大阪府吹田市江坂に根差し、半世紀以上にわたり宿泊客を迎えてきた株式会社マルマス(サニーストンホテルグループ)。江坂駅から徒歩1分という好立地と、大型バスも駐車可能な専用駐車場を強みに、ビジネス利用から修学旅行まで幅広いニーズに応えている。3代目社長、石井一輝氏は、対面での接客を大切にし、人と人との繋がりを重視した温かい接客を守り続ける。先代からの教え「お客様を待たせない」迅速な対応を武器に、老舗ホテルを率いる若きリーダーの思いと今後の展望に迫る。
証券会社での学びを胸に家業へ
ーー貴社入社前までのご経歴についておうかがいできますか。
石井一輝:
大学卒業後、野村證券株式会社に入社しました。営業として勤務し、お客様との信頼関係をゼロから築くことの難しさと大切さを学びました。多種多様なお客様とお会いした中で、商品やサービスの差別化が難しい時こそ、人と人の繋がりや対面でのコミュニケーションが重要だということを身をもって経験いたしました。
ーーその後、貴社に入社されるきっかけは何だったのでしょうか。
石井一輝:
弊社は祖父が創業し、二代目として叔父と私の父が事業を継いでおりました。親族の中で直系の男子が私しかいなかったこともあり、「自分もいずれは家業を継ぐのだろう」という思いはありました。そんな中、野村證券で約2年勤めた頃、父から「早く帰ってきてほしい」という話を受け、2017年にサニーストンホテルグループの一社である株式会社マルマスに入社いたしました。そして取締役を経て、2025年の4月から代表取締役に就任した経緯です。
ーー貴社に入社されてから、前職との違いに戸惑ったことはありましたか。
石井一輝:
異業種からの転職で分からない事も多く、特に千差万別のお客様に対する最適な答えを出すことの難しさに戸惑いました。その中でどうすれば、高い水準のサービスを常に均一にご提供できるかを考えた際に、現状のおもてなしの心をもった接客に加えてDXの導入をすることによるサービスの底上げが必要なのではないかと考えました。
まずは紙媒体での管理が多い事と、業務フローが明確化されていない事に目を向け、紙の台帳での管理から予約管理システムでの管理に切り替えや情報共有ツールの導入を実施いたしました。
現在は、グループ全体での業務フロー統一化に向け、システム・ハード合わせて更新を進めております。一人一人のお客様と誠実に向き合いながら、ご満足いただけるサービスをご提供する事を常に考え改善に務めております。
時代に逆行し対面接客にこだわる理由

ーー改めて、貴社グループの事業内容と特徴を教えてください。
石井一輝:
ビジネスホテルの運営を主な事業としております。特に江坂にございます施設は441室と部屋数が多く、会議室や宴会場も完備しており、目の前には大型バスが8台ほど駐車できる専用駐車場がございます。そのため、個人のビジネス利用のお客様のみならず、修学旅行やスポーツ団体といった大人数のお客様にもご利用いただいており、一度に300名様ほどを受け入れられる規模は、弊社の特徴の一つだと感じております。
ーー他社と比較した際の、貴社ならではの強みは何でしょうか。
石井一輝:
立地の良さと、団体のお客様を受け入れが可能な設備に加え、弊社では対面での接客を大切にしたいという思いから24時間フロントスタッフ常駐を創業当初より続けております。お客様に何かお困りごとがあった際すぐに対応できる体制が、お客様の安心感に繋がると考えております。
また、先代からの教えである「お客様をとにかく待たせない」という姿勢は、接客において特に大切にしており、チェックイン・アウトの際のスムーズな対応には自信がございます。全てにおいてお客様を第一に考えること。これが、弊社の基本姿勢であり、リピート率向上にも繋がる最大の武器だと考えております。
最高のサービスを生むための従業員第一の環境づくり
ーー従業員の働きやすさのために、工夫されていることはありますか。
石井一輝:
ホテル業界は不規則な勤務になりがちです。しかし、弊社従業員にはできる限り規則正しい生活を送ってほしいと考えております。その思いから、朝の勤務者は朝のみ、夜勤者は夜勤のみ、という固定シフト制を導入いたしました。また、福利厚生の一環として、今年は従業員全員に万博のチケットを会社負担で配布をし、同じ観光業に携わる者として、視野を広げ、多くのことを学んできてほしいと考えております。
従業員がいなければ、ホテルは成り立ちません。だからこそ、働きやすい環境を整え、感謝の気持ちをしっかりと還元していく「従業員第一」の姿勢を、これからも貫きたいです。
感謝と謙虚さを胸に老舗ホテルが描く未来図
ーー今後の注力テーマをお聞かせください。
石井一輝:
江坂の地で約50年、ホテルを続けてこられたことに感謝しております。建物の築年数も経過してきており、建て替えも視野に入れなければなりません。ですがまずは現状のホテルを改修し、基盤を固めること。そして従業員の教育に力を注ぎ、私が現場にいない際でも従業員それぞれが判断をし、行動に移せるように業務フローを整えていきたいと考えております。
大変ありがたいことに、現在は多くのお客様にご利用いただいております。しかし、これは世の中の流れによる一過性のものだと捉えており、その上で、「決して天狗になってはいけない」と社員にも伝えるようにしております。
まずはDXを推進することで効率化を図り、それによって生まれた時間をお客様への温かいおもてなしに注いでまいりたいと考えております。目の前のお客様一人ひとりにおもてなしの精神で向き合い、私たちの強みである「待たせない接客」を徹底することが、結果としてお客様満足度につながり、継続顧客や新たな顧客開拓につながると信じております。アナログとデジタルの良さを融合させながら、これからも精進していく所存です。
編集後記
金融業界の厳しい環境で「人と人との信頼関係」の重要性を学び、家業であるホテルに戻った石井一輝氏。その経験は、効率化が叫ばれる現代において、あえて「対面の接客」にこだわるという経営哲学に繋がっている。お客様を待たせない迅速な対応と、従業員の働きやすさを追求する温かい眼差し。その両輪を回しながら、老舗ホテルを新たな時代へと導こうとする3代目社長の挑戦は、まだ始まったばかりだ。アナログの良さを守りつつ、未来を見据える同社の今後に注目したい。

石井一輝/1991年生まれ、大阪府出身。神戸大学発達科学部卒業後、野村證券株式会社に入社。2017年に株式会社マルマス(サニーストンホテルグループ)に入社し、取締役を経て2025年4月に代表取締役に就任。