※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

「ゲートポンプ®」という製品を知っているだろうか?主に全国の排水機場で使用されている、住宅地に溜まった雨水を大きな河川や海に排水するシステムだ。佐賀県にある株式会社ミゾタは、そんなゲートポンプのトップシェアメーカーだ。

取締役社長である井田建氏は、トップシェアを維持しつつ、誰もが働きやすい社内環境の整備にも力を入れている。取り組み内容は、残業代の削減やライフステージに合わせた働き方、女性の活躍推進など多岐にわたる。

なぜ井田社長は「働きやすさ」に注力するのか。会社における取り組みや社長の大切にしている考えなどについてうかがった。

ゲートポンプの製造や、バイオマス事業にも取り組む

ーー貴社の事業内容を教えてください。

井田建:
弊社の主要事業は鉄鋼製品の設計・製造です。特に水門とポンプを一体化させたゲートポンプに力を入れており、国内でトップシェアを誇っています。

また、弊社が特許を取得している「加圧熱水抽出技術」を用いたバイオマス(生物由来資源)事業にも新たに取り組んでいます。

従来よりも有用成分をより高純度で抽出できる方法で、こうして抽出したエキスを食品、製薬、化学、製紙企業などに販売し、加えて化粧品の企画・販売も行っています。今後も他社と協力しながら、技術をより広めていきたいと考えています。

ーー会社をあげて働きやすい環境整備に取り組んでいるとうかがいました。

井田建:
弊社では世の中の生活スタイルの変化に合わせて、可能な限り社員に寄り添う努力をしています。

夫婦共働きや男性の家事・育児への参加が当たり前になるにつれて、転勤や長期出張がある働き方は受け入れられないという人も一定数います。

環境整備の取り組みの例として、基本的に転勤や長期出張がない「限定総合職」という職種の創出があります。限定総合職はライフステージに変化があっても仕事を続けやすく、最近では社内結婚して夫婦とも社内に残る動きも出ています。

ーー女性の活躍推進にも力を入れているそうですが、どのような対策を行いましたか?

井田建:
女性採用数の大幅な増枠や、各部門における女性ポストの創出に取り組みました。

これらの推進によって、それまで女性がいなかった部門でも女性が活躍できるようになり、設計部門では女性が3、4割を占めるようになりました。また、工場でも女性が活躍できる環境を整えており、特に工作機械を扱う部署では段階的に女性オペレーターが増えてきています。

また、子育てをしながら働きやすい環境の構築にも取り組んでいます。
たとえば育休取得率は女性、男性ともに100%を達成しています。他にも保育園との連携や佐賀県が推進する子育て応援宣言事業所への登録、厚生労働大臣認定マーク「くるみん」を取得するなど、より社員が働きやすい環境を整えています。

経営課題の解決と社員の働きやすい環境づくりに注力

ーー残業代の大幅な削減にも成功したとうかがいました。

井田建:
業務の生産性向上を実現するために残業代削減に取り組み、約1億円の削減に成功しました。

私が社長に就任した当時は、年間800時間以上も残業する社員がいるような、長時間残業があたり前の環境でした。年間の残業代は1億7,000万円にも上り、とても生産性が高いとは言えない状態でした。

そこで、この問題を解決するために、長きにわたり、生産設備への投資、労働環境の整備・改善、そして粘り強く人材育成に取り組んできました。その結果、今現在、全社員の残業は年間平均150時間以下になり、残業代を7,000万円まで削減できました。削減した残業代は給料に還元することで、従業員のやりがい向上につなげています。

ーー佐賀大学と提携してインターンの受け入れ態勢を整えているそうですね?

井田建:
佐賀大学の理工系の学生を対象に「有給インターンシップ」を実施しています。有給インターンシップとは、インターンシップ生が賃金を受け取りながら実務を経験できる制度のことで、実際の業務を通じて会社の人間関係になじめるメリットがあります。

また、奨学金を借り入れている学生を対象にした「奨学金の返済支援制度」があります。就職後に奨学金の返済に悩まされる方は多く、特に若者世代においてはその傾向が顕著です。支援額は月に1万円程度ですが、少しでも負担を減らせればと思います。

ポンプ業界における存在感の拡大やバイオマス事業のニッチ戦略

ーー今後の展望をお聞かせください。

井田建:
ポンプ業界における存在感をさらに高めたいと考えています。弊社はゲートポンプというニッチな分野ではトップシェアを獲得していますが、それに満足するのではなく、海外に目を向けつつ、より広い展開を検討していきたいと思います。

また、バイオマス事業は弊社独自のポジションとして育てていく予定です。他社から抽出技術についての問い合わせをもらうことが多いので、ポテンシャルを活かした成長の道筋を探っていきます。

その他にも、社屋の建て替えのタイミングでDXの動きも加速させていきます。DXへの取り組みによるペーパーレス化の恩恵は大きく、仕事を共有しやすい環境の構築や、業務の脱属人性の推進などに高い効果があると考えています。最終的には完全なペーパーレス化を実現し、一層の業務効率化を実現したいと考えています。

ーー最後に、社長が大事にしている価値観を教えてください。

井田建:
京セラ創業者である稲盛和夫氏の思想に大きくかかわっていた「利他の心」を大事にしています。利他の心とは、自分のためではなく誰かのために行動するという行動原理です。仕事の本質とは他者や社会のために価値を提供することですので、まさに利他の心と合致します。

他者や社会に貢献したことは最終的に自分に返ってきます。最も身近な存在である社員とその家族、そして顧客の皆様のためを考え、これからも社会に価値を提供できる会社であり続けたいと考えています。

編集後記

「誰もが働きやすい会社を目指します」と言うのは簡単だが、実現するのは簡単ではない。ミゾタが現在の環境になるまで、多くの苦労があったはずだ。

大きなことを成し遂げるには、まず小さな一歩から。ミゾタがゲートポンプというニッチ分野でトップを維持しているのも、職場環境の整備と同じように小さな一歩を大切にしてきたからではないだろうか。利他の心を大切にする井田社長率いる同社の、今後の活躍に注目したい。

井田建/1972年佐賀県生まれ。同志社大学卒業。2000年、株式会社ミゾタに入社し、主に営業部門を経て2004年より取締役社長に就任。2017年より一般社団法人さが藻類バイオマス協議会の会長も務める。