
日本企業の多くが直面する、製造現場と営業部門などの部門間での分断。長らく現場の絶え間ない努力や工夫で乗り切ってきた日本の製造業も、今や属人的な仕組みの限界を迎えつつある。そんな中、サプライチェーンマネジメント(SCM)サービスを展開するザイオネックス株式会社の日本法人代表、藤原玲子氏は、「日本の優れたモノづくりを『全体最適(SCM)』の仕組みで支え、日本企業の世界での活躍を後押ししたい」と強い使命感を語る。大手の外資系IT企業でのキャリアや起業経験、コンサルタントとしての知見を併せ持つ同氏に、独自の視点から描く日本の製造業の未来図をうかがった。
工場の油のにおい 幼少期に刻まれたモノづくりへの原体験
ーーまずは、製造業の世界へ進むことになった原点をお聞かせください。
藤原玲子:
原点は、幼少期の頃にあります。私の父は大手油圧機器メーカーの設計技術者で、私が幼少の頃から休日になると自身の勤め先に連れて行ってくれました。その際、父が図面を引いて、階下の工場で実際の機械へと姿を変え、それが飛行機の整備工場で利用されると、実際の現場を巡って社会見学のように丁寧に説明してくれていたのです。モノがつくられる過程や、それが世の中でどう役立っているのかを知ることが純粋に面白く、デジタル化が進んだ現代でも「人の手や心が入っている」というモノづくりの現場への深いリスペクトは、幼い頃からずっと変わりません。
ーー大学卒業後は、どのようなキャリアを歩まれたのですか。
藤原玲子:
新卒で米国の大手外資系IT企業に入社し、システムを通じて社会を改善する仕事に携わっていました。その後、実は結婚を機に大学の仲間たちと起業しています。そこでは、夫の家業であったプラスチック成形や金型の製造工場をモデルに、いち早くWeb技術を取り入れた生産管理システムを開発しました。さまざまな製造業に採用され、周囲の後押しもあって、株式公開を目指そうと事業を展開していました。しかし、ITバブルの崩壊といった外部環境の急激な変化もあり、最終的に事業を売却する決断をしたのです。その後は外資系のコンサルティング会社へ移り、経営マネジメントの知見を深めていきました。
ーーそこから、どのような経緯で貴社の代表に就任されたのですか。
藤原玲子:
ザイオネックスの日本法人は、当初日本企業とのジョイントベンチャーで始まりました。私は一時期その企業を外部コンサルタントとして支援していましたが、ある日突然、韓国本社の社長から直接「正式に日本法人を立ち上げるから社長をやってほしい」と連絡を受けたことがきっかけです。当初は「経営トップの経験がないため責任がとれない」とお断りしましたが、熱心に説得される中で私自身の過去を振り返りました。
私には会社を大きく成長させたような輝かしい実績はありません。しかし、逆に「会社をダメにした経験があるからこそ、どうすれば会社が傾くかがわかる」という地に足の着いた経営の信条ならば持っています。事業売却というリアルな経験が活かせるならと考え、最終的にお引き受けしました。
SCMシステム「PlanNEL」の提供を通じて、日本企業を全体最適へ導く

ーー改めて、貴社の事業内容と提供するサービスについてお聞かせください。
藤原玲子:
私たちは主に、サプライチェーンマネジメント(SCM)とプロダクトライフサイクルマネジメント(PLM)に関する製品を自社で開発し、提供しています。本社は韓国にあり、アメリカのマサチューセッツ工科大学の博士課程を修了した専門家たちが創業しました。彼らが学んだ高度な情報工学やマネジメントの手法が、私たちの製品の基盤となっています。その中で私たちがメインのサービスとして提供しているのが、SCMにおける「計画をつくる」システム「PlanNEL」です。日本市場の状況を受けて私たち日本法人が企画し、韓国本社で開発されました。日本の製造業では、計画づくりに専用のソフトウェアを活用している企業はまだ少なく、Excelに頼っているケースが多く見られます。私たちはそうした現場に対し、データに基づいて「未来の計画」をつくる仕組みとしてPlanNELを提供しています。
