
1987年の入社以来、営業の最前線で顧客と向き合い続けてきた旗生泰一氏。現在は富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社の取締役社長である。同社を複合機メーカーから問題発見・課題解決型の企業へと進化させるべく、組織改革と新たな価値創造を牽引している。多様な文化が混ざり合う組織でのマネジメントや、さまざまな経験を通じて得てきた知見を踏まえ、旗生氏がたどり着いた経営の真髄とは何か。AI時代における企業の在り方についてその思いを聞いた。
「社会への貢献」を肌で感じた営業時代 顧客起点がすべてのベースに
ーーまずは、貴社でのキャリアの歩みについてお聞かせいただけますか。
旗生泰一:
1987年に富士ゼロックス(現・富士フイルムビジネスイノベーション)へ入社し、社会人生活は広島営業所での勤務からスタートしました。そこで4年半を過ごした後に福岡へ転勤となり、40歳を迎えるまでの約13年間は、営業の最前線でお客様と一対一で向き合う法人営業を経験してきました。
当時はコピー機のイメージが強い時代ではあったものの、新しいことにどんどんチャレンジできる環境の中で、企業担当営業としてお客様に価値を提供し続ける毎日でした。「これを入れてよかった」「ありがとう」といった感謝の言葉をいただける喜びが、私にとって最大のモチベーションに繋がっていたように感じます。今でも、私たちが手にする給料はお客様からいただいているものという考えのもと、お客様にどう貢献し、どのようにお返ししていくのかを常に仕事のベースに置いて行動し続けています。
ーー特に印象に残っている当時のエピソードをお聞かせいただけますか。
旗生泰一:
20代後半から社会インフラを担う企業を担当したことです。特に印象深かったのは、台風などで停電が起きた際に使うシステムに携わった経験です。停電は住民の方々に多大な迷惑をかける事態であり、その復旧や管理を支えるシステムを提供することは、単に物を売って利益を上げるという次元のものではなく、自分の仕事が社会や住民の生活に直結しているという重みを感じました。「社会に貢献している」と身をもって実感できたこの経験は、今の仕事の基盤になっています。目の前の取引の先にある、お客様や社会への貢献といった視点や仕事のやりがいは、弊社の従業員にも大切にしてほしいと思っています。
ーーその後のキャリアにおける、大きな転機についてお聞かせください。
旗生泰一:
大きく3つのターニングポイントがありました。1つ目は、東京で新設された「ビジネスイノベーション事業部(当時)」でアウトソーシング事業の立ち上げに携わったことです。外部企業から専門人材100人を集め、プロパー社員と合わせた200人体制の組織において、これまでの自社のやり方とは全く異なるマネジメント手法や文化に触発されました。大きなギャップに戸惑いながらも、多様な人材と働く意義や、自社の強みを再認識する貴重な機会となりました。
2つ目は、約4年間グローバルサービス営業本部(当時)でサービスデリバリー部門の責任者を務めたことです。それまでの営業という役割とは異なり、サービスの設計、構築、運用という役割を担いました。お客様が期待している「効果」を継続的に提供し続けることが重要な使命であり、お客様に価値を届け続けることの大切さとやりがいを強く感じることができました。
3つ目は、合弁会社への転籍です。外部企業の事業を承継して新たに設立された合弁会社に常務として赴任しました。自社からの出向者がわずか10名程度という環境の中、私たちのやり方を押し付けるのではなく、「みんなで一緒の新しい会社をつくる」姿勢で臨みました。初めて経営の立場になり、貸借対照表やキャッシュフローなど、会社全体の財務状況を俯瞰的に見る視点を得ることができました。また、全く違った文化で経験を積んできた従業員に「利益を出し、お客様に貢献しなければ存在価値がない」と理解してもらうため、半年に一度各事業所を回ってタウンミーティングを開くなど、コミュニケーションの重要性を強く実感した4年間でした。
コロナ禍での意識改革と「胸を張れる会社」への思い
