【ナレーター】
商業銀行として日本で唯一、事業承継、不動産仲介などの信託ソリューションをフルラインで提供する「株式会社りそな銀行」。
複数の都市銀行の経営統合に端を発し、改称を経て2003年に誕生した同社は、全国に300店舗以上(2024年3月末時点)を展開し、1600万人以上の個人顧客(りそなグループ全体、2024年3月末時点)、50万社以上の法人顧客(りそなグループ全体、2024年3月末時点)を有する。
融資や資産運用といった従来の銀行業務のみならず、人財供給や食育教育など、銀行という枠組みにとらわれない新たな事業にも積極的に挑戦し、その存在感を際立たせている。
経営者の軌跡と思い描く、りそな銀行のあり方とは。
【ナレーター】
自社の強みについて、岩永は次のように語る。
【岩永】
よく「りそな銀行は、どういう銀行ですか?」と聞かれますが、当行は広域展開している地域金融機関、すなわち商業銀行であり、かつ信託機能を有していることが重要なポイントです。
実は、こういったビジネスモデルを展開しているのは、現状りそなグループしかいません。
経済環境が複雑になると、企業も個人もやらなければいけないこと、考えなければいけないことが増えてきます。
例えば、財産の移転問題とか、事業承継の問題だとか、海外進出の問題だとか。それら全てに対応できるメニューがなければ、お客さまのニーズには応えられません。
その点、りそなグループの場合はワンストップで提供が可能です。
マルチな機能を持った金融機関として非常に重要となるのが“信託”というキーワード。財産をお預かりして管理・運用をして、最終的にはお預かりしたものをまたお返しする。そういった信託という機能が、いろいろな局面で活用できるんです。
例えば、不動産の取引や企業年金、将来に向けて財産を移転するなどですね。圧倒的な多機能を備えて他行と差別化ができているということが、りそなグループの強みだと思っております。
【ナレーター】
岩永の経営者としての原点は、2003年の「りそなショック」を経験したことにある。資本不足に陥り、約2兆円の公的資金注入を受けて実質国有化された。これを機に「銀行の本質」について考えたと振り返る。
【岩永】
当時は金融危機という状況で、公的資金が入りながらも、企業が再編を通じて生き残りをかけている状況でした。大和銀行とあさひ銀行という2つの銀行が合併してりそなグループとなったことで、一つ整理できたという風に社内的には思っていました。
ところが、財務の査定をすると「このままではダメだ」という判断が下されてしまったんです。そこでまた、さらに大きな公的金が入ることになりました。これがりそなショックという出来事です。
お客さまも「これから先、りそな銀行はどうなっていくんだ」と非常に心配されたのではないかと思います。実質、国有化された大きな金融機関というのは初めての事例だったので、社会的なインパクトも大きかったですし。
その後、再生プログラムによりさまざまな策を打っていくのですが、経営者も変わっていきますし、我々がこれから何をするべきかというのが分からなかった時期は一番つらかったですね。
我々としては、いずれ経営が安定して、お客さまの融資支援や預金を安心してお預けいただくシステムがある限りは、お客さまの期待に応えられると考えていました。
だからこそ、不安を感じるお客さまに対して、資本の頑健性も説明してしっかりやっていこうと考えたのです。
当時は我々としては「通常通りのご融資・預金取引をしましょう」「新しい投資計画については我々にお任せいただければきちっとやりますよ」とお話していました。顧客のニーズにどうやって応えるかを第一に考えるという根底は変わりませんでした。
そうして社員全員で「我々は何をすべきなのか」と考えて、最終的に残ったのが今のりそなグループの経営の精神です。
これは“顧客本位”であり、“顧客のために何ができるか試行錯誤することこそ銀行の本質だ”という答えにたどり着きました。
【ナレーター】
その後、りそなホールディングス執行役、取締役兼代表執行役などを歴任し、2020年にりそな銀行の代表取締役社長に就任した。就任を告げられたときのことは、今でも鮮明に覚えているという。
2019年1月頃、当時の社長である東さんから個室に呼び出されて「君にりそな銀行の社長をやってもらう」と言われたのです。そのときは正直びっくりして「そんな大役が自分に務まるのだろうか」と思いました。
東さんは当時60歳になったばかり。若くて元気ですし、まだまだどんどんこれからいろんな改革を進めていくと日々おっしゃっていたので、まさかこのタイミングで交代されると思いませんでした。
また、その引き継ぐ相手が自分だということも全く考えていなかったので、「えらいことになった」というのが当時の感想ですね(笑)。
そこから1か月、2か月はノートにびっしりと自分の考えをまとめてみました。今までの経験したことと、これからやらなければならないことを紙に自分の手でたくさん書いたんです。
今でも時々見返していますが、当時はいろいろなことを考えていましたね。
【ナレーター】
挑戦に際し、岩永が最も重視しているのが「当機立断」という考え方だ。
【岩永】
「当機立断」という言葉は、危機に際しては果敢に挑戦して判断するということ。危機に際してもチャンスを逃してはいけないということを重視しています。
我々のビジネスに関しては、お客さまに対してのチャンス、加えて我々に対してのチャンス、この両方がそろって初めていい決断になると私は考えています。
例えば、お客さまにとって融資が必要な時期に我々が躊躇していると、お客さまの苦境が深刻になってしまいます。
しかし、あまり早い段階で融資してしまうと、お客さまのためにもなりませんし、銀行に対してもポジティブではない結果が出てくるケースもあります。
そういう意味で、危機に際しては判断をしなきゃいけない、つまりスピードを上げるということが第一だと考えています。
やはり、銀行自体が新しいものに挑戦して成長していかないと陳腐化してしまうんです。
選ばれる金融機関になるためには、チャンスが来たときに、時代の要請にも、お客さまの要請にも応え、我々にとっても成長の礎になるように、機を逃さず判断することが大切だと思います。
もちろん、慎重に考えることも必要です。しかし、経営のトップの立場としては、やはり会社を成長させ、お客さまの資産を成長させるためにチャンスを逃したくない。
せっかく預金や資本をお預かりして、貴重な人財も預かっているので、それを成長させるように投入しなければならないと考えています。
特に、りそな銀行は公的資金の返済が終わり、今は資本の活用フェーズに入っていると言われていますし、当行もそのように公表しています。
これからは前に出ていきたいと思いますし、それを求められているとも考えています。
大きな規模の資金を扱っているわけですから、それを活かして「日本を成長させていかなければならない」「地域を活性化させていかなければならない」と常に思っていますね。
そのためには、やはりやるべきときにはしっかり前へ進んでいく、積極的に投資もしていく、ということが大切だと考えています。