
物流システムの開発に特化し、大手企業から厚い信頼を寄せられる株式会社ワールドリンク。要件定義などの上流工程から実装までをワンストップで手掛け、営業部隊を持たずに案件が絶えない少数精鋭の技術者集団だ。同社を率いる代表取締役の村田新一氏が掲げる合言葉は、「失敗しろ」。最も恐れるべきは失敗ではなく「チャレンジしないこと」であるという信念のもと、「大きくいっぱい失敗してくれ」と社員を鼓舞し、独自の組織文化を築き上げてきた。かつて組織に馴染めず独立した過去を持つ村田氏が、いかにしてこの精鋭チームを作り上げたのか。エンジニアとしての原点から、2030年に向けた自社パッケージ開発への展望、そして社員への熱い思いを聞いた。
組織に馴染めず独立 失敗を恐れぬエンジニア社長の原点
ーーキャリアの原点となる、ITの世界に興味を持たれたきっかけをお聞かせください。
村田新一:
きっかけは中学2年生の頃です。当時はまだ「パソコン」という言葉が定着しておらず、「マイコン(※)」と呼ばれていた時代でしたが、シミュレーターとして購入したことが全ての始まりでした。そこからプログラミングにのめり込み、いわゆる「パソコン少年」として育ったのです。就職活動の時期には、コンピューター産業がこれから飛躍的に伸びるタイミングだったこともあり、迷わずIT企業への入社を決めました。新卒で入社した会社では、IBMの大規模システムにかかわった後、当時日本ではまだ普及していなかった「UNIX(ユニックス)」のパッケージ開発を一人で任されることになりました。英語のマニュアルと格闘しながら試行錯誤し、第一版を完成させた後に退職の道を選びました。
(※)マイコン:マイクロコンピュータの略称。1970年代後半から80年代初頭にかけて、個人向けコンピュータ(パソコン)が普及・定着する以前に使われていた一般的な呼称。
ーー会社員としてのご経験を経た後は、どのようなキャリアを重ねたのでしょうか。
村田新一:
退職後は、フリーランスとして独立する道を選びました。正直に申し上げれば、私は組織人には向いていなかったのだと思います。子供の頃から「社長」という存在に漠然とした憧れがあり、会社ごっことして役員会議の真似事をするような子供でした。実際に就職して組織の一員として働く中で、自分の生きがいを完全には見出せなくなり、「それならば自分でやるしかない」と決意して、現在の株式会社ワールドリンクを設立しました。
創業当時から大切にしているのは、「失敗を恐れずに挑戦する」という姿勢です。最も恐れるべきは、失敗することではなく、失敗を恐れてチャレンジしなくなることです。だからこそ、うちの会社の合言葉は「失敗しろ」なんです。社員には常々、「大きくいっぱい失敗してくれ」と伝えています。挑戦した結果の失敗は、むしろ称賛されるべきことだと考えているからです。
経営への専念が転機に 物流のプロ集団が生まれるまで
ーー貴社ならではの強みや特徴について、詳しくうかがえますでしょうか。
村田新一:
最大の強みは、物流システム開発に特化している点です。ただ、最初から専門だったわけではなく、受託開発を行う中で徐々に強くなっていきました。私がエンジニアとして現場に出ていた最後の時期に担当したのが物流システムだったのですが、そこで出会った優秀なメンバーたちが「一緒に会社をやりたい」と言ってくれたことが大きなきっかけです。物流システム、特に在庫管理や倉庫内の商品管理には、非常に緻密なノウハウが必要です。単にシステムを導入するだけでなく、現場の業務フローを深く理解していなければ良いものは作れません。弊社にはその専門知識を持ったエンジニアが多く在籍しており、そこが他社との決定的な差別化要因になっています。
ーー組織が現在の体制へと成長する過程で、大きな転機となった出来事はあったのでしょうか。
村田新一:
最大の転機は、私自身がエンジニアとしての現場仕事を離れ、経営に専念すると決めたことでした。それまでは私もプロジェクトリーダーとして現場に出ていたため、社員にとって私は「社長」というより「同僚」のような存在だったのです。しかし、私が現場を退いたことで社員たちの意識は大きく変わりました。「自分たちがプロジェクトリーダーやマネージャーとして自立しなければならない」と、主体的に動くようになったのです。現在は、上流工程を弊社の社員が担当し、実装などの下流工程はパートナー企業と連携する体制を整えています。この仕組みにより、50名規模の組織でありながら、10億円、20億円規模の大規模案件も受注可能となっています。
