
全国各地で多彩なホテルブランドを展開し、日本のホテル業界を牽引してきた東急ホテルズ&リゾーツ株式会社。かつて「チェーンホテルといえば東急」と呼ばれた同社は今、パイオニアとしての立ち位置を再構築すべく、組織のマインドチェンジとグローバル展開へと大きく舵を切っている。現場から総務、そして店舗開発まで幅広い業務を長年経験し、2025年に経営トップへと就任した武井隆氏に、同社の強みと未来への展望を聞いた。
現場から総務へ 経営の土台を築いた15年の歩みと「人に頭を下げる面白さ」
ーーまずは、ホテル業界に足を踏み入れたきっかけをお聞かせいただけますか。
武井隆:
大学時代にイタリアンレストランで4年間アルバイトを続けた経験から、サービス業への適性を実感したことが始まりです。私はサービス業には「人に頭を下げる面白さ」があると考えています。お客様に頭を下げ、誠実なコミュニケーションをとり、喜んでいただいて名前を覚えてもらう。そこに仕事としての面白さや楽しさを見出せたことが、この世界へ飛び込む大きな動機となりました。
ーー貴社に入社後は、どのようなキャリアを歩まれたのですか。
武井隆:
最初の1年半ほどはホテルの現場でドアボーイなどを経験し、その後、営業職を経て本社の総務へ異動しました。総務には15年ほど携わり、当時の厳しい環境下における事業再編など、経営に直結する重要な局面に立ち会いました。当時の総務の仕事は非常に幅広く、社長秘書のような役割も担っていました。
実は当時の社長が読む原稿を自分で書く機会もあり、「社長だったらどう発信するだろうか」と、高い視点に立って自分なりの考え方を整理できたことは、非常に有意義な経験でした。また、法律や企業組織のあり方を深く学び、社外の金融機関や専門家の方々と共通言語で築いたネットワークは、現在の私の大きな土台となっています。
その後、店舗開発にも15年ほど携わり、新しいホテルをマーケットに送り出す視点も養うことができました。この現場、総務、開発という一連の経験が、今の私の経営視点を形づくっています。
「食のハーモニー」と複数ブランド展開で再びパイオニアの立ち位置へ

ーー武井社長から見た、貴社ならではの強みはどこにあるとお考えですか。
武井隆:
大きく分けて2つあります。
1つ目は、複数のブランドを展開している独自の事業モデルです。一般的なホテルチェーンは単一のカテゴリーで展開することが多いですが、弊社はエントリー向けのブランドからラグジュアリー、リゾートまで、幅広いブランドの選択肢を用意しています。これにより、お客様のライフステージの変化や景気の動向に合わせて利用するカテゴリーを変えていただけるため、非常に多くのお客様に長く支持されるという強みがあります。
2つ目は、私たちが「食の東急ホテルズ」と標榜している「食」のクオリティです。弊社の料理は国内外のコンクールでさまざまな実績をいただいており、レストランはもちろん、大人数が集まる宴会でも多くのお客様に美味しいと喜んでいただける自信を持っています。そして、この食の魅力を最大限に引き出すのが日々のサービスです。これは弊社の総料理長も日頃から大切にしている言葉なのですが、料理とサービスが美しく合わさってこそ生まれる「食のハーモニー」を、私たちは非常に大事にしています。
ーーその強みを活かして、今後はどのような組織を目指していますか。
武井隆:
かつてのように「一番初めに新しいことを始める」という、本来のパイオニアとしての立ち位置を再構築したいと考えています。競合他社の台頭などにより一時期は慎重な姿勢が強まっていましたが、自ら考えて果敢に行動する「マインドチェンジ」を社内に求めています。特に柔軟な感性を持つ20代や30代の若手社員を中心に、私の発信するメッセージが響き、自発的に動いてくれる人材が着実に増えている手応えを感じています。
次世代リーダーの育成と日本初「グローバルアライアンス」への参画
ーーマインドチェンジを促すために注力されているテーマについて教えてください。
武井隆:
次世代リーダーの育成ですね。総支配人向けのマネジメント研修のほか、将来の会社を背負う意欲のある一般職を対象とした研修プログラムを、社長就任前から実施しています。基礎知識の習得からクリエイティビティを磨く講座まで幅広く行い、私自身も直接対話の機会を設けてきました。また、全社員に向けて毎月1回、私自らが動画でメッセージを発信する機会をつくっています。この動画では話が固くならないよう、部長や総支配人ではなく一般職に近い社員を招き、対談形式で伝えることで、社員に身近に感じて聞いてもらえるよう工夫しています。
ーー海外市場に向けたグローバル戦略についてもお聞かせください。
武井隆:
日本で初めて世界的な独立系ホテルブランドのネットワークである「グローバル・ホテル・アライアンス(GHA)」に参画しました。現在、弊社の外国人客は東アジアやアメリカが中心ですが、GHAに加わることでヨーロッパや中東などの新たな顧客層を積極的に取り込んでいく考えです。世界に通用する街である「渋谷」のホテルと、お客様からの評価が高い「リゾート」。この2つを強みとして伸ばし、世界市場へアピールしていきます。
「変革を恐れない」組織へのリモデルと未来をともにする仲間へ
ーー変革を推進するにあたり、採用活動ではどのような人材を求めていますか。
武井隆:
現在、中途採用に非常に力を入れており、特に弊社のマネージャークラスに届く少し手前の層を歓迎します。社内のメンバーに対しては「変革を恐れないでほしい」というメッセージを常に伝えていますが、外部から新しく加わる方には「新しいものをつくる創造意欲」を大いに期待したいところです。これからの変革を前向きに捉え、新しいことにチャレンジする気持ちを持った方とともに、この変化の激しいマーケットを生き抜いていきたいと考えています。
ーー変革をともにする仲間たちと描く、今後の展望をお聞かせください。
武井隆:
向こう3年間で、弊社のビジネス構造全体を「リモデル」していく方針です。グローバルマーケットでの評価を高めて客室単価を上げると同時に、働き方やコスト構造の抜本的な見直しを行います。この収入向上とコスト管理の両輪をしっかり噛み合わせることで利益率を向上させ、東急ホテルズ&リゾーツをさらに強く、持続可能性のある組織へと成長させていきたいと考えています。
編集後記
「人に頭を下げる面白さ」という現場での気づきからキャリアをスタートさせ、総務や店舗開発を経て経営トップへと上り詰めた武井社長。かつてのパイオニアとしての誇りを取り戻すという力強い言葉からは、自社の歴史とブランドに対する深い愛情が感じられた。日本初となる世界的な独立系ホテルブランドのネットワークへの加入や、ビジネス構造の抜本的なリモデルなど、次々と新たな一手を打つ東急ホテルズ&リゾーツ株式会社。「変化を恐れない」組織へのマインドチェンジが加速する今、世界市場でどのような飛躍を見せてくれるのか、その展開が楽しみだ。

武井隆/1964年、神奈川県出身。1988年に國學院大學を卒業後、東急ホテルチェーン(現・東急ホテルズ&リゾーツ株式会社)に入社。入社後約1年半はドアボーイや営業職などホテルの現場を経験し、その後本社総務へ異動。以降はファンドプロジェクトや店舗開発、経営企画など事業の根幹に関わる多様な業務に長年携わる。執行役員事業企画部長、専務執行役員 セルリアンタワー東急ホテル総支配人などを経て、2025年6月に代表取締役社長に就任。企業価値向上と持続的成長を見据え、「笑顔で変革や挑戦を楽しむ」企業文化の醸成とグローバル展開を牽引している。