【ナレーター】
ホテル事業を中心として、多角的にビジネスを展開するプライム上場企業「藤田観光株式会社」。
ラグジュアリーホテル「ホテル椿山荘東京」、温泉旅館「箱根小涌園」、宿泊特化型ホテル「ワシントンホテル」、グランピング施設「藤乃煌 富士御殿場」など、これまで培った歴史・文化・伝統を守りつつ、さまざまなブランドを全国に展開している。
2020年から始動した、ホテル椿山荘東京で行われる国内最大級の霧の庭園演出「東京雲海」は、椿・桜・新緑・蛍・涼夏・秋・冬という7つの季節を表現した絶景をつくり、多くの利用者を魅了する。同施設で「日本空間デザイン賞」をはじめ、数多くの賞を受賞しており、業績面でも快進撃を続けている。
約70年の歴史を受け継ぐ経営者の軌跡と、思い描く未来像に迫る。
【ナレーター】
自社の強みについて、山下は従業員のホスピタリティ・マインドにあると言い切る。
【山下】
藤田観光の強みは、人を大事にする会社です。ほかのホテルや同業界の場合も同様かとは思いますが、その中においても、お客様を、従業員を大事にする。このホスピタリティ・マインドが、藤田観光には多いと思います。
一方、弱みとしては、商売人が少ないと感じます。お客様に対するサービスはパーフェクトですが、それが商売につながっているかというと、私は課題だと思います。バランスが大事ですね。
【ナレーター】
山下のビジネスパーソンとしての原点は、入社して最初に配属された三重県鳥羽市のホテル時代にある。この時の経験が後のキャリアアップにもつながったと振り返る。
【山下】
いろいろなことをやらないといけませんでした。現場仕事など一連の仕事から1年以上経つとお客様を取ったり、旅行エージェントを回ったり。さらに5、6年が経過するごとに事業計画をつくる形でしたので、マルチな働き方を余儀なくされていました。
お客様の一連の流れ、お金の流れといったように、ホテル全体のマネジメントが学べたことは今に活きている経験です。大きい事業所の総支配人を務めることができたのも、若い時の経験がベースになっていると思います。
【ナレーター】
その後、箱根小涌園や大阪・太閤園の総支配人を務めた山下は、2020年にホテル椿山荘東京の総支配人に就任。しかし、観光業界にとって大きな痛手となったコロナ禍に直面する。熟考の末、山下が打った一手は施設の目玉となる新たな商品の開発だった。
【山下】
太閤園でやっていた「雲海」を、「ここに仕込もう」と2月頃に決めました。椿山荘の庭は一番の強みです。日本の和を生かしつつ、もう少し夜のエンターテイメント性を加えた何かをできないか。そのように考えて、お昼は雲海、夜は光のライトアップをやろうと決めました。コロナ対策を進めながら、10月1日の公開に向けて準備していたのです。
世の中にいい話題が少なかった時期なので、結果としては、ちょうど良かったと思います。マスコミ・メディアの方々に支援いただきながら、一気に名前が広がりましたし。今までいろいろなことをやってきましたが、新しいものを常に諦めずに考えてやり続けることも重要だなと、改めて思います。
結果として「宿泊、宴会、結婚式もちゃんとやっています」という認知を、再度上げることにつながった。それも良かったですね。
【ナレーター】
2020年以降、営業利益がマイナスだった藤田観光は、2023年に業績を大きく伸ばし営業利益はプラスへと転じた。翌2024年、山下は代表取締役社長に就任。当時を振り返って次のように語る。
【山下】
コロナ禍を経て、構造改革を行いました。不採算事業を整理したり、大阪の施設を売却したり。ある程度、目処がついたところで、次に売上を上げていくための商品づくりや商品の付加価値を高めていくことが、私に特に求められたことです。
やはり社長就任は、すごく驚きました。これまでずっと、箱根や太閤園、椿山荘といった大きな事業所の総支配人をやってきて、「どうしたらスタッフのみなさんが働きやすい職場をつくれるか」と考えていました。そうして思い至ったのが、「東京雲海」のような新しいチャレンジを常に、みんなにも考えてほしいということでした。
その上で物事を分かりやすく伝える。販売強化の場合、「このお客様をこういうふうにして取っていきましょう」ということを具体的に話す。それが非常に大事だと思っています。そして現場の意見をどのように吸い上げるのか。大変ですけど、それこそ原点ですから。