創業190年以上の歴史を持つ日本料理の老舗「なだ万」。2024年に中間持ち株会社のアサヒグループジャパンが事業を売却し、企業の社食や高級回転寿司「銀座おのでら」を運営するONODERA GROUPの一員となった。
「料亭=敷居が高い」というイメージを身近にする戦略や、従業員が働きやすい環境づくりに注力する理由などについて、代表取締役社長の長尾真司氏に話をうかがった。
老舗料亭を買収した経緯。最大の強みは伝統の味を守り続けてきた従業員
ーーまず、なだ万を買収された経緯を教えていただけますか。
長尾真司:
以前からお付き合いのあったアサヒグループジャパンの担当者様から、譲渡先の候補としてお声がけいただいたことがきっかけです。グループ全体のシナジー効果もあり、エントリーいたしました。日本有数の老舗料亭なので他社も名乗り出ているとうかがっていましたが、なだ万に対する愛をアピールした結果、このようなご縁をいただきました。
ーー貴社の事業内容についてお聞かせください。
長尾真司:
創業195年の歴史を持つ、料亭「なだ万」を運営しています。同店は高級料亭というイメージが先行していますが、ホテルや百貨店、商業施設などにも出店しており、店舗ごとに価格帯が異なるので、百貨店などの店舗は、より身近にお食事を楽しめます。
なお、レストラン経営以外に自宅でなだ万の味を楽しめる弁当や惣菜のほか、贈答用のギフト商品の製造・販売も行っています。なだ万の魅力は、何といっても味の美味しさです。しかし、弊社の一番の強みは、間違いなく従業員です。優秀で真面目な従業員たちこそ、弊社の財産だと思っています。
若い世代を集客するため新たな切り口でPR
ーー顧客層にはどのような方が多いのですか。
長尾真司:
店舗にお越しになるお客様は、長年なだ万のファンでいらっしゃる方が多いですね。ご家族で利用される方も多く、2世代、3世代でお越しいただいています。ただ、若い世代には「料亭は高級すぎて入りにくい」という方が多いのが現状です。また、「お弁当を販売している店」と認識され、レストラン経営をしていること自体をご存じない方もいらっしゃいます。
そこで、今後はセカンドブランドをPRし、気軽に利用していただけるお店をつくっていきたいと考えています。カジュアルなメニューの開発も進めており、若い世代の方々が懐石料理に触れるきっかけになればと思っています。
弁当事業では上品な懐石弁当に加え、一つの食材に特化したインパクトのある弁当の開発に取り組んでいます。肉や魚などのなだ万の看板メニューをメインにし、多くの方の興味をそそるような商品を検討中です。さらに、お弁当に一品足したいときにぴったりの商品開発も行っています。社是に「老舗はいつも新しい」と掲げているように、伝統的な味を守りつつ時代に合ったサービスを提供していきます。
未来永劫続く会社にするために組織の基盤を強化
ーー経営者としてこれからどのように舵取りをしていこうとお考えですか。
長尾真司:
私の一番の使命は、多くの方の手によって受け継がれてきた事業を守ることです。そのためにも、まずは自分たちが幸せでなければ、お客様を喜ばせることはできません。そこで、従業員たちが長く働ける職場にするために、待遇改善を行いたいと考えています。
その一環として、全従業員に対し、年に1回は面談をすると宣言しました。仕事をする上で不満に思っていることなどをヒアリングし、環境改善につなげていこうと考えています。
また、面談では利益だけを追求するのではなく、「何のために仕事をするか」を考えるように伝えています。こうして各々が働く理由を明確にし、信念を持って仕事に取り組むことで、モチベーションアップになればと思っています。
ーー具体的にどのような改善をしていくのかお聞かせください。
長尾真司:
給与が高く、休暇がしっかり取れ、従業員が安心して働ける会社を目指しています。私は人生の3分の1を費やす仕事の時間を苦しいものにしたくないですし、ネガティブな理由で退職する人を出したくありません。
こうした負の感情が生まれないようにするために、労働環境を整え、働いている人が幸せを感じられる組織にしたいと考えています。それに加え、新たなポジションを新設し、若手でも努力すれば昇格・昇給できる環境をつくろうと計画しています。弊社は入社30年以上のベテランが多いため、若手が上のポジションに上がりにくい構造が課題です。
調理長以外にも新たな役職をつくり、一人ひとりの努力が反映される仕組みづくりをしたいと思っています。創業300年、400年をこの先迎えられるよう、私の代で組織の基盤を固めていきます。
従業員の思いを大切に築く長寿企業の未来
ーー最後に今後のビジョンをお聞かせください。
長尾真司:
事業の成長はもちろん大切ですが、何より人が辞めない会社にしたいと考えています。弊社の従業員は「お客様を喜ばせたい」という気持ちが強く、仕事熱心で真面目な人ばかりです。
特に長年働いている従業員は本当になだ万が大好きで、その思いだけでこれまで仕事に向き合っているのです。ここまで会社に尽くしてくれた従業員に報いるためにも、適切に評価する体制を構築していこうと考えています。
そして300年、400年と続く会社にするには、従業員に「この会社に入って本当によかった」と思ってもらうことが不可欠です。そのためにもベテランの評価を上げながら、若手もやりがいを持って働ける環境を整えていきます。
編集後記
インタビュー中、終始従業員の方々を讃える発言をされていた長尾社長。経営者として長年にわたりなだ万を支えてきた職人たちを守りたいという、強い思いを感じた。株式会社なだ万はこれまでの伝統を大切にしながら、若い年齢層の顧客を開拓するため、新たな挑戦を続けていく。
長尾真司/和・洋・中の料理人として経験を積んだあと、株式会社LEOCに入社し、給食事業のマネジメントを経験。SUSHI GINZAONODERA INCの代表取締役CEOに就任後、2024年に株式会社ONODERAホールディングスの代表取締役社長に就任し、グループのフードサービス事業全体を指揮している。同年に創業194年の歴史を有する老舗日本料理店「なだ万」を運営する株式会社なだ万がグループに加わり、同社代表取締役社長に就任。