※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

問屋でありながら小売店を持ち、自社でデザインも行う。こうした独自のポジションで事業を展開する株式会社逸品社。同社は工場を持たないファブレスメーカーとして、食器やぬいぐるみなど幅広い商品を開発している。自社デザイナーの企画力とスピード感を強みに、事業の拡大を進める同社の代表取締役社長、佐藤隆氏に話をうかがった。

感覚頼りの商品開発から脱却するため、「逸品社らしさ」を言語化

ーー貴社に入社されたきっかけを教えてください。

佐藤隆:
接客業や可愛いものが好きだった私は、家業である弊社の直営店「SugarLand」で、アルバイトとして働き始めたのがきっかけです。約2年間アルバイトを続けたタイミングで、現在の会長から「正社員として働かないか」と声をかけられ、2015年、正社員になりました。

最初は物流部門で商品の出荷業務を担当し、お客様がどういったものを好むのかを学びました。その後、営業職やショップの管理を経験。これらの経験によって、エンドユーザーと物流をつなぐ視点を養えたと感じています。

ーーこれまでのキャリアを振り返って、印象に残っているエピソードをお聞かせください。

佐藤隆:
2018年ごろ、弊社が変革期を迎え、社員の退職が続いた時期がありました。その際、デザイナーが全員退職するという事態に陥ってしまったのです。それまで商品開発は言語化されておらず、感覚だけで行われていたため、その感覚を持つ人がいなくなったことによって商品開発が停滞してしまいました。

そこで私が中心となって、企画部署を立ち上げることになりました。ゼロからのスタートだったので、「逸品社とは何か」を自分なりに言語化し、形にしていく毎日でした。現在もデザイナーとともに、「逸品社らしさ」を模索しながら商品開発を続けています。

業界でも稀有な三位一体の体制で事業を展開

ーー貴社の事業内容と強みを教えてください。

佐藤隆:
弊社はファブレスメーカーとして、生活雑貨の企画や販売、卸を行っています。具体的には、仕入先から商品を調達する卸、「SugarLand」を運営する小売、そして自社でデザイン開発という3つの柱を持っています。これら3つの機能を併せ持つ企業は業界内でも非常に珍しい存在だと思います。

弊社の強みは、商品開発力です。社内にデザイナーを抱え、常に新しいアイデアを形にしていく企画力とスピード感は、他社に負けないと自負しております。

また、問屋としての引き出しの多さも大きな強みですね。食器やステンレスボトル、ぬいぐるみなど、さまざまな素材や商材を手がけることができます。この多様性が売り場の魅力を高め、お客様の多様なニーズに応えることを可能にしているのです。

ーー組織づくりにおいて大切にしていることは何ですか?

佐藤隆:
「言語化と数値化」を大切にしています。弊社は20代の若手から60代のベテランまで、幅広い年齢の社員が働いていますが、それぞれの世代で考え方や価値観が異なります。そうした環境の中で共通理解を築くためには、感覚的なものを言葉や数字に置き換える作業が欠かせません。

たとえば、目標を数値で示したり、商品コンセプトを明確な言葉で表現したりすることで、世代を超えた共通認識が生まれます。この「言語化と数値化」が、組織全体のコミュニケーションを円滑にし、一体感のある職場環境を実現する鍵になっているといえるでしょう。

オリジナル商品の開発と海外展開を軸に更なる成長を目指す

ーー将来的に、どのような会社にしていきたいとお考えですか?

佐藤隆:
私の理想は、社員が定年や退職の際に「逸品社で働いてよかった」と思えるような会社をつくることです。仕事は「人生の暇つぶし」と例えられることがありますが、それならば充実した暇つぶしができるような、楽しい職場にしたいと考えています。

5年以内には年商18億円を掲げているので、社員とともに楽しみながら目標達成に向けて取り組んでいきたいですね。

ーー今後の事業展開についてお聞かせください。

佐藤隆:
今後はファブレスメーカーとしての立ち位置をより明確にし、オリジナル商品開発に一層注力していきます。具体的には、売上の30%を占めるオリジナル商品の比率を、5年後には50%まで高めたいと考えています。同時に、海外市場への展開も加速させる方針で、現状では売上の約10%にとどまっている海外向けビジネスを30%程度まで拡大する計画です。

最近では「ぎゅっとおにぎりさん」(※)というマスコットシリーズが大きな成功を収め、前期には売上の1割を占めるまでに成長しました。この成功を活かして、ライセンスビジネスへの参入も進めており、すでに多くの企業から引き合いをいただいています。変化の激しい時代だからこそ、今後も柔軟に新しいことに挑戦していきたいです。

(※)オンラインショップはこちら

編集後記

デザイナー不在という危機的状況から企画部門を立ち上げた経験が、佐藤社長の経営観を形づくっていることが伝わってきた。感覚的なものを言語や数値として明確にすることで、世代を超えた理解を促す手法は、組織の一体感を築く上で極めて効果的だ。ファブレスメーカーとしての独自性を守りながらも、海外展開やライセンスビジネスなど新たな領域に挑戦し続ける姿勢に、逸品社の成長への道筋を見た。

佐藤隆/1990年、東京都生まれ。2012年に株式会社逸品社へアルバイトとして入社し、直営店である「SugarLand」に勤務。2015年、同社の正社員となる。2024年、同社代表取締役社長に就任。公式インスタグラムはこちら。