※本ページ内の情報は2026年8月時点のものです。

アパレル企業の販売員や雑貨屋店長からWebディレクターへと転身し、業界では珍しいEC発のインテリア事業で独立を果たした株式会社Flavorの代表取締役、山本哲也氏。創業後の順調な成長から一転、セキュリティ事故による多額の赤字というどん底を経験しながらも、独自の商品開発とメディア戦略を武器に、2019年にはD2Cブランドへの進化を遂げた。空間全体を提案する「スタイリング」の力と、ベンチャースピリッツで日本の暮らしを変革しようと挑む、山本氏の軌跡と具体的な行動に迫る。

アパレル店舗からIT業界へ 副業から始まったECでの独立

ーーまずは、これまでのご経歴をお聞かせください。

山本哲也:
大学卒業後は、アパレルの会社に入社しました。入社後は主に店頭販売に携わり、雑貨事業部で神戸、京都、熊本、東京での勤務を経験し、ライフスタイルショップの店長も務めています。その後、事業閉鎖による会社都合での退職を機に、地元の京都へ戻ることになりました。そこから、当時のITが普及し始めた時代背景もあり、職業訓練でホームページ制作を学んだのちに、IT企業へ入社しました。

ーーIT企業では、具体的にどのような業務を担当されましたか。

山本哲也:
Webディレクターとして、小さな町工場やお土産屋のホームページ制作を担当していました。当初はほぼ未経験でしたが、1年2か月のうちに20以上のサイトをつくりましたね。その中で、SEO施策の効果を自分自身で検証したいと考えるようになりました。

そこで、1社目で培った家具の知識と新しく学んだWebの知識を掛け合わせ、自宅でインテリアのECサイトを立ち上げたのです。すると想定以上に商品が売れ、検索順位も上がっていきました。このときから副業で担っていた事業で独立を果たし、前職で知り合った仲間とともに株式会社Flavorの立ち上げに至りました。

どん底の赤字からの回復を支えたオリジナル家具とメディア戦略

ーー独立された当初は、どのように事業を展開されたのでしょうか。

山本哲也:
最初は現在のような自社企画のオリジナル家具ではなく、国内メーカーから商品を仕入れて販売する形式でのスタートでした。当時、業界では珍しかったECから事業を展開する方法です。その中で私たちは商品の写真を自社で撮影し、Web制作の技術を活かして見せ方には特にこだわり、その結果、事業は順調に成長していきました。

ーーその後、事業の大きな転機となった出来事についてお聞かせください。

山本哲也:
2016年にセキュリティ事故が起き、多額の赤字の状態に陥りました。そこからは何をやってもうまくいかず、このまま従来の安売り戦略を続けていては状況が悪化していく一方だと痛感したのです。

しかし、数年前から温めていたオリジナル家具の販売やメディア戦略を通じて、立て直すことができました。自社のオウンドメディアを通じ、ものづくりの背景や思い入れを発売前から発信する取り組みに注力したのです。これが軌道に乗り、2019年にD2Cへと完全に転換しています。苦しい経験でしたが、あのまま安売りを続けていたら今の私たちはありません。

「ふつうのお家を、美しく。」 負の解消から生まれる商品開発

ーー自社での商品開発において、最も大切にされている基準は何でしょうか。

山本哲也:
私たちは「ふつうのお家を、美しく。」という思いを掲げており、お客様が日常生活で抱える「不の解消」を第一に考えて商品開発を行っています。インテリア業界では、商品の造形的な美しさやトレンドが重視されがちです。しかし私たちは、ある問題に着目しました。たとえば、一人暮らしのときに買ったシングルベッドが、同棲や結婚でサイズが合わなくなり捨てられてしまうことです。これを解消すべく、私たちはシングルからクイーンまでサイズを変えられる「伸長式ベッド」を開発しました。そんな長く愛着を持って使い続けられるものをつくりたいという思いが、ものづくりの起点になっています。

ーーお客様への提案では、どのような工夫をされていますか。

山本哲也:
家具を単品で売るのではなく、空間全体にどうフィットするかという「スタイリング」の提案を最も大切にしています。そのために、非常に高品質な海外製の3Dシミュレーションツールを導入しました。実写と見間違えるほどリアルで評判の良い3Dスタイリングモデルを使用し、スタッフがお客様のお部屋のレイアウトや色使いを論理的に提案します。店舗にいらっしゃるお客様の多くは、このプロによるスタイリング相談を求めて足を運んでくださっています。

「今日思いついたことは今日やる」 組織を牽引するスピード感

ーー組織運営において、特に大切にされていることは何でしょうか。

山本哲也:
常に「ベンチャースピリッツは持っておこう」と社内で伝えています。特に、「今日思いついたことは今日やる」というスピード感を非常に大事にしています。たとえば、ある日の会議でベッドとマットレスのセット購入率が低いことが判明した際は、その場で店舗での割引施策を決定し、翌日には店頭にポップを設置して、スタッフへの共有も完了した状態になっています。また、業務効率化のためのツールも、現場の要望を受けて担当者が翌日には作成することもあります。いち早く世に出し、お客様の反応を見ながら磨き上げていくスタイルが私たちの強みです。

ーー今後はどのような人材と一緒に働きたいとお考えですか。

山本哲也:
インテリアに興味があり、「ふつうのお家を、美しく。」という私たちの思いに共感してくれる方ですね。一般的に、店舗勤務を本社勤務へのステップと捉えるケースもありますが、私たちは全く逆です。直接お客様にスタイリングを提案できる店舗スタッフこそが主役であり、最も価値を提供できる存在だと考えています。

ーー最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか。

山本哲也:
ビジネス面では、2028年に向けた売上高50億円という大きな目標があります。そしてもう一つは、私たちが立ち上げた「インテリアスタイリスト」の資格制度やスクール事業を世に認知してもらうことです。これらを通じ、インテリアを楽しむ人を増やすこと、そして、プロとして活躍できる人材を育成して空間提案の質を高めていくことが、結果として私たちの事業成長にもつながっていくと考えています。

編集後記

山本氏の言葉の端々からは、「ふつうのお家を、美しく。」という確固たる理念と、「今日思いついたことは今日実行する」という圧倒的な熱量がひしひしと伝わってきた。商品を単に売るのではなく、空間のスタイリングを通じて人々の暮らしを豊かに変えていこうとする真摯な姿勢に、深く心を動かされる取材となった。インテリア業界に新たな風を吹き込む同社が、これからどのような未来を描くのか、その歩みから目が離せない。

山本哲也/1979年、京都府生まれ。京都産業大学卒業。株式会社キャビンに入社し、5年の修業期間を経て株式会社CNSへ入社。2008年に株式会社Flavorを設立し、同社代表取締役社長に就任。小売事業に加え、インテリアスクールの運営や、AIを活用したサービス開発にも注力している。