ーー合弁会社での経営を経験された後は、どのような業務に携わりましたか。
旗生泰一:
2018年に営業推進部長として本社へ戻り、国内のマーケティングを統括する立場になりました。当時、都道府県別に販売会社が存在していたことや、直販と代販という販売チャネルの違いもあり、会社として一体感や連動性を持った戦略展開に課題がありました。そこで、生産性を高め、お客様への付加価値を最大化するために、国内の販売機能の在り方について見直しを進めていました。
ーー2020年に起きた新型コロナウイルスの影響は、どのようなものでしたか。
旗生泰一:
緊急事態宣言でオフィスから人が消え、弊社の収益の柱であった紙の出力量が落ち込むなど非常に厳しい状況でした。国内の販売機能の在り方についての見直しを進めていた最中でもありましたが、この経験を通じて、従業員一人ひとりに「変わらなければならない」という意識が共有されたのも事実でした。そして2021年4月、社名を新たに再スタートを切りました。国内の顧客接点に関わる33社のメンバーが1社に集結し、各種の制度をまとめる作業は多忙を極めました。しかし、1社化という大きな変化を、従業員全員に前向きに捉えてもらうことこそが最も重要なミッションだったと考えていました。
ーー当時から経営者として最も大事にされてきたことは何ですか。
旗生泰一:
シンプルに良い会社にしたいということなのですが、従業員が家族やお客様に対して、胸を張って良い会社だと言える会社にしたいと考えています。その実現に向けて絶対に妥協できない部分は、お客様起点で真剣に考え抜くことに他なりません。
会社はお客様に価値を提供し続けることが重要であり、短期的な目標達成のためにお客様にとって適切でない提案を行うことがないよう、常に意識してきました。「契約が決まりました」という報告を受けた際にも、「それでお客様は何が良くなるのか?」と必ず問いかけるようにしてきましたし、もし明確に答えられないようであれば、お客様に聞いてくるよう指導していました。このように、社内の評価よりもお客様からの評価に徹底してこだわる姿勢を常に求めていきたいと考えています。
AI起点のDX推進 「課題解決」を社名に込めた真意

ーー現在、貴社が強みや特徴とされている部分について教えてください。
旗生泰一:
私たちの強みは、全国に張り巡らされた営業・保守のネットワーク、また、あらゆる業種や規模のお客様とのお付き合いがある幅広い顧客基盤です。複合機は企業のインフラとしてオフィスに存在しています。
私たちは昔からコピー機を単なる機械ではなく「コミュニケーションの品質を上げるためのツール」と捉えてきました。現在は、複合機という枠を超えIT技術を活用してお客様の働き方や業務プロセスをどう改善できるのかという視点で事業を行っています。いわゆる「問題発見・課題解決型」というスタイルが私たちの真髄ですし、お客様のビジネスの革新をサポートする企業へと進化していくという決意が社名にも込められています。
ーーお客様への課題解決において、具体的にどのような先進的な取り組みがありますか。
旗生泰一:
現在、特に重点分野として取り組んでいるのが「AI」と「セキュリティ」です。私たちはAIを単に売りたいわけではありません。問題・課題起点でDXを進めており、お客様の業務のボトルネックを探り、解決の最適解としてAIを活用しています。
実際に、ある不動産会社様のチラシ作成業務の事例があります。これまで品質にばらつきがあり、作成に数時間かかっていました。ベテランのノウハウをAIに学習させることで、新人でも短時間で高品質なチラシを作成できるようになりました。さらに、業界特有の厳しい基準チェックもAIが行うことで、大幅な生産性向上と品質担保を実現しています。
ーー自社内でのAI活用はどのように進んでいるのでしょうか。
旗生泰一:
関係会社で行っている契約事務処理の現場でもAIを導入しました。月間約6万件の契約手続きを多数の担当者が処理しています。以前は管理者が手作業で案件を振り分けていましたが、手戻りが頻繁に発生していました。
