※本ページ内の情報は2024年11月時点のものです。

一般社団法人日本フードサービス協会によると、2021年に11兆円規模だった一般外食店(居酒屋・喫茶店含む)の売上高は、2023年には対2019年比で全体は約108%、ファストフード業態に限っては120%と好調に推移。インバウンド需要増と客単価上昇が後押しした格好となっている。

外食チェーン店経営のヴァリオ株式会社(2013年設立、大阪市)は、たこ焼き・お好み焼き・焼きそばテイクアウト店「鶴橋粉舗てこや」と「リストランテ バル ヴァリオ」、「やきとり本舗とりすた」、「ストレッチのチカラ」を展開。関西・関東エリアを中心に現在56店舗を営業している。

ここ数年は毎年10店舗近くの新規出店を行い、拡大路線を進める同社。2030年までの中期経営計画「ヴァリオビジョン」を打ち立て、人材の採用強化と多角経営を進めているという代表取締役社長の利川邦浩氏に、詳しい話を聞いた。

内部から組織を見直し労働環境の再構築に努めた

ーー経営者を目指した背景を教えてください。

利川邦浩:
私は若い時からサラリーマンとして働いた経験がないんです。というのも、父も、二人の祖父も事業主という商売人家系に生まれ育ったからなのかもしれません。

そんな家庭環境で育ったからなのか、現在兄弟4人全員が経営者をしています。人に何かアピールしたり、人を楽しませることが昔から好きでした。自分で何かを作り出すということが得意だったので、勤め人ではなく自然と経営者を目指すようになったのだと思います。

ーー起業されようと思った、何かきっかけとなる出来事はございましたか?

利川邦浩:
元々、親戚が経営している不動産会社で番頭のような責任者として6年くらい勤めましたが、そこもサラリーマンという感覚ではなく、個人事業主、もしくはその会社の経営者のような位置付けでした。

そこから27歳の時に大きな転機があり、この飲食業界に飛び込むことになりました。不動産業界からまったくの異業種である飲食業界ですので、新しく1から物事を覚えていかなければならないといった、とても大きな転換でした。また、自分自身がそうだったからこそ、異業種からの入社、未経験の方を積極的に受け入れてサポートしていきたいという思いがあります。

ーー経営を始めてどんな課題を経験しましたか?

利川邦浩:
飲食業を立ち上げたあとは、どのようにして人を集め、定着させるかが一番の課題でした。これは現在でも続く大きなテーマです。かつては、人がなかなか定着せずに離職率が40%を超える時期もあったほどです。

そこで、自分自身の考えの根本を変えなければいけないと思うようになりました。人は「変えられない」という原則を常に自分に言い聞かせるようになりました。人は強制的にコントロールされようとすると、本能的に反発するものです。

人は自ら変わるものであり、人を「変える」のではなく、「変わる手助けをする」ことが大切なのだと気付きました。私は、まずは相手を認める事から始めます。人は自分を認めてくれない人には絶対に心を開きません。

まず、相手をしっかりと観察して認める事。そして自分自身の取り組みや姿勢を見せ続ける事。そこからがコミュニケーションやコーチングのスタートだと考えています。それを根気よく続けていくと、相手が「自ら学ぶ」というマインドに変化していくのです。

そうして育ってくれた人が、次はトレーナーになり、同じようなコーチングをしてくれる。こうなると組織として自然と良い育成がし続けられる組織になります。このように日々、どうすれば社員の方達が満足して、楽しく働くことができるのかを考えています。社員やアルバイトの方達が自分の友達や身内の方に進めてもらえるような最高の会社を目指しています。

そのためにも社員の方達の働きやすさや休みやすさには最大限気を遣うようになりましたね。

ーー具体的にはどのような施策を?

