【ナレーター】
アメリカで高い成果を上げた中岡は、アメリカ子会社の社長に。その後、アイコム本社の取締役、海外営業部長を経て、2021年6月に代表取締役社長に就任した。当時の状況について、こう振り返る。
【中岡】
社長就任の打診があった時、最初の2回は辞退したのですが、さすがに3回目は「もう腹を決めないといけないな」と思いました。そのとき、私を指名した創業者に「やっぱりメーカーのトップは、技術を深く分かっている人の方がいいと思います」と正直に言ったんです。
すると、「自分で全部やろうとするからそう思うんだ。人を使えばいいじゃないか」「自分で全て決める必要はなくて、情報を集めろ。この件はこの人に聞いたらいいし、このデータはここから取れるとか、そういうことさえ分かればいいんだ」と言われました。
また、「執行役員以上の役職者は必ず毎週1回は集まって、顔を合わせて話をする。そこで経営課題を一つひとつ話し合って解決していったらいい」と言っていただいたので、合議制でやることを決め、社長を引き受けました。
【ナレーター】
「災害時の通信手段として、なぜ携帯電話ではだめなのか」。中岡がよく受ける質問のひとつだ。これについて、無線機とは担う役割や目的が大きく異なるためだと言う。
【中岡】
無線機の強みとしてよく言われるのが、即時性と同報性とインフラに頼らないこと。この3点が、災害を考えた場合、携帯電話とは決定的に違うところだと思います。
携帯電話ですと、皆さんご存じのようにいろいろなところにアンテナが立っていて、それがダウンすると全くつながらなくなる。だから、なんらかの災害があったとき、ほとんどの場合で最初にコミュニケーションがとれるのは無線機なんです。
電波が届く範囲であれば、1対1000でもコミュニケーションが取れますし、ワンプッシュで即時性があって同報性がある。さらに、インフラに頼らない自営システムという強みがある。これは非常に大きいですね。
「皆さん逃げてください」と、一人ひとりに電話するのは効率が悪いですよね。無線機であれば、ワンプッシュで「皆さん逃げてください」と言うと、1000人でも一挙にコミュニケーションが取れるので、そういった面で優れています。
携帯電話は非常に便利で優れた機械ではありますが、同報性や即時性の面を考えると、「どうしても無線機じゃないと」というところはまだあると思います。
【ナレーター】
アイコムでは現在、新規事業開発の強化施策として、従業員へのリスキリングを推進している。主に取り組んでいることについて、中岡は次のように語る。
【中岡】
事業構想大学院大学という社会人向けの大学があり、その中に新しい事業を立ち上げるコースがあります。厳選した社員11名を、第1期生としてその大学に通わせています。
専門の講師の方に教えていただきながら、1年間授業を受けます。もちろん仕事を続けながらなので、部署長や上司にも、「会社の方針としてやるんだから、仕事をちゃんと調整してくれ」と伝えてあり、アサインされた11人は勉強にもしっかりと注力できるようにしています。そういったことは新たな取り組みとして、今やっているところです。
また、同大学が開講する防災についてのコースでは、十数社が共同で参加するため、防災に関わる新しい事業をいろいろと試してみようと考えています。
【ナレーター】
今後は「自前主義プラスα」をキーワードに、事業をさらに拡大していきたいと語る中岡。見据えている展望とは。
【中岡】
企画から参画して、設計、製造、販売、修理まで全て自社で行っていますから、それはそれで良かったと思いますし、これからも基本的に続けていこうと思っています。
ただ、これからは機械単体で売っていくよりも、お客様の困りごとに対して、「こういうシステムがありますよ」と、ソリューションを提供できるような会社になっていかないといけません。
そのためには、自社で全てをやるのではなく、パートナーを探して一緒に協力しながら、お客様の求めるソリューションを提供できるような100年企業を目指したいと思っています。
【ナレーター】
求める人材像について中岡は次のように語る。
【中岡】
新卒、中途関係なく、チャレンジ精神を持った人に来てほしいなと思います。自分の経験からいうと、英語が全くできなくても、希望すれば海外の配属になったり、10年目には海外への出向ができたり、それからさらに5〜6年のうちには「責任者やってみるか」という話になったり。そんなふうに当社は、現在の実力よりも少しずつ上のことにチャレンジできる会社です。
■大事にしている言葉
「One team, One plan, One goal」という言葉です。アメリカ赴任当時、当時私はシアトルに住んでいたのですが、そこにはボーイングの本社もあり、当時の社長であったアラン・ムラーリさんと会いました。
いろいろ話を伺っていると、「100人の立派な社員がいたら、100のポリシーと100のルールがある。だから、One team, One plan, One goalで取り組むことが必要だ」と彼は言いました。
「これは当社でも使えるな」と思ったので、「その言葉をぜひ使わせてくれ」と頼んだのです。何回か断られたのですが、最後的には了承していただけました。「One team, One plan, One goal」。これは個人的にも、会社全体としても共有し大事にしている言葉です。