愛知県に本社を構える株式会社マリノは、1988年に創業。イタリアンレストランを中心に国内外に店舗を構える注目の企業である。2021年には外販事業として冷凍ピッツァの販売をスタートした。同社の勢いを牽引しているのが、代表取締役社長の水野由太佳氏。新業態をスタートさせ、今まさに勢いに乗っている水野社長が描く経営戦略と思いをうかがった。
経営のピンチが新事業のチャンスを与えてくれた
ーー創業の経緯についてお聞かせください。
水野由太佳:
弊社は、街の喫茶店からスタートし、創業者である父がお店をオープンさせたのは、私が生まれた1982年のことでした。事業を拡大しながら、父はイタリアのパブを彷彿とさせるような空間でお客さまが楽しんでもらえる店舗づくりを目指していました。
また、父は日頃から「来店されるお客さまに対するおもてなしは、大切な人を自宅に招いて料理をつくっておもてなしするのと同じ」という姿勢で、事業を展開していました。
ーー経営を担うようになり、苦労されたことは何ですか?
水野由太佳:
とくに業績が伸び悩んでいた時期は、メンタルを削られたことがあります。また、コロナ禍や世界情勢のあおりを受けて経営難に陥ったときには、まずは今までにないことを始めようと決めました。
その1つが、「ごちそう焼むすび おにまる」という新業態の店舗です。外販事業として冷凍ピッツァの販売をスタートさせたのも、コロナ禍中の2021年です。自社製造とOEM製造の2つで販路を展開するようになり、物販事業の挑戦は今でも続けています。
また、4年間で24店舗をクローズし、逆に16店舗を新規オープンさせる、いわばスクラップアンドビルド(※)の発想で経営環境を整えている状態です。
(※)スクラップアンドビルド:老朽化した建物や設備などを廃止して、新しい施設・設備に置き換えることによって、サービスの最適化や効率化などを実現すること。
ーーコロナ禍の社内の雰囲気はいかがでしたか?
水野由太佳:
社内には「今の状況がこのまま続いたら良くない」という空気感が漂っていましたが、私は経営者として社員を辞めさせることは絶対にしないという断固たる思いがありました。
そこで全社員が参加できるオンライン会議を開催し、経営方針や私の考えを発信し続けたことで、社内が一致団結することができました。これは間違いなく「ピンチはチャンス」という言葉を、体感した出来事だったと思います。
イタリアンを展開する会社が「おにぎり」に参入?反対を押し切った先に見えた成功
ーー「ごちそう焼むすび おにまる」出店のエピソードを教えてください。
水野由太佳:
私が沖縄のフランチャイズ店を訪れたときに、行列のできる「スパムおにぎり」のお店を見かけたのがきっかけです。そのお店で観光客がおにぎりを購入している様子を見て、「うちのお店もおにぎりをやってみたら面白いかもしれない、需要がある」と感じました。
スタート時は、社内から反対の声も上がりましたが、「ダメなら自分が責任をとる」という覚悟で名古屋の大須商店街のエリアにお店をオープンしたところ、顧客のニーズにマッチしたのです。
ーーおにぎり事業の成功の要因は何ですか?
水野由太佳:
成功の要因は、初出店した場所が良かったこともありますが、マリノのこれまでのおもてなしやエンターテインメント性を踏襲していたのが大きな要因だと思います。
たとえば、マリノでは、ピザ生地をこねて、トッピングして、窯に入れるという過程を間近で見られるという設計にすることで、食べること以外の楽しみもお客さまにお届けする店舗づくりに努めてきました。
「ごちそう焼むすび おにまる」では、おにぎりづくりの実演をお客さまにお見せする店舗設計にしています。ビュッフェなどでも提供してきた経験を活かし、おにぎりもさまざまな種類を並べることで「見て楽しい店舗づくり」に挑戦中です。お客さまを「楽しませる」要素を考えた設計が支持されています。
グローバル出店を支えるための若手育成と変わらぬ価値観
ーーマリノの経営の強みをお聞かせください。
水野由太佳:
従業員に対して、さまざまなステージを提供している点が大きな強みです。現在、弊社はレストラン以外にもフードコート店、キッチンカー、外販など、事業内容は多岐にわたり、働き手の価値観と考えに合わせた活躍の場を設けています。
ーー若手社員も活躍できる場が広がっていますね。
水野由太佳:
そうですね、若手社員には大いに活躍してもらっています。海外赴任するメンバーも出てきました。今後の出店計画を見据えて「中国語圏で働きたい人募集!」と社内公募も行っているので、今後は中国語など語学力のある人が活躍できる会社になると思います。
ーー成長の核となる変わらぬ価値観もありますか?
水野由太佳:
エンターテインメント体験価値をお客さまに提供していくという姿勢は、一貫して変わりません。また、弊社ではチームビルディングにも力を入れ、従業員が自分の持つ能力や経験、特性を最大限発揮できるように、タレントマネジメントシステムを導入しています。弊社の強みとなるのは、まさに「人」です。だからこそ、人にスポットを当てた経営を目指しています。
ーー今後の経営戦略で考えていることを教えてください。
水野由太佳:
グローバルフードカンパニーを目指しています。マーケット規模的にも日本市場だけに固執していては、成長が見込めないと感じています。台湾を皮切りに、今後は海外への出店を加速させていく予定です。また、東京都内への出店もさらに勢いをつけていきたいと考えています。
編集後記
果敢に挑戦を続ける水野社長からは、まさに仕事を楽しむという姿勢を大切にしている様子が伝わってきた。「食」という暮らしにおいて欠かせない分野で、楽しさを提供し続けてきた株式会社マリノ。イタリアを彷彿させるような陽気でおおらかな雰囲気に、日本らしいおもてなしの精神が融合した会社の魅力を感じるインタビューとなった。
水野由太佳/1982年生まれ。2006年愛知学院大学経営学科卒。イタリア留学を機に経営に興味を持ち、他社での就業を経て、株式会社マリノに入社。2017年、同社代表取締役社長に就任。柔軟な考え方と機敏な判断力を武器に、積極的に事業を拡大している。