【ナレーター】
多くの施設の再開発や新規立ち上げのプロジェクトに関わってきた山下が、挑戦を成功させるために意識している3つの要素とは。
【山下】
藤田観光の中で、私が一番広告宣伝・販売促進費を使ったのではないかというほど、失敗しています。しかしながら、私は営業企画や企画部にも長く在籍していたので、ヒットさせるには、おそらく法則があると思っていました。
それは「今だけ」「ここだけ」「ちょっとだけ」だと、ずっと思っています。この3つを満たせば、ヒット商品が生まれると思っていましたので、それは強く意識しています。
たとえば「東京雲海」。これも「今だけ」ですよね。時間を決めてやっていますし、「ここだけ」でしかやっていないものです。それに、雲海がずっと出ていたら面白くない。だから「ちょっとだけ」見せます。それがヒット商品を生むための3つの心がけですね。
【ナレーター】
人材育成について山下は、従業員により多くの経験をさせることが重要だと語る。
【山下】
人材の育成は非常に時間のかかることです。いろいろな体験をさせないといけません。そのため、新しい人事制度を入れて働く場所や業務内容の選択肢を増やしています。そのベースとなる考えは、ホテルを形成しているいろいろな部署を経験したことで自分の身になった、自身の経験です。
一昨年から、東急ホテルズ&リゾーツ(株)と「一緒に研修しよう」と合同で取り組んでいます。競争ではなく、違う会社の方々と実施することで、そのホテルのやり方も知ることができる。もっと広がってもいいなと思いますし、いわゆる「他流試合を増やしていきましょう」ということです。
それから、もう一つ。私は今、ダイレクトミーティングをやっています。全国に多くの事業所やホテルがありますが、そこで若いスタッフと一緒に話をして、たくさん意見が出てきました。
たとえば、「他の事業所をもっと知りたい」という意見が出てきたとします。ならば、椿山荘に1ヶ月。箱根小涌園に1ヶ月。新宿グレースで1ヶ月働いてといったように、配置する。頭でわかっただけではうまくいかないと思いますから、人材を育成していくためには、実体験をしていかないと。ですので、より実践に近いものをやっていくことが今、求められていますし、実現したいと思っていることですね。
【ナレーター】
ライフスタイルに寄り添うユニークな事業展開を進めていきたいと語る山下。見据える展望とは。
【山下】
我々の業界は、コロナで非常に傷みました。その時期を経て今は、本当に海外のお客様が一気に増えていて、すごく忙しい日々です。そこで何をしないといけないのかというと、事業の拠点をもっと増やして、収益を上げていきたい。まず、それが一番ですね。
そして、藤田観光としていろいろな事業を展開したい。たとえば、お客様の変化、ニーズに対応するために、市内で水族館をやっています。加えて、旅館、ホテル、ゴルフ場、グランピングもあります。
こうしたユニークな事業を展開しているので、今後も、宿泊だけではなく、いろいろと派生させたい。キーワードは「節目事業」だと私は考えていますので、ぜひ、70周年になっても、そうしたことを継続したいと思います。
【ナレーター】
求める人材像について、家族を大事にする人だと語る山下。その真意に迫った。
【山下】
家族を大事にできない人が、お客様を大事にできるかというと「できない」と、私は信条として思っています。自分の家族。自分の周りの人をしっかり大事にできる人間は、「お客様に満足していただける」ベースがあります。それに加えて、何年も変わらずにチャレンジをしていけること。そして、根が明るい人がいいと思います。
■大事にしている言葉
【山下】
松尾芭蕉の言葉に「不易流行」というものがあります。伝統や本物、変えないものは変えない上で、世の中のトレンドやお客様のニーズによって変えていかないとダメなこともある。このバランスが大切です。
伝統として守ることと、新しいものを取り入れていくこと。このバランスを8対2なのか、7対3なのか。時代時代によって変えていくことが、私はこういう業界、もしくはサービス業にとって非常に大事だと思います。
今はインバウンドのお客様が多い時期です。変えない信念と変える勇気が合わさっていかないと、なかなか競争に打ち勝てません。バランスを保っていくことも大切ですから、常に、この「不易流行」という言葉を、従業員に話をするようにしています。