利川邦浩:
まずは公休日数を月間8日間、10日間、12日間の選択制にしました。弊社の給与水準は同業者と比較して高めなので、休日数を増やしてもそれなりの収入が得られます。また、残業が多い業界ですが、「1日8時間勤務で残業ゼロ」の導入も始めました。

このように労働環境の整備を進めてワークライフバランスを意識した働き方に変えた結果、離職率も20%未満で安定するほどに改善しています。

働き方を自由にする社内独立という選択肢

ーー貴社の特長を教えてください。

利川邦浩:
弊社はQSC(クオリティ・サービス・クレンリネス)を徹底しています。この商売の肝である「清潔感あふれる店舗でおいしい商品を笑顔で提供する」という、当たり前に見えて実は難しい商売の基本を忠実に実践することで、日本一「おいしい」と「ありがとう」を言っていただける会社を目指していきます。

とはいえ、当社はまだ成長途中であり、未熟な部分が多いと自覚しています。だからこそ、知識や経験、スキルが浅い方を積極的に迎え入れています。

私は、自身が完璧だと思ったことは一度もありません。時には95点だったり、60点だったりと日々変動しますが、100点だと判断した瞬間に人は成長が止まると考えています。だからこそ、常に100点を目指して成長し続けることが重要です。

今もなお、成長を目指している途中であり、会社と共に従業員も成長していきたいと考えています。

ーー貴社で働くメリットは何でしょうか?

利川邦浩:
弊社は会社の成長とともに働く人も一緒に成長でき、夢を見られる組織だと思っています。なぜなら、働き方もいくつか選択肢があり、店長から本部のエリアマネージャーといった幹部になる道だけではないからです。

特徴的なのは社内独立というコースで、業務委託で店長として店舗を独立させる制度です。独立するのは決して業績の振るわない店舗ではなく、3年以上実績を積み上げた店舗に任せています。

自分の頑張り次第で収入もどんどん伸びていく、そんな成果主義の成長企業で自分に合った働き方を見つけてほしいですね。

拡大路線を未来図を描く長期経営計画のロードマップ

ーー評価制度や、人事面での方針もお聞かせください。

利川邦浩:
弊社では同じ店長でも「レギュラー店長」「グランド店長」など10段階にグレード分けしています。上を目指すときは自己申告制で手を挙げ、自分自身がチェック項目に評価点を与え、それを上長が確認しクリアすれば昇格する仕組みです。

このシステムであれば「上司に恵まれなかった」といった言い訳もできず、自分でマネジメントできる人を公平に高く評価できる制度です。

ーー人材育成で大事にすること、求める人物像について教えてください。

利川邦浩:
相手がいてはじめて成り立つ商売ですから、お客様であれ同僚であれ、相手への気遣いができる人がふさわしいと考えます。企業理念にもある「人を想うこと」をしっかり共有するチームであれば、強い企業になれると信じているからです。

同時に自分自身を大切に思える人がこの商売に向いています。自分に対して卑屈にならずに素直に「ありがとう」と言える人であれば、人にも「ありがとう」と言えるはずです。従業員をそんなふうに育てていきたいですし、そんな人が仲間になってほしいと思います。

ーー今後の展望をお聞かせください。

利川邦浩:
今年は2030年までの事業活動をロードマップ化した「2030年ヴァリオビジョン」という目標を設定しました。

短期間でいきなり50店舗から500店舗には飛躍できませんので、達成するために1年ごとのゴールを積み重ねていく必要があります。プロセスの1つとして、2025年はSNS戦略を駆使して集客力を格段にアップさせる計画です。

最終目標は様々な業態にもチャレンジを続けて全国への新規出店で2030年に売上高100億円ですが、会社だけが成長すれば良いとは考えていません。社員も一緒に成長していくことで社員の平均年収を500万円にしたいと思っており、この二つの数字目標はセットです。これに向けて人事面の強化と飲食業態の開拓を進めていきます。

編集後記

利川社長は、店舗のデザインを自社で手がけるだけでなく、今年から「工事部」を設置し、店舗スタッフが定期的に巡回して普段できないような箇所の清掃や修繕を担当しているという。こうしたユニークなアイデアの背景には、実は外食に特化した複合事業化の構想があるとのことだった同社の今後の展開に注目していきたい。

利川邦浩/1974年生まれ、大阪府東大阪市出身。2013年ヴァリオ株式会社を設立。たこ焼き、お好み焼き、焼きそばのテイクアウト専門店「鶴橋粉舗てこや」をはじめ関西を中心に56店舗を構え、2024年も新規出店を続々と控える。