
株式会社ジールコスメティックスは、「ダチョウ抗体」をコア技術として展開する企業だ。熱や酸、アルカリに強く、多様な環境で機能するこの画期的な成分を武器にしている。異業種の営業で好成績を収めた後、特許ビジネスの世界に飛び込んだ前田修氏は、同社を2011年に設立した。社員数約15名の少数精鋭体制でありながら工場を持たないファブレス経営を確立し、スキンケアからヘアケア、オーラルケア、さらには食品やペット業界など幅広い新領域へと事業を拡大している。日本発の特許技術で世界中の悩みを解決へと導く前田氏に、起業の背景や今後の展望を聞いた。
行動力で切り拓いた起業への道と「ダチョウ抗体」との出会い
ーーまずは、貴社の設立に至るまでの経緯を教えてください。
前田修:
通信機器の営業職から特許ビジネスの世界を経て独立しました。若い頃は通信機器などの営業職に就き、自らの行動力を信じて数を打つことを徹底して、トップの成績を残しました。その後、特許ビジネスに興味を持ち、大学教授や博士などの技術を商品化する事業を展開していました。
大きな転機となったのは、2008〜2009年頃に「ダチョウ抗体」を研究する塚本教授(現・京都府立大学学長)と出会ったことです。当時の私は、アトピーや肌荒れといった美容や健康の悩みを繰り返す人たちの悩みを、根本から少しでも軽くしたいと強く思っていました。世の中の多くは「症状がでた後のケア」に偏っていましたが、塚本教授のダチョウ抗体は原因に近いところへ働きかける「上流遮断」という新しい発想を持っていました。そのような、この世界で唯一の特許技術を通じて、「補う美容」から「守る美容」へと市場の考え方を変えるために、2011年1月にジールコスメティックスを設立したのです。
ーー起業を通じて実現したかったことや、経営者を志した理由は何でしょうか。
前田修:
最大の理由は、自分の信じる価値を自分の責任で世の中に届けたいと考えたからです。世の中には本当に良い技術や商品があるにもかかわらず、伝え方を間違えたり短期的な利益を優先したりした結果、必要としている人に届かないことがあります。私はその現状がとても悔しかったのです。
美容や健康の悩みは見た目だけでなく、人に会う自信や生きる前向きさにまで関わる、人の人生に触れる問題です。だからこそ、誰かの方針に従うのではなく自分自身が責任を持って判断し、誠実に価値を届ける立場になりたいと思いました。経営者になるということは、誰の痛みに向き合い、短期の利益と長期の信頼がぶつかったときにどちらを選ぶかを決めることです。悩んでいる人に対して誠実に向き合い、日本発の独自技術を世界に誇れる形で育てたいという想いが、起業を通じて実現したかった私の原点です。
「起きた後のケア」ではなく「なぜ繰り返すのか」に向き合う

ーーダチョウ抗体の強みと、商品開発における独自の考え方を教えてください。
前田修:
ダチョウの抗体(ポリクローナル抗体)は、熱や酸・アルカリに強く、人間の皮膚上や体内などの多様な環境でも機能しやすいという強みを持っています。肌や頭皮、口腔内には、それぞれ本来のバリア機能や菌のバランスといった秩序があります。私たちはそこを過剰に壊すのではなく、原因物質や環境変化などの本当に根本の悩みの背景に対して、原因に近いところで先回りして働きかける「上流遮断」という考え方を大切にしています。
レッドブルが飲料を「エナジー」に変え、iPhoneが電話を「プラットフォーム」に変えたように、ダチョウ抗体は既存市場に新しい意味を埋め込む技術です。「肌に何を足すか」ではなく「何から守るか」という問いを立て、「補う美容」から「守る美容」へと市場そのものを再定義する事業を展開してきました。
ーー独自の考え方をもとに、現在はどのような製品を展開されているのでしょうか。
前田修:
スキンケアではプロ向けの「Adsorb」や「better future」、さらにヘアケア製品を展開しています。また、東京医科歯科大学の協力のもと、悪玉菌のみを抑えて口腔内のバランスを保つという、これまでにない画期的なオーラルケア製品も開発しました。私たちは広告に頼るのではなく、製品の確かな実力で評価されることを貫いています。その結果、日本の著名な俳優やハリウッド女優、第一線で活躍するヘアメイクアーティストの方々にも広く愛用していただいています。

