
大阪府豊中市を拠点に、葬祭にかかわるすべてのプロデュースを一貫して手がける株式会社加納。葬儀の平均単価が下落傾向にある業界において、同社は独自のプランニング手法を用い、高い顧客満足度と安定した単価を維持し続けている。同社の7代目社長である上村威氏は、将来家業を継ぐことを見据え、大学卒業後に名古屋の老舗葬儀社で約3年間の修業を経験。その後大阪へと戻り、2018年の代表就任時には経営理念やビジョンを新しくした。時代に合わせた組織の内部統制強化や独自の集客アプローチを進める一方で、お客様へ提供する本質は決して変えない方針を貫いている。常にご遺族の心に寄り添い、真の満足度を追求し続ける同社の軌跡と、未来の組織づくりに向けた取り組みに迫る。
異文化での修業と裏方からトップへの決意
ーーまずは、これまでのご経歴を教えてください。
上村威:
就職氷河期だったこともあり、いずれ大阪の家業に入るなら直接専門的な勉強をしたほうがいいと考え、大学卒業後は愛知県の名古屋市にある老舗の葬儀社に就職して、約3年間サラリーマンとして働きました。
名古屋では、家業がある大阪の葬儀文化とは大きなギャップを感じました。たとえば、市内で最も大きなお寺の本堂を使い、総額1億円規模の社葬が行われるのを目の当たりにしたときです。また、所属していた会社は、祭壇の装具に強いこだわりを持っていました。日本で唯一の「総欅造りの祭壇」を手がけるなど、大阪とは異なるスケールの大きな葬儀文化に触れられたことは非常に貴重な経験でしたね。
ーー大阪に戻り、貴社の代表へ就任された時はどのようなお気持ちでしたか。
上村威:
私はもともと管理や企画など、裏方として段取りを組むポジションが得意でした。そのため代表就任時は戸惑いもありました。ただ、世代交代の時期を迎え、「自分がやるしかない」と腹をくくりました。そして、引き受けるからにはビジョンや経営理念などをすべてゼロから一新したいと思い、会社の根幹となる部分をすべてつくり直しました。
「値段は高いが紹介したい」 独自の強みと圧倒的な満足度

ーー高い顧客満足度を維持する中で、事業の強みはどこにあると考えていますか。
上村威:
価格以上の「満足感」を生み出す現場スタッフの圧倒的なサービス力と、独自のプランニング手法です。業界全体で葬儀の平均単価が下落傾向にある中、弊社はお客様が本当に求めるものを丁寧にヒアリングし、価格ではなく価値を提案することで、高水準の単価と満足度を両立させてきました。施行後のお客様アンケートでも、「値段は高いが、ぜひ紹介したい」と評価していただけるほどの満足感をご提供できています。
また、このアンケートの返却率は実に90%以上を誇ります。一般的には30%程度返ってくればいい方と言われる中で、この数字は評価の信憑性を裏付けるものです。さらに8段階評価の総合評価では、平均7.2点という評価をいただいております。これはお客様との打合せ時のヒアリング力、提案力、クロージング力、さらには現場スタッフが提供するサービス品質の評価が実証された結果だと自負しています。
変わらない「感謝」の念と人を育てる社内文化

ーー時代が変化する中で、葬儀において絶対に変わらない軸となるものは何ですか。
上村威:
葬儀に対する根本的な考え方は普遍的であり、「感謝で送る」という絶対的な目的は決して変わりません。葬儀は「感謝」を伝えなければ意味がないと考えています。このコンセプトをお客様にしっかりとお伝えし、ご納得いただいた上でプランを選んでいただくことを大切にしています。私たちの使命は、ご遺族の心に温かい記憶を残すことです。
最初は「一番安いお葬式でいい」とおっしゃっていたお客様にも、担当者が打ち合わせを重ね丁寧にご葬儀の「価値」をお伝えします。その結果、「あなたに言われてちょっと迷ったけど、やってよかったわ、ありがとう」と言って、良い記憶を残していただくよう努めます。同時に、ご遺族自身がご葬儀を通じて、「明日からの自分の生き方」そのものを見つめ直すきっかけになるようなお手伝いができるよう、従業員にも事あるごとに伝えています。
ーー従業員の育成や、やりがいを高める環境づくりについて教えてください。
上村威:
人財育成の面では、現場改善や部下のマネジメントなど、難しい役割を担う中間管理職の育成に特に注力しています。ここは既存のカリキュラムにとらわれず、社長である私が直接指導を行う体制を整えました。
また、社員がやりがいを感じられるよう、褒める機会を積極的に増やしています。たとえば、各部門より今月一番頑張って成果を残したスタッフを推薦いただき、月1回「社長賞」を発表して合同朝礼などで表彰を行っています。また経営計画発表において年間優秀社員や年間MVP等の表彰、さらに社内コミュニケーション向上を目的として「感謝リレーキャンペーン」を掲示して従業員同士が感謝を伝え合うという取組みも行っています。最終的には、エンゲージメントを高め、社員全員が「今日も一日働いて楽しかった」と思えるような会社づくりを目指して取り組んでいます。
組織の成熟と未来へつなぐ新たなアプローチ

ーー地域の方との接点づくりや集客においては、どのような工夫をされていますか。
上村威:
弊社では毎月定期的に「人形供養祭」や「桜祭り」「ハロウィン」など、各会館を使って時流に乗った様々な「イベント」を開催しています。これらは地域の方々と出会う貴重な機会となっており、そこから事前相談会のご案内や会員入会などへとつなげて、新たな接点を生み出しています。また最近ではお客様がスマートフォンからQRコードを読み込んで、直接口コミを投稿できるシステムも新たに導入しました。一件でも多くのリアルな声を拾い上げ、サービスの向上や信頼の構築につなげていきます。

ーー最後に、今後の貴社のビジョンについてお聞かせください。
上村威:
基本姿勢として常に変化を恐れず邁進する葬儀社を目指しています。具体的には北摂地域でシェア率をさらに拡大するための新規出展も行いますし、顧客満足度を維持するためにサービス品質を磨き続けること。さらに社員満足度を向上させるために、組織図の成熟や新しい人事評価制度の見直しなど、組織の内部統制をさらに強化していく方針です。葬儀の形式や社会のあり方がどう変わろうとも、会社を支えるのは「人」なのです。社員一人ひとりがやりがいを感じて毎日楽しく働ける組織をつくること。それこそが、企業が存続し続けるための絶対条件だと信じています。
編集後記
「感謝を伝えなければ葬儀の意味がない」という上村代表の言葉には、葬儀という儀式に対する深い敬意と強い使命感が宿っている。取材を通して最も印象に残ったのは、お客様に心からの納得感を持ってもらうための真摯な姿勢と、現場を支える社員への温かい眼差しである。社員を称え、「今日も一日働いて楽しかった」と思える会社を目指すそのあり方からは、代表の深い愛情と熱量がひしひしと伝わってきた。大切な「感謝」という核を揺るがさず、地域に寄り添いながら歩み続ける同社は、これからも確かな進化を遂げていくに違いない。

上村威/大阪府豊中市生まれ。大阪学院大学を卒業後、名古屋の老舗葬儀社である株式会社一柳葬具總本店に入社。3年間にわたり葬祭業の基礎を学ぶ。25歳で家業である株式会社加納へ入社し、現場をはじめ営業、管理部門などを歴任して実務経験を積む。2018年に同社の代表取締役社長に就任。