
1980年に設立された豊一豊田青果株式会社は、豊田市公設地方卸売市場内の卸売業者として、国内外のさまざまな生産者や出荷団体から届いた野菜や果物、加工品を販売している。販売方法は、複数の買手が参加する「せり売り」と、1対1の「相対売り」が基本だ。代表取締役の都築保彦氏に、仕事のやりがいや企業・業界の変化、今後の展望をうかがった。
商売人を志し、市場の青果部門を担う地場企業へ
ーーご経歴をお話しいただけますか。
都築保彦:
親には公務員になることを勧められていましたが、大学で経済学部に進んだこともあり、漠然と「大きな商売に携わりたい」と考えるようになりました。そうした中、就職活動の時期と豊田市公設地方卸売市場が新設されるタイミングとが重なり、青果業界に興味を抱いたのです。いろいろな企業を見学し、最終的に弊社を選んだのは「地元・豊田市にある会社」だったことが理由です。
入社して1年間は名古屋の市場で修業し、右も左も分からないまま取引に参加しました。当時はとにかくがむしゃらでしたが、八百屋さんをはじめとするお客様に「よく売れたよ」と喜んでいただけた時は本当にうれしかったですね。市場で物が高く売れれば、出荷側である農家さんにも喜ばれるので、厳しい仕事の中にも楽しさを見出していました。
歴代の社長が自由にやらせてくれる方々だったので、工夫すればするほど自分の評価につながったことも、ありがたい環境でした。今では、妻に「あなたは本当に市場が好きだね」と言われるほど、仕事が生きがいの一つになっています。
ーー大切にしている価値観も教えてください。
都築保彦:
お客様に対する「誠意」と「礼節」を欠かさないことです。この2つを常に重んじるよう、取引の担当者に教育しています。また、「売上の小さい八百屋さんを大事にしなさい」というのも私の方針です。10億円規模の取引をするスーパーマーケットと、数十万円の八百屋を区別しては絶対にいけません。八百屋さん同士は仲が良いので、意地悪な担当者はすぐに噂になるでしょう。
この仕事では、大人気で品薄の荷物を「1個だけほしい」と言う人がいれば、必ず分けてあげて、その1個を八百屋のお客様につないでもらうことが大切なのです。気配りの積み重ねが、会社の信頼につながります。
仲卸会社のM&AとDX推進に込めた市場業界への思い

ーー社長就任後の印象的なエピソードをお聞かせください。
都築保彦:
2023年に仲卸会社をM&Aしたことが強く印象に残っていますね。このときの気苦労は大きなものでした。「仲卸」は、弊社のような卸売と小売店の中間にいる業者です。市場内で20億円の売上を誇る仲卸が「後継者がいないので撤退する」と宣言したことがM&Aのきっかけであり、社長業における一大決心となりました。
20億という大きな売上がなくなれば、市場全体がダメージを負うことになるでしょう。豊田市公設地方卸売市場の青果部門は、弊社を含めて2社が競合しているので、M&Aによって市場内の主導権を握れなければ、自社が不利になることが明らかだったのです。
2社が競い合う青果部門は、開場当初に弊社のシェアが30%だったところ、約30年かけて逆転したという経緯があります。私もライバルに負けないようあらゆる手を尽くし、大手スーパー・仲卸・学校給食の3本を開拓してきた一人なので、今では50%以上のシェアを保っていることを嬉しく感じます。もちろん、一生懸命に集めたお客様を手放さないよう、今後も油断は禁物です。
ーー近年注力している取り組みもうかがえますか?
都築保彦:
DXを用いた市場のシステム化です。これに関しては、かなり先進的だと自負しています。現在は、ビジネスチャットツールや電子契約、請求書発行・受取システムを導入しているほか、業務ワークフローや人事労務、勤怠状況の管理もクラウド型サービスで行っています。
中でも、「nimaru(ニマル)」というサービスは、産地・JA・商社からの出荷情報を自動で登録し、農産物の流通を可視化してくれるのでとても便利です。
市場業界は昔ながらのやり方が根付いていますが、「いずれは時代に順応する必要がある」と考えを切り替えるべきでしょう。販売システムの電子化や請求書のペーパーレス化に反発していた人たちも、扱いに慣れてくると「仕事がすごく楽になった」と喜んでいます。
課題は「自分だけの道」を開拓できる人材の育成
ーー今後の展望をお聞かせください。
都築保彦:
取引の担当者については、先人が敷いたレールの上を走っていく形で現状は問題ないと思います。そこに「自分が開拓した産地・ルート」や「自分のお客様」といった、新しい強みを付け加えられれば、個人も会社もより飛躍できると思うので、サポート体制を整えたいです。
豊田市公設地方卸売市場は、豊田市による建て替えが決定しています。市場協会の協会長を務める私としても、業界全体の未来のために、新しい市場にどのような機能を持たせるべきか考えているところです。市場が生まれ変われば、商売の面でも変化があるでしょう。いち早くお客様のニーズを察知してチャンスを掴むことが大切ですね。
編集後記
青果物の「安定供給」と「公正な価格での販売」を使命に、市場内で成長してきた豊一豊田青果株式会社。都築氏は、豊田市公設地方卸売市場の建て替え工事について「今の一番の楽しみ」だと語った。仲卸会社のM&AやDXの推進といった取り組みは、自社の発展のみならず、彼が愛する市場業界の未来を守る大活躍だといえるだろう。

都築保彦/1959年生まれ。名城大学商学部経済学科を卒業後、豊一豊田青果株式会社に入社。修業として名古屋熱田区の丸協青果株式会社に1年間勤務。1982年、豊田市公設地方卸売市場の開場と共に豊一豊田青果が入場。2021年、同社の代表取締役に就任。