
インタビュー内容
【ナレーター】
モノづくりの現場で必要とされるプロツールを取り扱う専門商社、「トラスコ中山株式会社」。
業界最後発で創業した同社は、「枠にとらわれない発想」を原点に、顧客の利便性を追求してきた。現在、在庫58万アイテムを展開し、物流センターを全国28か所に保有して、商品の即納を実現。
最近では、複数の商品を一箱にまとめて発送する「ニアワセ」、ユーザーに直送する「ユーチョク」といった独自のサービスにも力を入れている。
また、経済産業省・東京証券取引所・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が共催する「DX銘柄」に2020年から3年連続で選定され、2023年には「DXプラチナ企業2023-2025」にも選定されるなど、DXの領域においても、その存在感を際立たせている。
モノづくりの現場を支えるプラットフォーマーを目指し、歩みを進める経営者が思い描く未来像とは。
【ナレーター】
数値目標よりどんな企業になりたいかという「能力目標」を持つことが重要だと、代表取締役社長の中山哲也氏は語る。
【中山】
通常、目標というと「売上はいくら」。もしくは「利益がいくら」という金額に表せるものが多いのですが、それとは別に、我々には「能力目標」という考え方があります。
例えば「100万アイテムを保有できる会社になろう」。もしくは「1日24時間365日、受注と発送ができる会社になろう」など、金額ではない能力の目標を掲げています。
実は、これらの実現にはすべて、デジタル技術が必要です。100万アイテムというと、人間の勘や勇気と努力ではどうにもならないわけですから。すると、デジタルを使わなくてはいけない。
そうした、いろいろなものの積み重ねが「DXグランプリ企業」の選定や、今年の「DXプラチナ企業2023-2025」をいただくことにつながったのだろうと思います。
【ナレーター】
中山の原点は、入社2年目に体験した出来事にある。現トラスコ中山に新卒で入社し、配送業務を担う部署へ配属。顧客からの何気ない言葉を通じて、あることが最も重要だと気づかされたという。
【中山】
お客様から、今の業務につながるようなうれしい言葉をかけていただきました。商品を配達したときに、「中山くん、それ待ってたんや。助かった、ありがとう」と。それは、入社2年目の私には非常に心を打たれる言葉でした。
そのときに、うれしいだけではなく、「配達という仕事もおろそかにしてはダメだ」と実感したんです。
それからずっと、配送については自社で行い、その後も自分たちの力で配達できる仕組みを残し続けました。
今、物流が非常に強い会社になっている一番の原点は、そのお客様の一言がきっかけですね。
【ナレーター】
その後、常務取締役、専務取締役を経て1994年、35歳の若さで代表取締役社長へ就任。これを機に、中山は改めてこの会社の使命を考えたと振り返る。
【中山】
当社は機械工具という商品を通して日本の製造業、ものづくりのお役に立つことが会社の使命だと考えました。
その後、「がんばれ!! 日本のモノづくり」というキャッチフレーズとともに、日本のモノづくりのお役に立つ会社になろうと、改めて思ったわけです。
お役に立つためには、支店をもう少し増やさなくてはいけない。物流センターも、もう少しつくらなければいけないということで、新たにやるべきことが見えてきたのです。
【ナレーター】
社長就任から約30年、「これまで経営危機に直面したと思ったことは一度もない」と語る中山。その真意とは。
【中山】
経営危機は回避できると思っています。どんな業界で、どんな会社であっても回避できる。
それはなぜかというと、経営危機に陥らないようにいろいろな策や手立てを前もって打つことができるからです。
今回のコロナでも、我々の業界全体では大体20~30%ダウンが平均値でしたが、私どもは3%と少し。業界平均から見れば、はるかに低い業績ダウンでした。
ただそれは、ラッキーなのではなく、弊社の物流が活きた結果であることは間違いありません。
私は、根っからの心配性。加えて、自前主義です。自社で持っていることほど強いものはないという考えですね。
例えば、配送にしても運送会社さんにお任せしたほうが安いかもしれません。でも、損か得かという判断ではなく「会社の大動脈は他人資本に依存しない」という考えでやっていますので、物流センターもすべて保有しています。
しかも車両からコンピューターにいたるまで、すべて買い取り。非常に珍しい会社だと思います。
【ナレーター】
自前主義を貫いた結果、現在、国内に89か所、海外に5か所の拠点を構えるまでに成長し、機械工具業界のリーディグカンパニーとして躍進を続けるトラスコ中山。
挑戦を成功させるために、お客様の利便性に関わる数字を常に意識していると中山は語る。
【中山】
いろいろなことにチャレンジすることによって、お客様やマーケットの利便性が高まるのかどうかというところは、しっかり見ていますね。
やる以上は、便利なほう、便利なほうに進んでいくようにする。それは心がけてやっていることです。
経営指標やKPIをいろいろと上げる会社がありますよね。ですが、こうしたものは基本的には全部、「我が社目線」の数字。お客様には全く関係のない指標です。
例えば、在庫回転率ひとつとっても、それは、お客様が知らなくていいものですし。お客様からいただいた注文の商品を出荷して、いかに早く届けたか、この指標が私たちの一番のKPI。その思いでやっています。
