
株式会社JMCの代表取締役社長である松田憲明氏は、銀行やIPO支援といった金融の最前線でキャリアを築いたのち、2014年に同社へ参画した。当時は厳しい財務状況にあったが、培ってきた資金調達の手腕で経営基盤を立て直すとともに、社員たちと共に現場の課題に愚直に向き合うアプローチで危機を乗り越え、経営を再建。さらに、児童生徒への1人1台端末など学校のICT化を一挙に進める国の施策「GIGAスクール構想」の波を捉え、会社を急成長へと導いた。「100年存続できる会社にする」という強固な信念のもと、ICT導入にとどまることなく異業種をつなぎ合わせ、教育現場の課題に切り込む同氏に、教育を支えるインフラ構築について話を聞いた。
確かな再生手腕と強固な信念
ーーご入社当時の厳しい財務状況から、どのように貴社を再建へと導いたのでしょうか。
松田憲明:
まずは資金繰りと財務の立て直しを図りました。私が入社した当時は財務状況が非常に厳しく、前職の銀行員時代に培った金融機関とのネットワークや、ストラクチャー構築の知見をフルに活用して経営の健全化を進めました。数年かけて安定した状態に戻したタイミングでGIGAスクール構想が始まり、大規模な資金調達が必要になったものの、それまでの地道な折衝と関係構築が実を結び、結果として会社を一気に成長させることができたのです。
ーー会社を牽引する中で、経営者として最も大切にしている価値観をお聞かせください。
松田憲明:
一番の信念は「100年存続できる会社にする」ということです。事業が存続できなければ、社員が幸せになる基盤も、教育現場への貢献も失われてしまいます。成長を追い求めることも大切ですが、リスクをとりつつも絶対に持ちこたえる組織をつくることが私の最優先事項です。
また、組織を存続させ成長させるためには、「自分より優秀な人材」を積極的に採用し、権限を委譲していく器の大きさが必要だと考えています。私自身は社長室にこもらず、外部へ足を運んでさまざまな人脈を築き、その知見を社内に還元して新たなアイデアへと昇華させることが大きな役割です。
「コンステレーション」でつなぐ教育現場と異業種

ーー学校教育とICTを掛け合わせる上で、貴社ならではの強みはどこにありますか。
松田憲明:
現場の課題に対して、最適な解決策を「コーディネート」できる点です。単にICT機器を導入して終わるのではなく、運用保守・利活用までサポートすることはもちろんのこと、異業種が持っているさまざまな技術を組み合わせる私たちの手法を、星々をつなぐ「コンステレーション(星座)」と呼んでいます。
たとえば、ICTとは直接関係ないかもしれませんが、学校の屋上に太陽光発電だけを設置しても電気を有効に使えなければ意味がありません。そこに蓄電池を扱う企業をつなぎ合わせて初めて、節電という確かな価値が生まれます。優れた技術を持つ企業を結びつけ、現場に明確な答えを提示するのが私たちの役割です。
ーー独自性を最前線で支える貴社のエンジニアは、現場にとってどのような存在ですか。
松田憲明:
高度なICT技術を一方的にかざすのではなく、現場の先生や子どもたちの目線に立ち、真摯に困りごとに応える「スクールエンジニア」ですね。実は、全社員の約4分の1が教員免許を持っています。だからこそ、学校内のサーバーやネットワーク整備から日常的なトラブル対応まで、かゆい所に手が届く存在として頼りにされています。私たちは産官学金連携を推進し、学校現場が何でも相談できるパートナーになることを目指しています。
苦境を乗り越えて培われた「チームJMC」の温かいカルチャー
ーー社員の皆さんがいきいきと働ける環境づくりの秘訣を教えてください。
松田憲明:
「チームJMC」という、部署や役職の垣根を越えて助け合う風土が根付いていることです。これは会社が厳しい状況にあった時期に、社員同士が支え合い、現場へ足を運んで危機を乗り越えた経験から生まれました。この温かいカルチャーは働きやすさや制度にも直結しており、現在では育休取得率がほぼ100%に達しています。ライフステージが変わっても長く安心し、柔軟に働けるダイバーシティを尊重した環境が整っています。
また、お客様に高品質なサービスを届け続けるには、まず社員自身が心身ともに健やかに働ける環境が不可欠であるという前提を徹底しています。社員の健康に関する取り組みを愚直に行った結果、横浜健康経営認証の最高ランク「AAAクラス」をはじめ、健康経営優良法人などの認定をいただくことができました。今後も社員がいきいきと活躍できる場を追求し、お客様に選ばれ続ける企業を目指します。
ーー温かい風土をさらに醸成するための、独自の取り組みについてお聞かせください。
松田憲明:
コミュニケーションを活性化させる取り組みとして、「おやつランド」というイベントを実施しています。拠点ごとに時間を決め、美味しいお菓子やコーヒーを楽しみながら、役員も参加して交流を深める場です。AIによる業務の効率化が進み、リモートワークで直接顔を合わせる機会が減っている今だからこそ、あえてこうしたリアルな社内イベントや繫がりを重視しています。
昨年迎えた創立50周年では、社員の発案で創立記念日の名称を制定することになり、全社で公募と投票を行い、9月18日を「教育の未来を育む日」と定めました。会社から与えられたものではなく、みんなの想いを重ねて創り上げたこの日を、これからも私たちは大切にしていきます。楽しく働ける環境づくりには、今後も投資を続けていきます。
AI時代の「本質的な教育」と多世代共生のまちづくりへ
ーー教育分野において、今後見据えているビジョンはどのようなものですか。
松田憲明:
学校という枠組みを超えて、教育を起点とした「まちづくり」や「多世代共生」の実現に貢献していくことです。すでにメタバースを活用した支援や、障がい者スポーツの応援など、地域社会とダイバーシティの構築に向けた活動を始めています。さまざまな外部組織と産官学金連携のコンソーシアムをつくりながら、社会全体で課題を解決する仕組みを構築していきます。
ーー急激なAIの進化に対し、これからの教育はどう変わっていくべきだと考えていますか。
松田憲明:
AIを単に導入するのではなく、正しく理解し活用するための「リテラシー教育」が極めて重要になると考えています。AIによる効率化が進む一方で、人間的な学びや本質的な教育の価値は決して失われません。幼児期から社会人までシームレスにつながる「教育のOS」を構築し、時代に即した教育インフラを支えていくことが、私たちの使命だと感じています。

編集後記
「100年存続できる会社にする」。松田氏の口から静かに、しかし力強く語られたこの言葉には、数々の修羅場を潜り抜けてきた経営者としての重みと、社員や教育現場への深い愛情がにじんでいた。精緻な金融の知見を持つ一方で、現場の切実な課題に熱く向き合い、次々と外部へ足を運ぶその人間味あふれる行動力こそが、同氏の最大の魅力だろう。一企業の枠組みにとどまらず、社会全体の多様な技術を星座のようにつなぐことで、真に価値ある解決策を生み出そうとする姿勢には胸を打たれた。日本の教育インフラを根底から支え、誰もが生きやすいインクルーシブな多世代共生社会の未来を創り出そうとするその熱き挑戦に、これからも大きな期待を抱かずにはいられない。

松田憲明/1960年、横浜市出身。1984年、慶応義塾大学商学部卒業。2014年、株式会社JMCに入社、常務取締役を経て2024年6月、代表取締役社長に就任。