※本ページ内の情報は2026年6月時点のものです。

コンビニエンスストアや食品工場から排出される廃食用油。かつては廃棄物として扱われたこの油を、飼料や燃料として再生させる企業がある。栃木県佐野市の株式会社吉川油脂だ。代表取締役の吉川千福氏は、「入社当時は、いつ倒産してもおかしくない状況だった」と当時を語る。しかし現在、同社は業界を牽引するキーマンへと成長を遂げた。その原動力となったのは、「経営=経済×環境×ファン」という独自の方程式だ。なぜ同社はこれほどまでに必要とされ続けるのか。その裏側には、徹底した現場主義と、公私にわたり貫かれる「共生」への信念があった。

廃食用油の価値を変えた「即断即決」の生存戦略

ーーまずは、ご経歴と社長就任までの道のりをお聞かせください。

吉川千福:
実は、大学をわずか2ヶ月で辞めて家業に入ることになりました。私は3人兄弟の次男で、当時は教師を目指して京都の大学で教員免許取得に励んでいました。しかし、会社が経営危機に瀕しており、切迫した状況の中、「誰かがやらなければ社員の生活が守れない」という思いに駆られ、退路を断って入社を決意しました。

入社後は、国内での利用ニーズ低迷による在庫過多に直面しました。私はサンプル瓶を鞄に詰め、商社のアテンドで海外を飛び回りました。韓国や中国に新たな販路を見出し、一件一件売り込みを続けた結果、在庫を解消し、会社の危機を脱することができたのです。

ーーそこから、どのようにして現在の信頼を築き上げていったのですか。

吉川千福:
転機となったのは、ある飼料用油脂メーカーが倒産した際、取引先から供給の打診をいただいたことです。私は迷わず「やらせてください」と即答しました。食事中であろうと、電話が鳴れば箸を置いてすぐに出る。タイミングを逃さず、物事を後回しにしない姿勢を徹底してきました。

また、小さなロットの仕事や、鉄の型枠に使う離型剤のような未知の分野にも誠実に対応しました。近年では、マヨネーズの廃棄品やノンフライ菓子の生地、ラーメンスープから油を抽出する独自の技術開発にも取り組んでいます。他社がやらない「未利用資源」に価値を見出す積み重ねが、全国農業協同組合連合会の指定業者認定や、大手企業との信頼関係につながったのだと思います。

「経済×環境×ファン」 利益と貢献の循環が生むもの

ーー経営において最も大切にされている指針は何でしょうか。

吉川千福:
私は、経営を「経済×環境×ファン」という数式で定義しています。まず「経済」、すなわち健全な収益バランスを保つことは、企業存続の大前提です。しかし、利益を追求するだけで終わっては意味がありません。大切なのは、その利益を社会や環境への貢献、さらには社員への還元といった「徳を積む活動」へと循環させることです。こうした誠実な姿勢の積み重ねが、お客様や地域社会との間に「ファン」の関係を築きます。

ーーその理念は、現在の事業展開にも反映されていますか。

吉川千福:
たとえば現在取り組んでいるのは、家庭用廃食用油の回収です。リサイクル率がわずか4%にとどまる家庭用油を、スーパーマーケットでの「買い物ついで回収」という仕組みで変えようとしています。

また、社員に対しても「共生」の精神を大切にしています。遠方から通勤するドライバーの負担を減らすため、社員の居住地に近い場所に「栃木営業所」を開設します。通勤と回収に要する走行距離がそれぞれの往復で計60km短縮できれば通勤時間、勤務時間も減り、その分家族と過ごす時間が増える。社員が幸せでなければ、お客様を幸せにすることはできないと考えています。

週末は15人の父親代わり 仕事も私生活も貫く「共生」の精神

ーープライベートや休日はどのように過ごされていますか。

吉川千福:
週末になると、障がい者の方々が共同生活を送る施設の「父親代わり」をしています。週末には15人分の食事を私が作り、振る舞うのが日課です。幼い頃から、父が障がいのある方を雇用し、家族同然に食卓を囲む環境で育ちました。だから私にとって、共に生きることは特別なことではありません。「お前がやるなら俺もやる」ではなく、「僕がやるから協力してよ」と自ら動く。そうすることで周囲も巻き込み、互いに支え合う関係が生まれる。この「共生」の姿勢は、仕事も私生活も一切変わりません。

ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。

吉川千福:
規模の拡大や売上高日本一を目指すつもりはありません。目指すのは、油を出す人、使う人、関わるすべての人から「吉川油脂なら安心だ」と言っていただける「日本一信頼される会社」「必要とされ続ける会社」です。時代が変化し、ニーズが変わっても、それに対応できる柔軟さと提案力を持ち続けること。そして、お客様、社員、社会と共生しながら、必要とされ続ける存在でありたい。そのために、これからも実直に、タイミングを逃さず、目の前の仕事に向き合っていきたいと思います。

編集後記

「タイミングを逃さない」。インタビュー中、吉川氏が何度も口にした言葉だ。かつて廃業の危機にあった会社を救ったのは、高尚な戦略よりも、目の前のチャンスに即座に反応する泥臭い行動力だった。そして何より印象的だったのは、週末に15人分の料理を振る舞うというエピソードだ。ビジネスにおける「ファン作り」と、私生活における「共生」の実践。この表裏のない一貫した姿勢こそが、吉川油脂という企業の温かみと強さを支えているのだろう。

吉川千福/1973年5月22日、栃木県生まれ。株式会社吉川油脂に入社以来、34年にわたり社業に邁進。代表取締役就任から今年で17年目を迎える。「お客様・社員・社会に必要とされ続ける会社を目指します」を経営理念に掲げ、日々精力的に活動中。プライベートでは4児の父親。また休日は、15人の障がいを持つ方々の「父親代わり」として支援活動を行うなど、公私にわたり「人を育む」ことに情熱を注いでいる。