求めるのは社交的な技術好き 2030年自社開発への挑戦

ーー今後の組織づくりにおいて、どのような人物を求めていますか。
村田新一:
求める人物像は、「社交性があり、新しい変化を面白がれる人」です。私は常々、「エンジニアであっても、社交性がないのは三流だ」と伝えています。エンジニアは黙々と作業するイメージがあるかもしれませんが、私たちの仕事はチームで動きますし、何よりお客様の潜在的な要望を聞き出すための「対話」が欠かせません。技術力があるのは大前提ですが、それ以上にコミュニケーション能力は不可欠なスキルなのです。
また、技術の進化は早いですから、一つの技術に固執せず、「次はこれをやってみたい」と自ら手を挙げられる人を歓迎したいですね。安定よりも変化を好み、新しい技術や環境への挑戦そのものを面白がれる人こそが、私たちの組織にはマッチするはずです。
ーー社員の育成やマネジメントにおいて、現在どのような課題を感じていらっしゃいますか。
村田新一:
社員が納得して働き続けられる環境を作るため、人事評価制度の刷新に取り組んでいます。これまでは評価が属人化しがちで、上司が部下に厳しく言えなかったり、退職を恐れて甘い評価になったりすることもありました。しかし、それでは本当に評価されるべき人が正当に報われません。外部の専門家の知見も借りながら、数値に基づいた客観的で公平な評価制度を構築しようとしています。また、上司には「ただ優しいだけ」ではなく、部下の成長のために言うべきことを言える「上司力」を求めています。会社の方針を理解し、部下を正しい方向へ導けるリーダーを育てていきたいですね。
ーー最後に、今後の展望についてお話しいただけますか。
村田新一:
これまでは受託開発というビジネスが中心でしたが、今後は自分たちで作ったものを能動的に提供していきたいと考えています。具体的には、これまでに蓄積した物流システムのノウハウを凝縮した、自社パッケージシステムの開発を計画しており、2年後の開発本格化、2030年頃のリリースを目指しています。物流業界の人手不足は深刻で、AIやロボティクスを活用した省人化が急務です。私たちの強みを活かして「物流システムと言えばワールドリンク」と言われる製品を作り、社員が「自分たちの会社の商品」として誇りを持てるようにしたいですね。自社製品開発は、社員に新たなキャリアのステージを用意することにもつながります。「もっと新しい技術に挑戦したい」という社員の意欲に応え、社員とその家族が誇れる会社にしていきたい。私自身が多くの失敗をしてきたからこそ、社員が失敗を恐れずに挑戦できる環境を作り続けることが、私の役割だと思っています。
編集後記
「失敗しろ」。村田氏が放つそのシンプルな合言葉には、ご自身の原体験に裏打ちされた力強い説得力があった。物流システムという専門性の高い分野で、営業に頼らず技術力だけで信頼を勝ち得てきた事実は、同社のエンジニアの質の高さを如実に物語っている。受託開発での安定に甘んじることなく、自社パッケージ開発や評価制度改革へと「攻め」の姿勢を崩さないワールドリンク。変化を面白がり、挑戦を称賛するこの「最強の技術者集団」が、2030年に向けてどのような進化を遂げるのか、今後も目が離せない。

村田新一/1968年東京生まれ。日本大学在学中よりエンジニアとしての道を志し、株式会社ソフトエンジニアリングにてソフトウェア設計・開発の現場経験を積む。その後、起業に向けた経営基盤を固めるべく会計事務所にて実務を経験。個人事業主(コンピュータエンジニア)としての活動を経て、2008年に株式会社ワールドリンクを設立し代表取締役に就任。以降、2015年に株式会社アイ・ピー・コンサルタント、2024年には株式会社ユーロスタディーを相次いで設立。現在はこれら3社の代表取締役を兼務し、多角的な事業展開を行っている。