
日本のIT業界の黎明期から40年以上にわたり、エンジニアとして、そして経営者として最前線を走り続けてきた田村浩一氏。現在、社員数8,700名規模のIT企業「株式会社マーブル」のトップを務める同氏は、長年、マーブルの前身となるグループ企業で活躍、事業を牽引してきた経験を持つ。歴史に裏打ちされた技術力と豊富な人材を武器に、日本中の様々な業界のシステムを支え続けるマーブル。激動の時代において、組織を動かす本質とは。また、地方拠点の課題、そしてAI時代に求められるエンジニアの価値とは何なのか。社名「マーブル」に込められた未来への展望とともに話を聞いた。
個性を活かし、挑戦を続けるための選択
ーーまずは、IT業界に入ったきっかけをお聞かせいただけますか。
田村浩一:
私がこの業界に入ったのは、今から約40年前のことです。当時はパソコンというものに触れたことすらありませんでしたが、学生時代には理学部に在籍していたこともあり、これからのコンピュータの世界に大きな可能性を感じていました。
マーブルの前身にあたる東京コンピュータサービスに入社を決めたのは、主体的に自分自身の価値を発揮できそうな環境だと考えたからです。就職活動では、誰もが知るような大手企業からもお声掛けいただきました。しかし、当時の私にとっては、巨大な組織の一員として働くことよりも、自分自身の役割や貢献がはっきりしており、挑戦の機会に恵まれた環境で成長していけることのほうが魅力的でした。当時はまだまだ小さな組織でしたので、ここでならば、早くから責任ある仕事にも挑戦できるのでは、と入社を決めたことを覚えています。
ーー入社後は、どのような経験を積まれましたか。
田村浩一:
入社当初は右も左もわからない状態からのスタートでしたが、とにかく実践の中で仕事を覚えていきました。入社2年目には、早くも自らプロジェクトを牽引する環境に身を置くことになりました。最初は部下一人の小さな規模からスタート、上司に頼るのではなく、自らの力で困難を乗り越えていく必要がある、なかなかに厳しい日々でした。
その当時は、画面に一つウィンドウを表示させるだけでも、その裏側に多くのプログラミングが必要でした。そのため、コンピュータの内部動作まで深く理解しながら開発を行う必要があり、システムの仕組みを根本から学ぶことになりました。システムの表面だけでなく、その裏側で何が起きているのかを理解すること。物事の本質を見極める、というこのときの経験が、経営を担うことになった現在でも、私自身の仕事観の基礎になっていると感じています。その後、約15年間にわたってエンジニア、およびプロジェクトマネージャーとして現場の第一線で経験を積み、技術と事業、その双方を見渡す視点を培ってきました。
組織を動かすマネジメントの原点
ーー経営や組織運営の原点となった出来事はありますか。
田村浩一:
30代後半で横浜支店長に就任したのですが、この時代の経験が私の組織観の原点になっています。赴任前の横浜支店は、利益の確保に苦戦し、業績が低迷している状態でした。しかし、社員一人ひとりが利益を追求し動くことができるよう、意識改革を継続したことで、2年後にはグループ内で最も利益を出す支店へと成長させることができたのです。組織においては、トップが一人で「やるぞ」と声を上げるだけでは変わりません。実務を担うマネージャーたちが同じ思いを胸に抱き、実際に行動に移すことで初めて成果につながるのだと実感しました。
ーー具体的に、どのような改革を行ったのですか。
田村浩一:
毎週、マネージャー層と、どうすれば利益を出せるのかを徹底的に議論する場を設けました。その結果、彼ら自身の中で利益やコストについての意識が変化し、自分事として現場をマネジメントするようになりました。その変化が組織全体に広がっていったことで、業績は着実に改善していきました。
この経験を通じて、組織の規模が大きくなればなるほど、中間層が自律的に行動できる仕組みづくりが重要であることを学びました。このときに学んだマネジメントの基本は、現在の組織運営においても変わることなく、大切な土台となっています。
約4,000名が地方拠点に在籍 全国の知を集結する「分散開発」

ーー現在の貴社が持つ強みと、見えてきた課題についてお聞かせください。
田村浩一:
最大の強みは、技術者数7,700名というリソースの規模です。業界全体でエンジニア不足が深刻化する中、特定のスキル・専門性を持つ人材を数多く擁している点は、マーブルにとって大きな武器です。
また、私たちは数十年にわたり大手企業の基幹システムを支え続けてきました。その過程で培ってきた、業務知見やシステムに関する深い理解、そして長年蓄積してきたノウハウもまた、当社にとっての強みです。知見の蓄積と人材基盤が私たちの競争力の源泉になっています。一方で、マーブル発足後には、この人材リソースの有効活用が課題として立ち上がってきました。
ーー7,700名という技術者は、どのように配置されているのでしょうか。
田村浩一:
マーブル発足後、当社では全国の技術者リソースを横断的に結集し、最適なチームを編成する「分散開発」を強く推進しています。当社は全国に53の拠点があり、技術者の約半数は首都圏以外の地方拠点に在籍しています。この社員数がマーブルの強みである一方で、従来、地方拠点ではどうしても、案件単価や生産性の向上に一定の制約があり、収益性に差が生じやすい、という構造的な問題を抱えていました。
