“完全栄養パスタ”でAmazon食品ランキング首位を獲得。世界に挑むフードテックベンチャーの正体とは ~ベースフード株式会社 代表取締役社長 橋本 舜~

2017年2月、Amazonで初めて販売された生パスタが、麺部門のみならず食品カテゴリー人気度ランキング首位を獲得して食品業界を驚かせた。2016年設立のベンチャーによる完全栄養食品『BASE PASTA(ベースパスタ)』が達成した、大手乾燥パスタやミネラルウォーターを抑えての快挙は、“簡単で美味しい健康食”を待ち望む人たちの潜在的な多さを印象付けた。

わずか2分の調理で日本人が1食に必要な栄養素を全て摂取できる『ベースパスタ』は、「日経トレンディ2018年ヒット予測ランキング」9位にランクインした“即席パーフェクト・ヌードル”を代表する食品としても注目を浴び、2018年2月時点で累積販売数6万食を突破。開発したベースフード株式会社代表取締役社長、橋本舜氏は、手軽に栄養素を摂取できる“完全食”といえばドリンクや固形食品が多い中、世界で初めて、主食であるパスタで“完全食”を実現したことに大きな意味があると話す。橋本氏へのインタビューを通して、主食をイノベーションすることで生まれる次世代の食品会社の姿を追った。

自身のベースとなったApple創業者の経験談

-起業したいという意識は、幼い時からお持ちだったのでしょうか。

橋本 舜:
私の父が測地設計事務所を経営しており、仲間の中小企業経営者たちとの集まりによく私を呼んでくれたので、子どもの頃から経営者は身近な存在でした。経営を学びたいと思い、大学は経済学部を志望しました。


-大学3年生の時に教養学部へ転部をされたそうですが、なぜこのタイミングで転部をされたのでしょうか?

橋本 舜:
経済に特化して学び続けるよりも幅広い知識を身に付けたいと思ったからです。当時はiPhoneが登場し、スティーブ・ジョブズ氏が注目を集めていました。彼がカリグラフィー(文字を美しく見せるための手法)の授業を受けていたことが、アップル・コンピューターに美しいフォントを組み込むきっかけになったことなどを知り、今までにないものを生み出し受けて入れてもらうには幅広い知識が必要と思いました。

DeNA入社の決め手

ー大学卒業後は株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社されました。きっかけはどのようなものでしたか?

橋本 舜:
もし会社を起こすにしても、まずは大きな企業に入って勉強しろと言うのが父の考えでした。父自身もそうやって大きな企業のよいところを自分の会社に取り入れていましたし、私も仕事の仕方を学ぶ意味でも、効率的なやり方だと感じました。ずっと続けていた剣道のように、最初は型を教わってから自分の色を付けていけばいいと思いました。

DeNAに入社したのは、シンプルに社員の方たちと話していてワクワクしたからです。IT企業であるDeNAの方たちからは、走りながら考える柔軟性と、一緒に面白いことをやっていこうという雰囲気を感じました。創業者である南場さん(現・代表取締役社長、南場智子氏)も印象的でした。普通だったら壇上で話すだけのような場でも、学生の間を歩きながら、むしろ相手に聞くようにTwitterなどの最近のトレンドについて会話していました。面接のような1対1の場でも年長者として教え諭すといった感じがなく、とてもフレンドリーに話されます。なおかつ、会話のスピードも頭の回転も自分がこれまでに出会った誰よりも速いのです。「自分もこんな風に歳を重ねたい」という思いは、入社の大きなきっかけになりました。

上長の教えから辿り着いた起業テーマ

-DeNAでどのような経験を経て、起業に至ったのでしょうか。

橋本 舜:
DeNAには5年在籍しましたが、実は3年目に入る頃、一度起業を考えました。当時はゲームのプロデューサーを担当していましたが、ゲーム以外で自分の力を試したいという思いに駆られたのです。

しかし当時の新規事業担当役員に「ゲーム以外のビジネスも今の会社で学んでみたらどうか」と誘われ、出資先のベンチャー企業の支援に参加しました。開発・マーケティング・資金調達、の全てに関わる経験は、大変大きなものでした。全体像を見ることができるようになり、自分で会社を立ち上げる際にわからないことが出てきても、どんな手を打てばよいのか推測することができました。そしてその後自動運転事業に携わるうちに、自分のやりたい事業のテーマがどんどん明確になっていったのです。

日本と言えば、高齢化が世界でも非常に進んでいる国です。震災などを経て、社会的貢献度の高い仕事をしたいと思っていた私は、自動運転事業では過疎地を回るバスなどに関わっていました。高齢化がさらに進み社会保障費がより莫大となれば、いずれ立ち行かなくなるでしょう。健康寿命を延ばし、社会保障費を削減することは必須課題。病気を予防し、健康を維持する手助けとなる事業をしたいと思い、後の完全栄養食『ベースパスタ』を開発するきっかけとなりました。

完全栄養食『ベースパスタ』開発の裏側

-なぜIT企業にお勤めになりながら、食事によるヘルスケアを考えられたのでしょうか。

橋本 舜:
自分や自分の周りの人たちは忙しすぎて時間がなく、食事がおろそかになりがちでした。それは段々と体調を崩していくことにつながります。栄養を補う健康食品やサプリメントは多々ありますが、これらはもともと健康に詳しい人がさらに健康になるために利用しているので、興味が薄い人たちとの健康格差はますます広がっていました。私は健康に詳しくない人も健康になれるようにする必要があると思い、皆がいつも食べている主食の栄養バランスを良くすればいいと思いつきました。

