新たに作り上げた業界の“常識”

―渡部様が部長をお務めの業界再編部は、どのような経緯で設立されたのでしょうか?

渡部 恒郎:
日本M&Aセンターは全国の銀行や会計事務所から、M&Aを必要としている企業の情報を収集し、それぞれ銀行チームと会計事務所チームに分かれて案件を扱います。私は新卒で入社してから、数年ずつ両方のチームに所属していたのですが、経営者になるためには何か新しいことを始めなければと思っていました。そんな時、サンフランシスコに行った際、アメリカのM&Aの会社は業種ごとに特化しているということを知りました。「これは社内に取り入れるべきだ」と思い、帰国後、2012年に「調剤薬局業界支援室」を自ら立ち上げました。やりたいと言ったことに対し、全面的にバックアップしてくれた社長の理解があってこそ実現できたと思っています。2015年には、「業界再編部」となり、現在ではIT業界や食品業界、建設業界など、さまざまな業界に特化した組織になっています。

―自ら新しい部門を立ち上げられて、どのような効果や影響がありましたか?

渡部 恒郎:
それまでは地域の括りで案件を扱っていたので、業種を意識することはほとんどありませんでした。しかし、今はほぼ全社員が「これは何業界の案件なのか」ということを強く意識しています。また、それまで弊社が広めてきた企業評価の方法に対しても、私は新たな手法を提案しました。そしてその新モデルを上場企業にも周知させていったので、今ではM&Aの業界全体で私が提案したモデルを使用するように変わりました。

成功事例の真似だけで終わってはいけない

―最年少執行役員に抜擢された理由は何だとお考えでしょうか?

渡部 恒郎:
それだけ成果をあげてきたということもありますが、私の場合は、人と違うことをしたというのが大きいのではないかと思います。例えば業種特化のM&Aもそうですし、今までベストだと思って使ってきた株価の計算方法に対し、そのルールが本当に正しいのかという疑問を持ったこともその1つです。また、提案書のフォーマットに対しても、ただ空欄を埋めるだけでは伝えきれない部分があるのではないかと思い、新しい様式を考えました。新たなパンフレットやWebサイト、書籍執筆や営業部署における女性スタッフ活用など、それまでやってなかったことを1から始めて、今や会社全体に広がっています。

うまく行っている事例を取り入れることや、それを踏襲することは非常に大切ではありますが、多くの人は丸写しかその延長線の状態で止まっています。しかしその状態では、顧客が本当に求めているものに気付かないことがあります。純粋に、必要だと思うことを実行してきたというのが、功を奏したのだと思います。

経営者になるための道しるべ

―ご自身も経営者を目指されているとのことですが、三宅社長からアドバイスを頂くことなどはありますか?

渡部 恒郎:
経営者になりたいということは伝えていましたので、キャリアのことなども相談させてもらっています。1つの部署だけではなく、いろいろな部署を見た方がいいと言われ、経験を積ませてもらいました。通常、成功するとなかなかその部署から外れにくいものですが、部署をあえて移ることで、成功体験に固執することもなくなりましたね。

社長に敵うことは1つもありません。経営戦略の立て方や実行力、プレゼンの仕方などはもちろんのこと、体力面でも私なんかより圧倒的に強く、学ぶことばかりです。

とにかく目の前の仕事に集中する

―今後の目標についてお教えください。

渡部 恒郎:
今は、M&A業界自体をさらに良い業界にしていきたいと思っています。経営者になりたいという思いは常にありますが、1つことに注力して頑張っていけば、自然とそのチャンスが訪れるのではないかという気がしています。ですので、今はとにかく目の前の仕事に集中し、1社でも多くの企業のためになりたいですね。

編集後記

M&A業界は未知の世界だったにも関わらず、入社後、瞬く間に実績を上げていった要因の1つに、渡部氏自身も言うように「自分が経営者だったから、経営者サイドの気持ちがよくわかる」というのがあるだろう。しかし、そうした経験の差だけではなく、渡部氏の持つ上昇志向の強さや慣習にとらわれない行動力が、成功の原点にあるのだと感じた。

渡部 恒郎(わたなべ つねお)/1983年大分県生まれ。京都大学経済学部卒。
中学3年生の卒業論文で「コンビニの経営戦略について」を執筆。大学在学中にインターンを機に入社した人材派遣ベンチャーでNo.2となり、関連会社を設立して取締役に就任。2008年、株式会社日本M&Aセンターに入社。2017年に執行役員に任命される。
著書、『業界再編時代のM&A戦略』(幻冬舎・2015年)は、紀伊国屋(全店)ウィークリーランキング経営書1位(2015/9/21-9/27)、丸善丸の内本店ウィークリーランキングビジネス書1位(2015/9/24-9/30)などを獲得。多数のメディアにも出演し、業界再編M&Aの第一人者として注目を集めている。

※本ページの情報は2017年9月時点のものです。

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株式会社日本M&Aセンター 代表取締役社長 三宅 卓