現在、分散開発の手法を用いることで、都市部に集中している高度かつ大規模な案件に、地方拠点を含めたチームで、品質を維持しながら対応できるようになってきています。これまでは各拠点が個別で案件に対応することがほとんどで、それぞれの強みや専門性を十分に活かしきれない場面もありました。しかし現在では、例えば九州の専門技術者と札幌の業務有識者が連携し、一つのプロジェクトを推進することができます。
全国に蓄積されている技術力や知見を結集させ、柔軟に組織化できるプロフェッショナル集団としてお客様に価値を提供する。分散開発によって、これまで抱えていた地方拠点の生産性といった課題をクリアできることに加えて、全国に広がる拠点網を通じ、地方創生や社員の柔軟な働き方にも対応できる。この取組みを進化させていくことが、当社の今後の成長にとって大きな鍵になると考えています。
AI時代の価値創造に挑む
ーー急速に進化する生成AIに対して、どのような活用を進めていますか。
田村浩一:
生成AIの活用は企業の生産性を飛躍的に高める可能性を秘めており、マーブルでも全社を挙げて取り組んでいます。現在はAI駆動型開発の手法を取り入れ、独自の社内展開を推進しているところです。既に、AI駆動型開発の社内推進役である「コンテキストエンジニア」700名の育成・認定が完了し、彼らが中心となって社内の技術者全員へとその手法を展開しています。AIを駆使して開発を行うことで、より深く、早く、多くのお客様の課題を解決できるようになる。マーブルが目指す生成AIの活用方法はそういったところです。
ーーAIの活用が進む中で、これからのエンジニアに求められる価値とは何でしょうか。
田村浩一:
これからの時代に最も重要になるのは、AIを扱う能力そのものはもちろん、その出力内容を価値に繋げていく力だと考えています。AIを活用することで、プログラムの実装やテスト、各種開発作業の生産性は飛躍的に向上します。しかし、人間の役割がなくなるわけではありません。むしろ、AIが生み出した成果物を、業務要件や設計に照らし、本当に正しいのか、価値を生み出すものなのか見極めていく力はこれからますます重要になるでしょう。
AIが出力する結果を、顧客や社会にとって本当に価値のあるシステムへと磨き上げていく点にこそ、これからのエンジニアの価値があります。そして、その力を持つ人材を育て続けるからこそ、当社はこれからも、技術を通じて社会に価値を提供し続けることができるのだと確信しています。
社名に込めた未来像
ーー社名である「マーブル」には、どのような思いが込められていますか。
田村浩一:
「マーブル」という社名には、二つの意味、イメージを込めています。一つ目は大理石。1971年の創業以来、多くのお客様と共に培ってきたマーブルの歴史と信頼感を、歴史を内包する強固な大理石のイメージに込めています。
もう一つの意味はビー玉です。カラフルでクリアなビー玉のイメージを、個性豊かな8,700名の社員とともに、社会を明るく彩っていくマーブルの未来に重ねました。
マーブルは、常に社員を通じて社会に価値を提供する会社です。これまで蓄積してきた歴史・信頼感を基礎に据えつつ、社員一人ひとりが、自律的に、のびのびと能力を発揮できる会社。私が初めて組織づくりを経験したときから、目指す組織像は変わっていません。自分自身が40年以上前、この会社を選んだときのように、挑戦を恐れず、成長を目指す、そんな社員が生き生きと活躍できる会社にしていきたいと考えています。
ーー最後に、今後のビジョンについてお聞かせください。
田村浩一:
私たちは2030年に向けて、単なるシステム開発会社ではなく、お客様の事業変革を支えるパートナーへと進化することを目指しています。これまでは、大手システムインテグレーターのプロジェクトを支える立場が中心でしたが、今後は、長年培ってきた技術力と業務知見を活かし、お客様と直接向き合いながら課題解決や価値創造に取り組める、そんな領域をさらに増やしていきます。
その実現において鍵になるのが、全国に在籍するエンジニアの力を結集し、最大限に引き出し活用していくことです。分散開発をさらに進化させ、地方においても高度な案件に取り組める体制を整備していきます。全国に存在する多様な知見と技術力を結集し、場所の制約を超えて新たな価値を創造する。これがマーブルが現在目指している姿です。全国の社員一人ひとりが、成長とやりがいを実感できる企業として、これからもマーブルは進化を続けていきます。
編集後記
約40年にわたり、IT業界の激動を最前線で経験してきた田村社長。技術の本質を見極める厳しい目と、社員一人ひとりの可能性を信じる温かい眼差しが印象的だった。AIがどれほど進化しようとも、顧客や社会に対して本当の価値を見極められるのは人間である、という指摘は、長く現場でシステム、そして顧客と向き合ってきた同氏だからこその説得力があった。8,700名という多様な個性が融合した「マーブル」は、これからどのような未来を創造していくのか。壮大な挑戦から目が離せない。

田村浩一/1962年 栃木県生まれ。東海大学卒業。1986年、東京コンピュータサービス株式会社(現 株式会社マーブル※グループ統合により発足)に入社。全国の支店長や本社事業本部長等を歴任、全国の顧客基盤と現場感覚を培う。2016年からは関連会社の代表や取締役を兼務し、グループの経営を牽引。2024年、マーブル発足とともに同社代表取締役社長就任。「技術」と「経営」、両軸を深く理解しマーブルを率いる。