※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

JR東海グループのホテル事業として、1992年に設立された株式会社ジェイアール東海ホテルズ。企業を代表する「名古屋マリオットアソシアホテル」は、765室のゲストルームをはじめ、各種宴会場やレストランを有する日本有数の超大型ホテルだ。代表取締役社長の伊藤彰彦氏に、就任の経緯やホテル事業への思い、今後の展望をうかがった。

JR東海でプロフェッショナルの極意を学び、ホテル業界へ

ーーまずは、ご経歴について聞かせていただけますか。

伊藤彰彦:
素晴らしい技術やサービス力を持つ日本企業の海外進出に貢献したい、という思いから銀行員を志しました。入社した銀行では、国内企業への融資や人事業務に長く携わりました。バブル崩壊後は不良債権の処理に集中していたのですが、自身が勤める銀行も経営が破綻し、国有化されることになりました。

銀行の中枢にいた身として「もっと自分にできることがあったはずだ」と感じ、この先は本当の意味で「人や社会の役に立ちたい」と考えるようになりました。39歳になった頃、愛知県出身ということもあり、ご縁があってJR東海(東海旅客鉄道株式会社)からお声がけいただいた次第です。

JR東海では新規事業担当を経て、静岡支社の管理部長となりました。「いつでも安全で安心して使えるインフラ」であるべき鉄道を管理するため、将来を見据えた長期施策を進める一方で、日頃からトラブルの予防・対応に尽力している鍛え抜かれた組織を経験し、真のプロフェッショナリズムを学んだと感じています。

2022年に現職のJR東海ホテルズへ、代表取締役として着任しました。その間一貫して、「仲間に恵まれている」という思いは変わらず、JR東海グループの「人」を大切にする風土と属する「人」の質の高さを実感するところです。

「人」ありきのホスピタリティを特別な価値に

ーーコロナ禍はどのように乗り越えましたか?

伊藤彰彦:
就任直後に話した本社のスタッフたちでさえ、目前に控えた「創立30周年」を忘れていることに驚き、コロナ禍で組織が相当に疲弊しきっていると感じました。そこで、創立記念日に全社員に「社長レター」を出し、「貴方たちは危機を乗り越える中で大きくレベルアップした」とエールを送ったのです。

社長レターの2枚目には会社の沿革や経営方針を載せ、先人の努力も再認識してもらった上で、次に訪れるであろうインバウンド時代を「みんなで乗り切ろう」と励ましました。たとえば、ハラールやビーガンの方にも対応できる料理メニューの開発を他に先んじて進めたことはその好事例となりました。多様なメニューがあることで、インバウンドのご家族だけでなく、海外から来日するスポーツ団体からも選ばれるホテルとなり、上手く時代の波に乗れたと思っています。

コロナ禍を経て、100年に一度レベルのパンデミックだけでなく、5〜10年スパンで起こりうる「景気変動」に動じない経営体質を維持すべきだと再確認しました。変動を受け止めつつ「次に向かう準備」を地に足つけて着実に進めることが大切です。そして何より、「人」を大切にしない会社は長続きしないと改めて認識しました。

ーー現在の経営方針もうかがえればと思います。

伊藤彰彦:
ホテル業は今後も成長産業であることは間違いないでしょう。競争も激しくなることから、お客様に提供できる「価値」に弊社独自の特色をつけていく必要があります。中でも、ホスピタリティ(おもてなし)の充実には「人」が欠かせません。

AI化が進む時代に生き残れるホスピタリティ産業は、医療業と宿泊業だけではないかと思うほど、私たちの仕事は「人でしか対応できないことの価値」に直結しているといえます。弊社の「それぞれの個性を出そう」という教育方針や、いろいろな現場を経験できるジョブローテーション制度も、人間性の価値と魅力を高める取り組みの一つです。

また、「外の世界にもチャレンジしよう」とも伝えました。バーテンダーが全国的な大会で優勝したり、料理人がコンテストに出場したり、スタッフ各々が個のスキルを磨くようになりました。職場の外に出ることで自分たちのポジショニングがわかり、新しい景色も見えてきます。広い視野を持ったプロの集団に、ホテルというチーム内で最高のパフォーマンスを発揮してもらいたいという発想です。

京都と奈良に新ホテルを展開、「挑戦」を続ける企業へ

ーー今後の展望をお聞かせください。

伊藤彰彦:
2025年以降、世界最大のホテルチェーンのマリオット社と組んで、京都市内に「コートヤード・バイ・マリオット京都四条烏丸」「コートヤード・バイ・マリオット京都駅」という2つのホテルを開業予定です。マリオットブランドを長年運営してきた実績をベースに、いずれの施設も立地の良さを活かし、ビジネスシーンやレジャーで国内外の幅広いお客様が気軽に宿泊できるホテルを目指します。

また、近鉄奈良駅から徒歩2分の場所に「ホテル 寧(ねい) 奈良」を開業することを発表しました。マリオット社と並び、世界中に展開するハイアット社と提携した、当グループ初のラグジュアリーホテルです。コンセプトは「Mystique(ミスティーク)・奈良」。これは、日本文化の原点として古代からの歴史を持ち、奥深く、神秘的な奈良観光への橋渡しとなるホテルを表現しています。また、ホテル名には万葉集において奈良を表す「寧楽(なら)」と、「寧(ねい)」が意味する「静けさ・安らぎ」に、起源への回帰と伝統を讃える思いが込められています。

ーー最後に、一緒に働きたい方々へメッセージをお願いします。

伊藤彰彦:
ホテルは、成長産業であることに加え、日本の未来を支える産業になっていくと確信しています。一方で、競争は激しく、進化を怠ればすぐに淘汰される業界でもあります。変化の時期は、あるべき未来をつくる好機でもあります。皆さんの活躍の場がこれまで以上に広がっています。

私たちは、お客様の期待を超える価値を提供することを経営理念に謳っています。変化は次への成長のステップと考えて柔軟に対応し、困難な課題も最後までやり抜く人材を求めています。ホテル業界をますます進化、発展させ、地域を、そして日本を元気にしていきましょう。

また弊社には、チャレンジ精神のある人にチャンスを与える環境も整っています。新たに社内で発足した「ウェルビーイング推進委員会」によって、「健康増進・働きやすさ・働きがい」を大切にする意識もより高まってきました。世の中の変化を楽しみながら、会社とともに成長できる業界なので、経験・年代を問わずいろいろな方に来ていただけるとうれしいですね。

編集後記

10年ぶりに生まれ変わったユニホームのアイテムを身に着けて、今回の取材に臨んでくれた伊藤社長。男女ともに動きやすさを重視し、スカーフ・ポケットチーフといったアイテムのデザインにはフランス語で「生の芸術」を意味する「アール・ブリュット」デザインを採用するなど、現代の価値観に合わせてアップデートしたそうだ。働く「人」がやりがいと誇りを持てる企業だからこそ、ホテルに訪れる「人」の心も満たせるのだろう。

伊藤彰彦/1959年、愛知県生まれ。1982年に京都大学経済学部を卒業し、株式会社日本長期信用銀行(現:株式会社SBI新生銀行)に入行。1999年、東海旅客鉄道株式会社へ入社。静岡支社管理部長、秘書部長、執行役員管財部長、常務執行役員事業推進本部長、専務執行役員などを歴任。2022年、株式会社ジェイアール東海ホテルズの代表取締役社長に就任。