そこで、全員のスキルレベルとスケジュールをAIに学習させ、案件の難易度に応じて最適な担当者を自動で割り振るシステムを構築しました。これによって、管理者の作業が不要になりました。さらに、細かなスケジュール調整までAIが行うため、手戻りがなくなり圧倒的な効率化を達成しています。
社員のスキル転換と自律促進 人材育成と組織の体制強化

ーー社内の組織強化についてはどのように取り組んでいますか。
旗生泰一:
将来に向けてソリューションの会社へと舵を切る中で、営業や保守といった顧客接点組織の機能強化が重要テーマです。機器の販売や保守をしてきた従業員に、ITや問題解決の領域に関わってもらうためには、大幅なスキルセットの転換が必要です。具体的には、各職種と役割グレードに応じたスキルを明確に定義し、それを習得するための学習環境を整備・提供しています。全従業員に受講必須のプログラムもありますし、外部の学習プラットフォームは自由に利用可能です。このように人材育成・教育には、特に力を入れていて、これからも従業員の成長意欲に応えられる環境作りを進めていきたいと考えています。
ーー組織の活性化において、他にも独自の取り組みはありますか。
旗生泰一:
組織の硬直化を防ぐため、一定期間ごとに担当や勤務地を見直す定期的なローテーションを徹底しています。同じ業務に長く留まると属人化が生じやすいということもあるのですが、一定期間を目安に職種や担当・働く場所を変えることで、色々な経験をしてもらうようにしています。そのこと自体が個人の成長機会になりますし、組織の活性化にもなると信じています。また、メンター制度を導入し、組織や地域を超えた横のつながりも活性化されてきたと実感しています。
さらに、多様な人材が力を発揮できるよう、女性やシニア層の活躍を推進するタスクフォースを立ち上げ、現在は約850名規模で活動中です。また、従業員が本来の価値創造に集中できる時間を確保するため、全社的な業務効率化を進めており、将来的には事務処理工数のさらなる削減を目指しています。オフィスリニューアルについても、社員自らがプロジェクトを組んで進めるなど、より働きやすい環境づくりを主導しています。
ーー最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
旗生泰一:
私たちのビジネスは国内の企業(お客様)への支援を通じて、その企業の成長を支えていくことです。社会やお客様にとってなくてはならない、「何でも相談していただける会社」になることが私たちの目指す姿です。
弊社の仕事は、決められた商品を販売するだけのものではありません。お客様のお困りごとを見つけ、数ある選択肢の中から最適な解決策を提供する役割を担っています。非常に自由度が高く、創造性が求められる、やりがいのある仕事だと考えています。今後も、多様性を大切にしながら、同じ方向を向き、全員がベストを尽くしている会社でありたいですし、「仕事を通じて社会に貢献したい」「お客様に喜んでいただきたい」という熱い思いを持っている方には、ぜひ私たちの仲間になっていただきたいと思います。
編集後記
「お給料はお客様からいただいている」。取材を通して、最前線の営業で培われた旗生社長の顧客起点という揺るぎない信念がひしひしと伝わってきた。AIをはじめとする最新技術も、決して目的化せず、顧客の真の課題を解決する最適解として活用する姿勢が印象深い。従業員が家族や社会に胸を張れる組織づくりに注力し、新たな価値創造を追求する同社。ビジネスの革新を支える頼もしいパートナーとして、さらなる飛躍と未来を拓く挑戦から目が離せない。

旗生泰一/1964年佐賀県出身。西南学院大学商学部を卒業後、1987年に富士ゼロックス株式会社(現・富士フイルムビジネスイノベーション株式会社)に入社。長らく営業の最前線にて研鑽を積み、販売戦略やサービス事業の領域で多大なる実績を重ねる。2014年からは、富士ゼロックスサービスリンク株式会社(現・富士フイルムサービスリンク株式会社)の常務執行役員営業本部長として、組織の立ち上げや経営の実務に従事。2018年より国内の販売戦略統括などを歴任した後、2022年に富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社の取締役社長に就任した。