
世界25カ国以上から選び抜いたワインを輸入し、日本の食卓へ「ワインのある豊かな暮らし」を提案し続ける株式会社モトックス。1915年の創業以来、酒類問屋としての厚い信頼を土台にしながらも、近年はITを駆使した独自の受発注システム開発や、消費者心理を突いたマーケティング戦略など、業界の枠を超えた革新を続けている。
この伝統と革新の融合を指揮するのが、代表取締役社長の寺西太亮氏だ。かつては「社長の息子」という特別視を嫌い、一人の会社員として社会で揉まれるべく、あえて家業とは異なる道を選ぼうとした同氏。しかし、異国の地での原体験が、その運命を大きく変えた。寺西氏に、家業承継の経緯から、トップダウンを脱し社員一人ひとりが輝く「自走する組織」への改革、そして未来への展望を聞いた。
社長の息子への反発とワインに魅せられた原体験
ーー貴社に入社される前までのお話をお聞かせください。
寺西太亮:
正直なところ、幼少期は「社長の息子」という立場が重荷でしかありませんでした。家業は酒問屋を営んでいましたが、生活自体は非常に質素なものでした。それにもかかわらず、周囲からは「社長の息子だから」という色眼鏡で見られる。そのため、その反発心から、「将来は家業とは関係なく、サラリーマンになろう」と固く決意していました。
転機が訪れたのは大学生の時です。両親の強い勧めで、フランスのブルゴーニュを訪れる機会を得ました。当時の私にとって、お酒といえば「酔うための手段」に過ぎませんでした。しかし、現地で生産者と共に食卓を囲んだ時、価値観が覆されたのです。彼らはワインの香りや色を慈しみ、味わいを語らいながら、心から豊かな時間を過ごしていました。
そこには、単なる飲酒ではない、人生を彩る「贅沢な時間」が流れていたのです。「ワインには、これほどまでに人を豊かにする力があるのか」と衝撃を受けました。この感動を日本の人々に伝えたい。その強い思いが、私をこの道へと突き動かしました。
ーー大学卒業後、どのような進路を選ばれたのでしょうか。
寺西太亮:
帰国後すぐに父へ家業を継ぎたいという想いを伝えましたが、返ってきたのは「簡単に継げるものではない」という厳しい言葉でした。それでも「どうしても継がせてほしい」と伝えたところ、「ならば周りの方から実力を認めてもらえるようになれ」と諭され、そのための修業として大手酒類メーカーへ入社しました。
配属先で出会った先輩からの「お前はどうしたいんだ?」という問いかけは、今の私の仕事観の原点です。自分の考えを伝えると、「なら、その通りにやってみろ」と背中を押してくれたのです。この時、仕事とは単にタスクをこなすものではなく、自らの頭で考え、胸を躍らせながら取り組むものなのだと学びました。その後、フランスのワイナリーでの実務研修を経て、2005年に弊社へ入社。そこからは、ただひたすらにがむしゃらな日々でした。
失敗を許容する環境づくり 社員が輝く組織への変革プロセス

ーー社長就任後、組織づくりにおいて最も注力されたことは何でしょうか。
寺西太亮:
私が目指したのは、社員が自走できる組織への変革です。これが、弊社の成長の大きな転機になったと自負しています。実は、私が組織運営のあり方に強い興味を持ったのは、中学時代の原体験がきっかけでした。当時、集団において、周囲の友好的だった態度が、特定の影響力を持つ人の言動一つで変わってしまうという経験をしました。この出来事を通じて、組織のあり方はトップの考え方によって良くも悪くも大きく変わってしまうということを痛感していました。以来、組織が常に良い方向へ進めるよう導くトップになりたいと強く考えるようになりました。
社長就任当時、社内には指示を待つ場面が多く見受けられました。そこで私は、「それは現場の皆で決められるはず」とあえて細かな意思決定を手放し、権限委譲を徹底。もちろん、最初は戸惑いもありましたが、粘り強く対話を重ね、失敗を許容する環境を作り続けました。すると徐々に、「これは私たちがやります」と主体的に手を挙げる社員が増えてきたのです。今では、重要な決断を自ら下せるリーダーが各所に育ち、私が想像する以上に頼もしい組織になったと自負しています。
競合他社にはないルーツ 問屋のDNAとITのハイブリッド戦略
ーー貴社独自の強みや、競合他社との差別化ポイントについて教えてください。
寺西太亮:
最大の強みは、私たちのルーツが「問屋」にあることです。一般的なインポーター(輸入商社)とは異なり、長年の歴史で培った流通への深い理解と、お客様(小売店や飲食店)視点がDNAとして刻まれています。
このアナログな強みを最大化しているのが、ITによる業務効率化です。弊社では2400アイテム以上を取り扱っており、煩雑になりがちな受発注やカタログ作成を、私たちは自社開発のシステムで解決しました。たとえば、料理に合わせて最適なワインを提案できる「マリアージュ手帳」や、商品カタログの自動作成システム、これらはすべて「現場の困りごと」から逆算して生まれたものです。デジタルの利便性で業務を支え、空いたリソースで、人間にしかできない「温かみのある提案」を行う。このハイブリッドな体制こそが、弊社の競争力です。
ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。
寺西太亮:
今後は、マーケットイン(顧客視点)の戦略をより一層強化していきます。これまでの「良い商品を見つけて売る」というプロダクトアウトの発想に加え、消費者の潜在的なニーズを起点としたマーケティングを、営業活動の核に据えていきます。また、日本酒や日本ワインの輸出事業にも注力し、日本の食文化を世界へ発信する架け橋となりたいと考えています。
何より大切にしたいのは、社員が生き生きと働き、家族や友人に「いい会社だ」と自慢できるような企業であり続けることです。そして、弊社を通じて「ワインが好きになった」「食卓が楽しくなった」という方を一人でも多く増やすこと。お店で「モトックス」の文字を見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。その一本が、皆様の時間をより豊かにすることを約束します。
編集後記
「社長の息子」というレッテルに悩み、一度は家業を遠ざけようとした寺西氏。しかし、フランスでの鮮烈な原体験が、同氏をワインの世界へと引き戻した。従来の体制を、社員一人ひとりが考え行動する自走する組織へと進化させ、創業100年を超える老舗企業に新たな活力を生み出している。地場問屋として培ったDNAとITという現代の武器を手に、世界中の「美味しい」を届ける同社の挑戦は、日本の食文化をさらに豊かにしてくれるに違いない。

寺西太亮/1978年3月、大阪府東大阪市生まれ。同志社大学卒業後に大手酒類メーカーに入社。営業や経理を経験して2004年退社後、南仏のワイナリー「ポール・マス」で栽培や醸造、マーケティングを学ぶ。2005年、「株式会社モトックス」に入社。営業、仕入、マーケティングを担当する。2018年、代表取締役社長に就任。「ワインのある暮らし」に貢献するべく、力を注ぐ。