ーーそのシステムを導入することで、企業にはどのような変化がもたらされるのでしょうか。
藤原玲子:
SCMは単一の部署で解決できる話ではなく、マーケティング・営業や製造、物流、財務など、さまざまな部署が関係します。これらの関係部署が持っている情報を統合し、「全体最適」を実現できるようになります。現在の日本企業における最大の課題は、部署ごとの「部分最適」に依存しすぎている点にあります。日本の現場には優秀な人材が多く、問題が起きても工夫と気合いで乗り切ろうとする文化が根付いていますが、関係者の多いサプライチェーンにおいて、自部署の目の前だけを改善するやり方には限界があるのです。
たとえば、営業部門が「売れるかもしれない」と工場に大量生産を指示しても結果的に売れ残り、在庫管理費の増大や製品の廃棄など、資金の無駄遣いが生じることがあります。全体を見渡して未来の計画を立てる「司令塔」が存在しないため、各部署が勘と気合いで業務を回すバケツリレーに陥っているのです。私たちは、このような属人的な状況に対し、データに基づいた的確な意思決定を支援します。日本はもともと高品質な製品を生み出す力を持っており、製品を必要なときに必要な場所へ届けるオペレーションさえ持てば、さらに強くなれるはずです。
巨大システムにはない柔軟性でグローバルな成長を支える
ーー貴社のサービスは、具体的にどのような規模や業種の企業を対象としていますか。
藤原玲子:
私たちのお客様は、電子機器や金属加工など、年商500億〜1兆円を超す大企業まで幅広く存在します。特に近年は、食品・化粧品メーカーや製薬会社様からのご相談が増加しています。たとえば、製薬会社様の場合、特殊な薬が欠品すれば患者様の命にかかわるため、精度の高い需要計画と生産計画が不可欠だからです。欧米の巨大な定型システムは多額の投資が必要な上、日本企業の要求は簡単に対応してくれません。一方で私たちは、日本のお客様の細やかな要望を迅速にシステムに反映させ提供しています。また、システムだけでなく、導入前のコンサルティングを通じて「お客様のビジネスにおいてSCMのあるべき姿」を整理し、システムの導入から運用支援までをワンストップで支援しています。
ーー最後に、日本のモノづくりを支えるパートナーとして今後の展望をお聞かせください。
藤原玲子:
すべての企業が活用できる、SCMの基盤になりたいと考えています。為替の変動や自然災害、地政学的なリスクなどの予測不可能な事態が発生した際に、「もしこうなったらどうするか」を即座にシミュレーションできれば経営者は正しい意思決定を下せるでしょう。モノとお金の流れを適切に管理し、日本の製造業が再び力強く前進できるように、これからも企業の経営を根底から支える存在であり続けたいと思います。
編集後記
藤原氏の言葉の端々からは、日本のモノづくりへの深い愛情と並々ならぬ熱量が伝わってきた。幼い頃に技術者の父に連れられて嗅いだという「工場の油の匂い」は、単なる思い出ではなく、現在の彼女を突き動かす揺るぎない原動力なのだろう。「会社をダメにした経験があるからこそ、会社が傾く理由が分かる」。挫折の痛みを知る者ならではの地に足の着いた経営へのスタンスは、多くの経営者にとってこれ以上なく心強い羅針盤となるはずだ。長年培われてきた現場の「気合いと工夫」に、データに基づく「全体最適」という翼が授けられるとき、日本の高い技術力は再び世界で力強く輝き始めるに違いない。

藤原玲子/上智大学卒業後、大手外資系メーカーを経て、製造業向け情報システムの開発およびコンサルティングに約15年間携わる。2004年より大手外資系コンサルティングファームにて、製造業を中心にIT戦略や業務改善に従事。2013年8月にザイオネックス日本法人(ザイオネックス株式会社)の代表取締役に就任。現在はSCMシステム「PlanNEL」やプロジェクト管理システム「DTM」を通じ、製造業における需給管理の高度化や業務改革を支援している。