畳文化を守れ!
老舗企業を急成長させた革命児が導く、伝統産業の生きる道
株式会社TTNコーポレーション 代表取締役 辻野 佳秀
斜陽産業とも言われる畳業界において、トップメーカーとして揺るぎない地位を持ち、かつ成長を続けているのが株式会社TTNコーポレーションだ。今や畳のみならず、襖、障子、建具の制作から施工までの一切を担い、グループの年商は65億に上る。金沢の老舗旅館『加賀屋』や歌舞伎座、出雲大社などを顧客に持つほか、ダイヤモンドダイニングを始めとする全国のダイニングやレストランに家具を提供している。
十数年前までは畳一筋で商っていた同社の躍進は、業界初の“24時間稼働”から始まった。これにより年中無休の店舗でも畳替えが可能になるなど、畳需要の可能性を飛躍的に伸ばすことに成功したのだ。町の畳屋を、世界を目指すTTNコーポレーションに変貌させた四代目 辻野 福三郎こと辻野 佳秀代表取締役に、今後の展望を伺った。
辻野 佳秀(つじの よしひで)/昭和9年創業の畳店に生まれる。17歳でカナダ留学し、20歳の帰国と同時に株式会社TTNコーポレーションに入社。24時間稼働、『三条たたみ』ブランドの構築など業界初となる改革を次々と立ち上げ、31歳で4代目社長に就任。その後6年間で売上高を2倍以上に伸ばし、同社を急成長させる。
畳のプロだからこそ、いかなるニーズにも応える
-御社と従来の畳店との違いは、どのようなところでしょうか。
辻野 佳秀:
創業当時(昭和9年)からの畳のノウハウを構築して事業を拡大してきましたので、基本的には畳が軸です。しかし、当社は古い技術だけを守ろうとする会社ではなく、今のニーズに合う畳の開発に力を入れています。最近の方は発想が豊かなので、さまざまな畳の利用法をご相談いただきます。そしてその発想通りに作れる技術力を持つ畳屋が、当社なのです。
例えば、「ファッションショーのランウェイで使う畳がほしい」とご依頼を頂いたことがありました。普通の畳を敷いただけでは、ピンヒールで歩けない。そういった問題を解決できる日本唯一の畳屋として、皆様に駆け込み寺のように使って頂いています。
そしてやはり多いのは畳の部屋の施工ですが、従来の工務店では、畳、襖、障子、ドアとそれぞれ発注していました。それを、畳も建具も造作家具も、全てこちらでやりますとしたのが、当社のスタイルです。
-空間をプロデュースされているということでしょうか。
辻野 佳秀:
畳だけで畳の良さを伝えるのは、とても難しいのです。畳から立ち上がってくる襖や建具、和の建材、そこに置かれる家具…。それらを総合して、「この部屋に泊まってみたい」と思わせる旅館を作るのが、当社はとても得意です。和と関係のない家具事業部もありますし、オフィスでも飲食店でも総合的に手掛けることができますが、特に和の空間プロデュースに関しては、日本で一番でありたいという思いでやっています。現在は日本でも家づくりにこだわる方が増えており、時代の流れはいいと感じますね。
“町の畳屋”からの脱却
-カナダ留学後に20歳で入社され、”24時間稼働“を生み出したのは25歳。『三条たたみ』など畳のブランド化を推進し、31歳で社長に就任されました。他社での経験もない中、なぜ数々の新規事業を軌道に乗せることができたのでしょうか。
辻野 佳秀:
帰国して入社した時は、父の働きのもと当社の規模は拡大していましたが、体質は昔の畳屋のままでした。職人の仕事は難しいものですが、今では機械でカバーできるところも多いのです。いつか変えなくてはと思いました。
しかし僕は職人見習いなので、半年間は猛修行です。努力して先輩たちに認められ、意見できるようになりました。その後、本などでマネジメントの勉強をしながら工場長になり、生産性の向上や、新商品の開発に取り組みました。しかし自分が思い描いていたほどの結果が出ない中、出会ったのが24時間稼働のご要望でした。多少おしゃれな畳を作ったり、畳のうんちくを語ったりしても、お客様には、違いはなかなか届きません。サービスで味付けすれば他との違いが明確になると、その話で気付いたのです。