自分たちの数字を上げることばかり考えると失敗してしまう。そう思いますから。
【ナレーター】
「教科書にない経営」。中山が経営において重視している考え方のひとつだ。その中で生まれた独自の経営戦略とは。
【中山】
例えば、在庫に関して。世間的には在庫はとにかく少なければ少ないほどいいというのが、世の中の教えになっています。
けれど、当社は逆。在庫は多ければ多いほどいいということで、徹底した在庫戦略をとっています。
お客様への即納率を高めるための在庫という考えでやってきましたが、実は「在庫のおかげで」という枕詞で語ることができるように、残業も激減しました。
在庫を増やせば残業が減る。意味が不明な説明と感じられますが、実は在庫があるおかげで、システムを用いた受注ができるようになったことが影響しているのです。
それからもうひとつ。在庫のおかげで同業ライバルがお客様になりました。
これはどういうことか。簡単にいいますと、同業ライバルは、いわゆる売れ筋しか在庫を置いていません。ところが、私たちは売れ筋だけではなく、売れない商品も保管している。それを基本方針として、やっています。
その中で、同業者が自分のところで保管していない商品の注文を受け、メーカーさんに発注すると、「バラ出しはできません」「運賃がかかります」といわれてしまう。
ところが、我々からお買い求めいただくと一番早くて安く、運賃もかからない。そういう状況になりました。
これも教科書には書いていないことです。
ネット通販の会社さんとの取引を増やすには、デジタルを強化する必要性などが挙げられますが、まずはデジタルより先に物流や在庫を整えることが大事ではないかと思います。
【ナレーター】
今後は、業界全体の物流の仕組みそのものの変革にも挑戦したいと語る中山。その真意と、現在注力している取り組みに迫った。
【中山】
売上が上がるか、利益が上がるかという問題以上に、いつの時代も社会のお役に立つ会社であり続けたい。それが事業の本質だと思っています。
具体的な施策としては「ニアワセ」。できるだけひとつの箱にいろいろな商品を詰め込み、一回で送るサービスが非常に好評です。
ネット通販でお買い物をされると、箱がいくつもご自宅へ届く。そうすると運送のロスも発生します。梱包や段ボールの処理も大変ですよね。そこで、発送をひとつにまとめようと考えました。
それから、当社はネットショップに商品を送るのではなく、発注されたユーザーさんへ直接商品を送っています。これが今、大好評です。
非常にメリットが大きいので、これらの取り組みによって「物流の常識を変えること」「物流の仕組みを大掛かりに変えること」が、大きなビジョンです。
【ナレーター】
人材育成について、他の人とは違う持論があると、中山は語る。
【中山】
「人は教育できない」という発想を持っています。
もし、人が教育できるなら、松下幸之助さんの下にいた人は、みんなできる人になる。だけど、そういうわけではありません。
本人がやはり「成長したい」「伸びたい」という意識を持たないと、人は育たないと思っています。
それから今現在、世の中では「人材人材」とさけばれていますが、与えられた仕事に対して、どれだけ真正面から前向きに真摯に、その仕事に取り組んでいるか。それができている人が「人材」だと思います。
まずは会社の業績を伸ばすことをやっていけば、それにつれて人の歩みも早くなっていきます。難しい機械を使っていくことによって、能力も上がる。ですから、会社が成長することが人材の成長にも直結していると、私は思っています。
ー大事にしている言葉ー
【中山】
「取捨善(ぜん)択」。選ぶなら善を選べという発想は大事です。
ビジネスの場合、どちらかというと採算や効率が優先されます。でも、何かを選ぶときには、正しいか間違っているか、善か悪かという判断で選ばなければなりません。
採算ばかりを重視した選択は必ず失敗する。そのような周囲の失敗を見てきましたので、「取捨善択」を大事にしていきたいと思います。

経営者プロフィール

氏名 | 中山 哲也 |
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役職 | 代表取締役社長 |
生年月日 | 1958年12月24日 |
出身地 | 大阪府 |
座右の銘 | 教科書にない経営 |
会社概要
社名 | トラスコ中山株式会社 |
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本社所在地 | 東京都港区新橋4-28-1 トラスコ フィオリートビル |
設立 | 1964 |
業種分類 | 卸売業 |
代表者名 |
中山 哲也
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従業員数 | 3,043(2023年12月末時点) |
WEBサイト | http://www.trusco.co.jp/ |
事業概要 | 生産現場で必要とされる作業工具、測定工具、切削工具をはじめ、あらゆる工場用副資材(プロツール)の卸売業。 プロツール唯一の総合カタログ「トラスコ オレンジブック」を年間約16万部発刊、プロツール検索サイト「トラスコ オレンジブック.Com」では約410万アイテムを公開し、モノづくり現場の資材調達の利便性向上を使命に企業活動を行う。 |