
大学進学を辞退し、18歳で飲食業界へ飛び込んだ水口大地氏。現在同氏が率いる株式会社KAKEGOEは「飲食×物流×福祉」という独自のビジネスモデルを武器に、事業を着実に拡大している。一人の若者の決断が、多店舗展開を成功させる強固な経営基盤へとつながった。その背景には「儲かるか儲からないか」というシビアな判断軸と、現場に根差した徹底的な合理化の仕組みがあった。AI技術が台頭する現代において、あえてフィジカルな価値にこだわる、同氏のリアルな経営観と、未来のビジネスパーソンに向けたメッセージに迫る。
創業の原体験と「リアルな経営哲学」
ーーまずは、飲食業界へと入った経緯をお話しいただけますか。
水口大地:
高校3年生の12月頃に、飲食店の応募チラシを見たことがきっかけです。当時はすでに大学への進学が決まっていたものの、働き始めた8坪ほどの小さな串カツ店で、大人たちが私を一人の人間として真剣に向き合ってくれたことに感動を覚えました。社会人と対等に関われる喜びに触れ、仕事の楽しさへ次第にのめり込んでいったのです。
その後、進学について思い悩んでいた私に対し、当時の社長が「このまま4年間通って学歴を取るか、ここで働いて400万円を貯めるか。4年経ったとき、同い年は学歴を持っているが、君は学歴がない代わりにお金を持っている。その違いで頑張れ」とアドバイスをくれました。この言葉に大きく背中を押され、進学せずに現場で働く道を選びました。
ーー当時の経験から得た教訓を教えてください。
水口大地:
「お金がないとビジネスは成り立たない」という痛烈な教訓です。父親のように慕っていた当時の社長が亡くなった際、実は店舗の資金繰りに大変苦労していた事実を知りました。厳しい経営の現実を目の当たりにしたことで、お金の大切さを改めて痛感したのです。そのため、現在の私が持つ経営の判断軸は「利益を出せるかどうか」という非常にシンプルなものになっています。まずは会社を強くして、決して潰さない状態をつくることが大前提です。しっかりとした利益を生み出せなければ、現場で働く従業員へ還元することもできません。
圧倒的成長を支える「飲食×物流×福祉」の独自モデル

ーー会社を強くする上で、店舗数を拡大できている最大の要因は何でしょうか。
水口大地:
屋号をそろえて特定の地域に集中出店する「ドミナント戦略」に振り切ったことです。単独の「点」ではなく、エリアという「面」で勝負する体制をつくりました。本部にリソースを割き、店舗同士で協力して問題解決にあたれる仕組みをつくったことが出店の加速につながっています。
ーードミナント戦略を機能させるための具体的な仕組みをお聞かせください。
水口大地:
物流の内製化とセントラルキッチン、そして福祉事業の連携です。まず、自社の物流倉庫を持ち、問屋を通さずメーカーから直接大量に仕入れることで原価を大きく抑えました。そこから自社便で各店舗に一括配送する流れをつくり、大幅なコストダウンを実現しています。
さらに、セントラルキッチンの隣には就労継続支援A型事業の施設を併設しました。以前、耳の不自由な方が求人に応募してくださり、実際に働いていただくと非常に優秀だったことが施設立ち上げのきっかけです。ハンディキャップを持つ方でも十分に活躍できる場をつくれると気づき、環境を整えました。こうした飲食、福祉、物流を掛け合わせた独自の仕組みにより、製造コストの20%削減に加え、各店舗における仕込み作業の50%削減にも成功しています。
顧客を惹きつける戦略と「社名」に込めた思い
ーー社名である「KAKEGOE」の由来を教えてください。
水口大地:
日々の業務で自然と口にする「かけ声」を大切にしたいという考えが由来です。例えば、店舗をつくる際には、現場で最も多く交わされる言葉を屋号にしたいと考え、メインブランドを「あいよ」と名付けました。「あいよ」という掛け声が日常の風景になれば、お客様にも自然とお店の存在を覚えていただけます。このように、私たちが営業中に発する言葉の力を重視しているため、社名を「KAKEGOE」としました。会社全体としても、「ありがとう」といった感謝の言葉が常にあふれる組織でありたいと考えています。
ーー集客や空間づくりにおいて、どのような工夫を凝らしていますか。
水口大地:
キラーコンテンツとして、看板メニューの「99円のえび串」を提供しています。原価が70円ほどかかるため利益は少ないですが、宣伝広告費と割り切って、その分、他のドリンクなどのメニューをご注文いただくことでトータルで利益を確保する仕組みです。
また、店舗空間はあえてお客様を「詰め込む」ような密度の高い配置にしています。お客様同士の距離が近くなり、オープンキッチンから伝わるスタッフの活気と相まって、お酒を飲みたくなるような空間を生み出しています。
AI時代こそ「フィジカル」が勝つ 急拡大する次世代チェーンが求める人材
ーー今後の事業展開については、どのような考えをお持ちでしょうか。
水口大地:
まずは、売上の拡大が第一だと考えています。今期は売上17億円を見込んでおり、2、3年後には30億円へ到達させることが目標で、そこまでは現在と同様に直営店で出店を続け、より強固な経営基盤を構築する方針です。その後、2030年頃を目処にライセンス契約による外部企業との連携へ移行する構想を持っています。さまざまな地域の企業と協力し、より広い商圏での店舗展開へとつなげていく考えです。
ーー最後に、今後の店舗展開をともに担う求職者へのメッセージをお願いします。
水口大地:
弊社は社員の平均年齢が26歳と、20代でもマネジメントに挑戦し、裁量を持てる環境が整っています。入社してくださる方には魚のさばき方といった「職人」としてのスキルよりも店舗展開のノウハウや数字の管理など「経営者・ビジネスパーソン」としての知識が学べることをお約束します。これからのAI時代において飲食業のように直接お客様と関わる「フィジカル」な仕事はかえって価値が出ると確信しています。熱意を持ってビジネスを学び、チャレンジしたいと思う方はぜひ一緒に頑張りましょう。
編集後記
取材を通して最も印象に残ったのは水口社長の「儲かるか儲からないか」という極めて合理的でシビアな判断軸と、そこから生み出される盤石な経営システムだ。18歳での決断から独自のキャリアを歩み「お金」の重要性を知るからこそ物流の内製化や福祉事業との連携という無駄のない仕組みを構築できたのだろう。AI全盛の時代にあえて人と人とが直接関わる飲食業の価値を信じ、次世代の経営者を育てようとする同社。着実にビジネスの可能性を広げていくその躍進に、今後も注目していきたい。

水口大地/1992年、京都府生まれ。18歳で飲食店に出会い、24歳で飲食業界にて独立し、2019年に株式会社KAKEGOEを設立。京都府を中心に飲食事業を展開し、現在は16店舗を運営。「ありがとうが溢れる、一人一人が実現力のある会社」を理念に、人材育成と地域活性化に取り組んでいる。