人の働き方や考え方から変えないといけないので、社内の環境を調えるのは大変なことでした。それでも、いい文化はいい文化で残し、悪い文化は直すと言いながらプロジェクトを進めました。父親とはぶつかるところもありましが、うまく協力して変えられたと思います。
『三条たたみ』を始めたきっかけも、現場での気付きです。支店展開をスタートして支店長となってみると、下請けの仕事ばかりでは利益が出ないことが目に見えてわかりました。良いものを定価で紹介していけるようなビジネスをしなくてはと思って立ち上げたのが、『三条たたみ』のブランドです。
これらが実現できたことには、カナダの留学経験が大きく影響していると思います。17歳で単身海外に渡り、銀行口座開設に始まり全てを自分の力で乗り越えてきました。現地では、何気なく生活していては駄目だったのです。そして何より、海外から日本を見ることで、日本の文化の“格好良さ”に気付けたことが大きかったですね。
世界進出と全国ネットワークで畳産業を守る
-今後の展開をお聞かせください。
辻野 佳秀:
今では、家具ブランドや家具や建材の卸会社など事業も多角化しましたので、分社化してグループを広げています。その一つ一つをここ数年で売上高10億円ずつほどに成長させたいと思います。それらが成長することで、新しい家具の開発など、もっと新しい取組みができるでしょう。
そして現在、中国で作られた安い畳が、ヨーロッパやアメリカなどで販売されています。いろいろな文化が中国から日本に入ってきましたが、畳は日本で生まれて日本で育まれた、日本の文化です。だからこそ、日本の畳屋が世界に発信できていないことに、非常にもどかしさを感じています。コスト面では中国が一つの基準となっている状況なので、3~4年後を目安に世界への輸出量を増やす計画を立てています。
また、畳業界としては、もう畳屋同士が競い合う時代は終わっています。いかに協力して日本の畳文化を守るかを一致団結して考えていくべきです。
当社については、他の畳店にとってはいろいろな思いがあるでしょう。しかし当社に賛同してくれる畳店もとても多いので、そういう畳店と仲間になれるような展開をしたいと思います。例えば商品開発やブランディングは当社、作るのは各地域の畳店というように全国でグループを作り、日本最大の畳のネットワークを作りたいです。
求める人材は“仲間”になれる人
-御社に必要な人材については、どのようにお考えですか?
辻野 佳秀:
僕が一緒に働きたいのは、優秀かどうかよりもまず、僕と信頼関係が結べる人です。そのうえで希望するスキルとしては、人をまとめる力でしょうか。全国展開には、各地の畳店さんを口説いて行かなくてはいけません。この人と仲間になりたいと思わせられるような、チームを作ることが得意な人が魅力的ですね。そんな人材がいてくれれば、当社の成長は何倍速にも早まるでしょう。
-就職活動をしている方に、メッセージをお願いします。
辻野 佳秀:
僕らは、“世界を一畳ずつ気持ちよく”をコンセプトにしています。畳を減らすどころか、一畳でも多くの畳を世界に敷き詰めていこうという気持ちで、真剣に研究開発をしています。畳業界は、日本人として生まれて、日本のために何かを残すという、日本人として誇れることができる業界です。共感してくれる仲間に、是非来てほしいと思います。
編集後記
共に働くためには、信頼関係が大切だと考える辻野社長。一緒に仕事をしてくれる仲間がいるからこそ、会社の事業が成り立つのだと話す。日本の畳のトップメーカーとして、世界の目を“本物”の畳に向けさせようとするだけでなく、業界の団結したネットワークの構築で、畳の存続とさらなる普及を目指す。