1972年に創業した株式会社CROSS(2018年4月服部工業株式会社より社名変更)は、養生クリーニング工事と建物リニューアル工事を主体とする、建築業界では数少ない特徴を持つ企業だ。大手建設会社の一次協力会社として多くのビルの建築や改修に携わり、順調に業績を伸ばしている。しかし、そんな同社も15年前には民事再生法を適用し、会社は存続の危機に瀕していた。そしてその渦中に飛び込み、会社の立て直しに奔走したのが現・常務取締役の米丸国宏氏だ。管理部門を中心に社内のすべての業務に携わりまとめ上げた能力は、社長直々に職務継承を所望されるほど、高く評価されている。現社長を以って「誰よりも会社を知っている」と言わしめる米丸氏に、復活までの軌跡と今後の展望を伺った。

起業の夢から会社再建の道へ

-新卒で入社後、民事再生に伴い退社、その後、御社に再入社されたそうですね。なぜ一度退社した企業に再入社をされたのでしょうか?

米丸 国宏:
CROSSはもともと、私の父と父の仲間たちが起こした会社です。起業家の父たちを見て育ちましたので、私もいずれは会社を創りたいと学生時代から考えていました。しかし大学卒業が迫った頃に、当時の社長に「まずはここで力を付けてみろ」と説得されて、服部工業(現・CROSS)へ入社したのです。

しかし、30歳を前に会社が民事再生法を適用し、人件費削減のため私は退社を決めました。その時は、辞めることも起業の夢を叶えるチャンスと捉えていましたね。ただ会社の株は持ち続けて、株主総会に出席したり相談に乗ったりしていました。関係性はずっと保っていたので、3年経って現社長の要望で再入社したときも自然に復職できましたね。100人以上いた社員は10数名程度に激減、債務の返済もまだまだ続いている状態でしたが、とにかく自分にできることを精一杯しようという覚悟でした。

自ら専門知識を学び、何もないところから創造する

-再入社時のポジションについて、お伺いできますでしょうか。

米丸 国宏:
以前と同じく管理部に配属されましたが、評価制度を整えることからパソコンのLAN配線まで、あらゆる実務をこなしました。どうしたらうまく会社が回るのかを考えて、知らない事でもさまざまな専門書を読み込んで、経理も人事もシステム運用も自分で学んでいったのです。人に聞くよりも自分で動いて考えようという意識がありました。

実は最初の入社の時も、企業にまだパソコンが浸透していない時期から、独学で自社のホームページを作成したりしていました。民事再生の時も弁護士に任せきりにせず、自分で調べて再建計画や書類をまとめ、社長に提案していたんです。「言われたことをやる」のは誰にでもできますが、私は「何もないところから自分で創り上げる」ことを常に考えて動いていました。

知識と権限を持つことで社内改革に迅速に対応

-再入社の6年後には39歳で管理本部長に就任されました。業務内容はどのように変化されましたか?

米丸 国宏:
管理本部長になってからも、新卒採用から中途採用、面接、経理、財務、システム運用と、営業以外のすべての実務を同時進行で行っていました。民事再生後には多額の債務返済がありましたが、売上は確実に伸びていたので、経営体制や社内管理を改善すれば、当社はきっと再建し、これまで以上に成長できると信じていました。私は合理的に考えて物事を変えることを厭いませんが、例えばシステムについて見識がない人には数百万円の費用をかけることの理解ができず、導入すべきかの展望が描けません。しかし私が学び、決済権限を持つことで、システムの導入などを迅速に進められるようになりましたね。

理念の共有で社員定着率の上昇につなげる

-現在、御社が力を入れている分野をお教えください。

米丸 国宏:
会社の立て直しを機に経営理念や行動基準を明文化し、会社の風土づくりと社員教育を強化しました。第一の行動基準「挨拶の励行」は再建前から伝えていたことではありますが、明記することで新入社員にもはっきりと迅速に伝わるようになりました。会社の思いや求めるものを明確に示したことで、結果的に方向性を共有できる社員が集まり、会社への定着率も高まりました。当社では20代で結婚する社員も多数いるのですが、腰を据えて働けると思ってくれていることの一つの示唆だと思っています。

社長から受け継いだ「社員は家族」の意識

-佐野社長からは米丸様について、「人前では努力している姿を見せないが、勉強家で誰よりも会社や社員のことを知っている。だから次の社長を任せようと思った」とお話を伺っています。米丸様にとって社長はどのような存在でいらっしゃいますか?

米丸 国宏:
私にとっては子どもの頃から知っている、父親のような存在です。そして社長は人に対してとても熱く、社員を自分の子どものように思って、皆を幸せにしてあげたいと奮闘している人です。私は若手の頃は、できる人間だけやればいいという意識がありましたが、今では「社員は家族、社員を守っていこう」という社長の考えに影響を受けて、社員を大切に育てたいと思うようになりました。

特に私は10年前から採用に関わり、2年前までは自身で研修も行っていたので、入社してくれた社員たちには愛着があります。当社には国内外への社員旅行がありますし、常務取締役となった今も私が誘って食事にいくなどして、社長のようにコミュニケーションを図ることを大切にしています。


-最後に、今後の展望をお教えください。

米丸 国宏:
現在では売上19億、社員数は76名(2018年4月現在)となり、安定した財務基盤を築くことができています。これからは、長期的に社員を支えられるような制度の構築にさらに重点を置くつもりです。今年も入社してくれた社員のためにも会社が永続する仕組みを作ることが、私の使命だと思っています。

編集後記

再建途上の会社に入り、業績復活の立役者となった米丸氏。民事再生以前の会社の姿を知るからこそ、経営体制や管理不足の不備を改めようと奔走してきたのだと話された。あらゆる業務に精通し、現在の本社機能の礎を創ったともいえる米丸氏だが、「苦労とは思っていなかった」とサラリと一言。情熱を秘めつつどんな状況にも柔軟に対応する姿勢で、これからのCROSSをさらに飛躍させるに違いない。

米丸国宏(よねまる・くにひろ)/1973年生まれ、東京都出身。
立正大学経営学部卒業後、1997年服部工業株式会社(現・株式会社CROSS)入社。2003年の会社の民事再生に伴い退社するも、3年後に復帰。管理業務を中心に再建に尽力する。2016年、常務取締役に就任。

※本ページ内の情報は2018年6月時点のものです。