自然に健康維持できる食品には、世界を変える可能性があるとも思いました。生活習慣病の解決にもつながるならば、他の先進国にマーケットを広げることができます。広く普及してコストが下がれば発展途上国などでも使われて、地球上に栄養バランスが悪い人がいなくなるかもしれません。そんな世界観を持って、私は「ベースフード」の立ち上げを決めました。


-しかし、食品業界は今までに携わられたことのない未知の領域だったかと存じます。どのようにして事業を進めていかれたのでしょうか。

橋本 舜:
自分では大きなスケールを感じていましたが、単純に言えば会社を辞めて麺づくりを始めた訳ですから、イタリアンレストランでもやるのかと思われていたでしょうね(笑)。当初は1人でのスタートです。ただ、私はDeNAで新規事業を担当していた経験から、全体を俯瞰しつつ、それぞれのプロフェッショナルを巻き込むことで事業化できると思っていました。

まずは栄養士の資格を持つ友人に、1日に必要な栄養素とその算出方法を聞きました。DeNAの仲間には起業家も多いので、例えば低いリスクで融資を受ける方法を教えてもらいました。大きい会社にいては社内の詳しい人に聞きますが、小さい会社では社外の人に聞くしかありません。ただ、その結果、社会で一番詳しい人に相談して、壁を乗り越えていくことができます。

とはいえ、必要な栄養価を満たす組み合わせをシュミレーションし、近所のスーパーで購入した食材とパスタマシーンで作った最初のパスタは、色も黒くて全然美味しいものではありませんでした。でも、これがスタートポイント。食材の色を重ねすぎないようにしよう、味の組み合わせを変えてみようとどんどん改良して、100回以上試作を重ねて『ベースパスタ』を作り上げていきました。

Amazon食品ランキング首位獲得で得た確信

ベースフード社が製造・販売する『BASE PASTA(ベースパスタ)』。食品カテゴリー人気度ランキング首位を獲得し話題となった。

-Amazon販売開始前後から、メンバーも増員されたと伺っています。今後の展開はどのようにお考えですか?

橋本 舜:
健康であることが当たり前の世の中にするためには、商品とサービスをレベルアップさせる必要があると思っています。

例えば、受け取ってワクワクするような箱で届くこと、買いやすいWebサイトにすること、美味しくて簡単に調理できるようサポートをすること、継続しやすい値段にすることなど、それらを一つ一つ解決していく必要があります。

私たちは“三ツ星レストラン”になりたいのです。これは決して高級レストランという意味ではなく、おいしさ・サービス・デザインの全てを揃えることを意味します。普通のパスタよりも美味しく、間違いなく体にいい、しかもおしゃれで買いやすい。私たちがテクノロジーの力でこれら全てをクリアすれば、マーケットは大きく広がるはずです。それにより価格を抑えることができ、さらに普及が進み、自然と世の中に栄養の足りない人がいなくなります。これからはパンや米、ラーメンなども開発して、活用できるシーンを増やしていきたいと考えています。


-まだ食べられるものが廃棄されてしまうフードロスや、世界的な人口増加による食料不足の問題についての展望もお持ちだと伺いました。『ベースパスタ』をどのように生かそうとお考えでしょうか?

橋本 舜:
今は健康な人を増やすことに注力していますが、『ベースパスタ』は食料不足やフードロスの解決策につながると考えています。世界の人口が増え食物が足りなくなっても、『ベースパスタ』を構成する十数種類の原材料の生産効率を上げれば、健康を維持するための食べ物の確保が容易になります。栄養価が高いのに廃棄されがちな食材を粉末にして麺に混ぜ合わせることで、食材を無駄に廃棄することが減るでしょう。

>>他の企業の経営者インタビュー記事を見る

編集後記

献立を考えたり調理にかけたりする時間はないが、食生活の乱れが気になっているという人の悩みを一挙に解決する『ベースパスタ』。多忙なIT企業勤務を経験した橋本社長ならではと思える製品だが、食のベースとなる主食を選んだこと、健康であることが高齢化対策につながるとにらんだことに、未来の食を変えていく可能性を感じた。2018年4月には従来の即席カップ麺のイメージを覆す、完全栄養即席カップパスタ『BASE PASTA quick』を開発し、直販だけでなくナチュラルローソンでの販売も開始した。橋本社長の生み出す “完全栄養食”は今後もアップデートされ、より身近な存在となっていくに違いない。

橋本 舜(はしもと・しゅん)/東京大学教養学部卒業。
2012年、株式会社DeNAに新卒入社し、ソーシャルゲームのプロデューサーや、新規事業担当として自動運転タクシー事業立ち上げなどに関わる。2016年4月ベースフード株式会社を創業。「健康があたりまえ」になる世の中を目指し、『ベースパスタ』を始めとした完全栄養食の開発を進めている。

※本ページ内の情報は2018年4月時点のものです。

応援メッセージ
この社長に直接提案

カテゴリー別

企業一覧