技術を生活者の言葉に翻訳し、未来の当たり前をつくる
ーー革新的な特許技術を世の中に広めていく中で、どのような苦労がありましたか。
前田修:
創業期は、世界で唯一の特許技術を誇張せずに正しく、わかりやすい言葉に変えて伝えることに非常に苦労しました。ヒアルロン酸やコラーゲンなどであれば消費者にもある程度のイメージがありますが、ダチョウ抗体には比較される土俵がなく、既存の美容成分と同じ言葉では語れません。「良い技術だから詳しく説明すれば伝わる」と思い込んで、専門的な説明をすればするほど相手の心から遠ざかってしまい、価値があるのに選ばれないという大きな失敗も経験しました。
お客様が最初に知りたいのは、技術の詳細ではなく「自分の悩みに関係があるのか」ということです。そこから伝える順番を変え、まず相手の悩みに寄り添い、その背景に対して技術が持つ可能性を丁寧に伝えるようにしました。特許を生活者の言葉に変える翻訳力と対話を重ねたことが、今の経営の土台になっています。
ーー事業を通して感動する瞬間や、今後目指していきたい組織の姿をお聞かせください。
前田修:
一番感動するのは、お客様から「使ってよかった」「もう一度、人に会うのが楽しみになった」と言っていただける瞬間です。私たちが届けているのは単なる商品ではなく、その人の安心や自信、明日を前向きに迎える力です。
だからこそ人材の採用においては、能力や専門性以上に、素直さ、誠実さ、学ぶ姿勢、そして人の痛みに気づける感性を大切にしています。私が軸にしている考えの一つに、知っていることと行うことは本来ひとつであることを意味する「知行合一」があります。相手の不安を理解し、誠実に伴走できるような、知識を行動に変えられる自立した教育型組織を育てていきたいと考えています。
知財・教育・AIを駆使して少数精鋭で世界へ挑む

ーー今後の社内改革や、新領域および海外への展開ビジョンを教えていただけますか。
前田修:
弊社の強みは、特許技術の独自性、上流遮断という考え方、幅広い領域への横展開力、そして社会実装力の4つにあります。現在、これらをさらに強化し、単なる原料メーカーではなく「世界で唯一のダチョウ抗体技術を社会実装する知財・教育・AI型企業」へと進化すべく、3つの社内改革を進めています。具体的には、営業やFAQのAI標準化による「少人数高収益体制の構築」、使用感や継続率などの蓄積を活かす「データ経営の推進」、価値を正しく語れる「教育型組織への転換」です。
この強みと仕組みを活かし、今後はコーヒーや紅茶、塩・醤油・ドレッシングといった調味料などの食品分野への抗体活用をはじめ、ペット業界やまつ毛サロン展開などを進めています。また、円安を活かして日本から製品を輸出する形で海外進出にも注力しており、インドのボリウッド市場やアフリカ・北米・EU・アジア圏への展開を狙いながら、日本発の技術で世界中の人の生活を守る未来をつくっていきます。
編集後記
目先の利益ではなく「人の悩みを根本から解決したい」と願う前田氏の真摯な姿勢が、取材を通して強く心に響いた。技術の凄さに甘んじることなく、一人ひとりの切実な悩みに寄り添い、未来の安心を届けるために知識を行動に変える「知行合一」の信念は、組織の隅々にまで浸透している。誇張のない実力で国内外の厚い信頼を獲得し、「上流遮断型ウェルネス企業」として人々の生活を先回りして守る同社のさらなる飛躍が楽しみだ。

前田修/2011年1月に株式会社ジールコスメティックスを設立。代表取締役に就任。