1人でも多くの人が「宙(ソラ)を見上げたくなる」ようにー。
“モノづくり”דコトづくり”戦略による成功への道のり


株式会社ビクセン 代表取締役社長 新妻 和重

※本ページ内の情報は2017年1月時点のものです。

株式会社ビクセンは、創業68年を迎える天体望遠鏡、双眼鏡、顕微鏡を中心とする総合光学機器メーカーだ。「星を見せる会社」を経営ビジョンとし、製品の開発や製造にとどまらず、企画、販売などの様々な企業活動を、一人でも多くの人が「宙(ソラ)を見上げたくなる」ようにとの観点に立ちながら行っている。また、同社が手掛けた手軽に星景写真が撮影できる新ジャンルのポータブル赤道儀『ポラリエ』は、2014年の経産省グローバルニッチ企業100選に選定されている。

今回は、自然科学応援企業として「どうすれば多くの方が星空を楽しみたくなるか」を常に考え、その実現を戦略的に成功させた、株式会社ビクセン代表取締役社長の新妻和重氏にお話をお伺いした。会社の方針、独自の経営戦略や事業内容について紹介していきたい。

新妻和重(にいつま かずしげ)/1966年埼玉県生まれ。中央大学商学部卒業後、公認会計士事務所に就職する。公認会計士二次試験合格。企業会計、経営相談、相続対策などの業務に従事する。2006年ビクセン社外取締役就任。翌年、公認会計士事務所を退職し、同社取締役となる。2008年同社代表取締役社長(8代目)に就任し、現在に至る。

ビクセン入社までの経緯

-ビクセンに入社されるまでの経緯を教えてください。

新妻 和重:
大学で会計学を学び、卒業後に15年ほど会計事務所で様々な業界の会計顧問として従事しました。

当時、私の父親がビクセンで代表を務めていたのですが、後継者候補として私に声がかかったのが入社のきっかけです。会計事務所を退職する事には躊躇がありました。しかし、ビクセンには私が幼い頃から親交のあった社員がいたり、私自身が自宅に昔からたくさんの望遠鏡などがある環境で育ったこともあり、入社するのに大きな違和感はありませんでしたね。

企業方針の明確化が社員の自律性を高める

-社長にご就任された時、まず取り組まれたことは何でしょうか?

新妻 和重:
会社の方針を明確にしました。当時から、ミッション(使命)、ビジョン(目指すべき方向)、コアバリュー(あるべき姿)という方針はあったのですが、やはりもっと明確にして、社員が理解しやすいものにしなければ行動も伴わないと考え、方針の明確化を実行しました。

現在の方針は、ミッション=「自然科学応援企業」であること、ビジョン=「星を見せる会社」であること、コアバリュー=「多様な価値観を認め、他者の価値観を共有する」存在であること、というものになります。

このような明確化された方針をつくることで、社員自身が、どのような場面においても「自分の使命とは何か」「目指すべき方法はあっているのか」「あるべき姿とは何か」を考えながら行動し、自律した人へと成長できると思っています。

“モノづくり”דコトづくり”というマーケティング戦略

-御社の事業について教えていただけますでしょうか?

新妻 和重:
「モノづくり」と「コトづくり」の二つの事業をリンクさせながら行っています。

当社は光学機器メーカーとして、天体望遠鏡、双眼鏡、顕微鏡、ルーペなどの製品開発である“モノづくり”を行っています。そして、それらの“モノづくり”と並行して行っているのが、当社の独自の試みとしての、様々なイベント開催や教室運営という“コトづくり”です。

当社は自然科学応援企業として、「どうすれば多くの方が星空を楽しみたくなるか」ということに常に向き合い、考えています。もともと、天文分野はマニアックな世界でコアな男性ファンが多く、製品に対しても「使い方が難しそう」というイメージが強い世界でした。そこで当社は、そのような天文分野に対する閉鎖的なイメージを覆し、幅広い層の方々に星空を楽しんで頂くために、“コトづくり”に取り組み始めました。

例えば、スカイツリーで女性やお子様も参加しやすい星空を観望するイベントを開催したり、若い方が多く参加する、屋外の音楽イベントにブースを出店して、心地よい音楽が聞こえる中で星空を楽しんで頂いたりなど、年間200以上のイベントを開催しています。これらのイベントには予想以上のお子様や女性の方々が参加し、「星を楽しむ」きっかけを発見して頂けたと思っています。

そうした取り組みをもとにして、女性をターゲットとした製品が生まれました。女性にはもっとおしゃれにかわいく宇宙を楽しめるモノを提供したいと考え、出来たのが『宙(そら)ガールシリーズ』です。

女性にとって天体望遠鏡はハードルが高く、また、重厚感のある双眼鏡も女性の手に合いません。そこで女性にとって親しみやすく手にしやすい、カラフルな双眼鏡をつくりました。ポップな印象のある双眼鏡ですが、機能面も満足頂ける作りにしていますので星空も楽しんで頂けます。おかげさまで、女性を中心に多くのお客様からの好評を得ることができました。

宙を楽しむ機会を増やし、提供し続ける

初めての方でも安心して宇宙を楽しめる機会を今後も増やしていきたいと語る新妻社長

-現在最も注力されていることは何でしょうか?

新妻 和重:
天体望遠鏡教室の開催です。多くの方々が、「天体望遠鏡がほしいけど使いこなせるか不安」、「天体望遠鏡って扱いが難しそう」などの不安を抱えていらっしゃいます。そのような不安を払拭しようと、2017年1月から池袋コミュニティ・カレッジにて毎月2回、屋外で実習を含む教室を開催しています。


今後も、“初めてでも安心して天体望遠鏡で宇宙を楽しめる”、そんな機会をたくさん増やしていきたいと思っています。

好奇心のある人と働きたい

-社長が共に働きたいと思われるのは、どういった人ですか?

新妻 和重:
一言で言うと“好奇心旺盛な方”です。

当社ではあえて採用媒体を利用しての採用活動をしておりません。HPにあるお問い合わせ用のメールアドレスが載っているだけです。それだけですが、毎年多くの方にお問い合わせ頂き、ビクセンに対する熱い思いをもった方が入社されます。

「天文が好き」「望遠鏡が好き」「自然が好き」「レンズが好き」という熱い思いと、それらに対する好奇心を持ち、ビクセンのビジョンを共有できる人たちが集まってくることにより、ビジョンの実現が可能になってきます。

だから、私は“好奇心旺盛な方”と共に働きたいと思っています。

それから、私が考える強い組織は、社員の役割がオーバーラップしているような状態です。つまり、自らの役割に従事しながらも他の役割も担おうとする、そういった重複した役割を果たせる人が多い組織を、私は強い組織だと思っています。

そうした環境にやりがいを感じ、一緒に「多くの方が星空を楽しみたくなる」時代や文化を作り出すことを目指したいと考える方に、是非入社して欲しいですね。

編集後記

ビクセンの社員は仕事終わりに外へ出ると、まずは空を見る。今日の月はどうか、星はどうか、そんな話が必ずされるという。本物の星好きが集まったビクセンは、今後どんな“コトづくり”を企画し、「宙を見上げる」ことの楽しさを私たちに届けてくれるのだろうか。

お話を伺っているうちに、夜空に浮かぶ星の数を数えてみたくなった。もしここに双眼鏡があれば、一瞬にして、見上げた宙の美しさに魅了されてしまうだろう。