「楽しみながら」乗り越える

ーー営業職に移ってからのご経験をお聞かせください。

長坪正樹:
タイで10年ほど営業としての経験を積んだ後、アメリカへ渡りました。当然ながら国が違えば商習慣も全く異なるので、その点において苦労などもありましたが、そうした違いさえも一つのやりがいとして、楽しみながら仕事に向き合ってきました。また、海外でGM(ゼネラルマネージャー)としてマネジメントに携わったことも、私にとって大きな財産となっています。

ーー日本へ帰国されてからは、どのようなミッションを担いましたか。

長坪正樹:
2018年に家族とともに日本へ戻り、経営企画やIRを担当することになりました。海外での営業や拠点運営とはまた違う、新たな領域へのチャレンジでした。あらゆる企画を推進する中で、自社の強みやポテンシャルをさまざまな角度から客観的に見つめ直す良い機会になったと感じています。その後、常務執行役員を経て、今年の1月に弊社の代表へと就任しました。

「命ある限り」 持ち前のポジティブさで現場の面白さを追求

ーー仕事に向き合う上で一貫して大切にされていることは何ですか。

長坪正樹:
「命ある限りは」という考え方です。過去に2度交通事故で生死を彷徨った経験からこの価値観を持っており、仕事でどれほど大変な壁にぶつかっても、常にポジティブな姿勢で取り組むことを大切にしてきました。また、前向きな思考を維持するためには、心身を健やかに保つことも重要です。そのため、日頃から体をアクティブに動かす習慣も欠かせません。最近はゴルフに行く機会が増えたほか、トランポリンなども楽しんでいます。出張先であっても朝5時半に起きて体を動かすなど、日々の運動を通して活力を養っています。

ーー貴社の事業の特徴や仕事の醍醐味について教えてください。

長坪正樹:
弊社は、生活のあらゆる場面で使われる機能性材料の事業を展開しています。BtoBの性質上、製品が直接消費者の目に触れる機会は多くありません。そのため、学生や求職者の方々にとっては少し馴染みがない分野かもしれません。

しかし、人々の身近にあるスマートフォンや家電など、世の中の多種多様な製品に弊社の技術が活かされているのです。表舞台に立つことは少なくても、社会や人々の豊かな暮らしを根底から支えているという実感が、この仕事の大きな魅力につながっています。最先端のものづくりに挑む現場ならではの面白さがあり、独自のやりがいを深く感じられる環境に恵まれています。

最先端のAI導入から「日々の心遣い」の評価まで 組織を前進させる注力テーマ

ーー貴社で活躍し伸びていく人材にはどういった特徴がありますか。

長坪正樹:
内面的な意欲や向上心を持っている方ですね。弊社には長年勤めてくれている社員が多くいて定着率が高い一方で、意欲があればいろいろなことに挑戦できる環境でもあります。自ら手を挙げる意欲さえあれば、海外拠点へ行くなどのチャンスも大きく広がっていくのです。能力面だけでなく、そうした前向きな姿勢を持つ方が活躍し、伸びていくと感じています。

ーー最後に、今後の会社の展望についてお聞かせください。

長坪正樹:
数年後の未来に向けて、会社が持つポテンシャルをさらに引き出し、成長を加速させていくことが大きな目標です。これまでの弊社の良い部分はしっかりと守りつつ、さらなる飛躍に向けたテーマとして「新商品・新技術開発」「DX」「エンゲージメント向上」の3点を掲げています。

DXの分野では、生成AIの活用や生産における自動化など、積極的に進めていく考えです。また、エンゲージメント向上においては、単に個人の成績だけを評価するわけではありません。「誰かが自分の頑張りをきちんと見てくれている」と、社員が実感できる環境づくりを目指しています。たとえば、オフィスのコピー機の紙を率先して補充してくれた人がいれば、その気遣いを見て喜ぶ誰かが必ずいるものです。数字には表れない日々の貢献や思いやりもしっかりと評価の対象とし、社風として組織へ根付かせていく考えです。

こうした目標を実現すべく、現在、人材を含めたさまざまな領域への投資に取り組んでいます。意欲があり、ともに新しい挑戦を楽しめる方と一緒に、より良い会社をつくっていきたいですね。

編集後記

和やかな雰囲気で進んだ取材の中で最も心に残ったのは、長坪氏の社員に向ける温かな眼差しである。「率先してコピー機の紙を補充する」といった日々の細やかな思いやりをすくい上げ、しっかりと評価するエンゲージメント施策には、人を大切にする企業姿勢が色濃く反映されている。最先端のDX推進と、人の心を重んじるアナログな繋がりの両輪で組織を前進させる同社が、今後どのような飛躍を遂げるのか期待が高まる。

長坪正樹/1998年英国ハル大学大学院修了(理学修士)。2003年に東洋インキタイランド(artienceグループ)に入社し、グラビアやオフセットインキ、接着剤など幅広い製品の営業を担当。2013年より東洋インキアメリカ リキッド事業部でGMを務めた後、2018年10月より東洋インキSCホールディングス グループ経営部長として経営企画やIRを担当。2022年執行役員、2025年常務執行役員、2026年1月にトーヨーカラー株式会社 代表取締役社長に就任。