社員数が増えれば増えるほど、人材マネージメントの現場では「顔と名前が一致しない」という問題が出てくる。そうした課題を解決するために生み出されたのが、社員の顔写真が並ぶ画面を見ながら人材管理が行えるサービス『カオナビ』だ。

株式会社カオナビが2012年に事業をスタートして以来、大手企業をはじめ、数多くの企業が利用し、2018年5月時点では有償導入企業数が1000社を突破しており、その存在感は近年、増々高まってきている。

そんなカオナビの創業者で代表である柳橋氏の“右腕”として活躍するのは、入社してまだ9ヶ月ほどの人物だ。それが、プロダクト本部企画戦略準備室のシニアマネージャー、平松 達矢氏である。なぜ、たった数ヶ月で注目企業代表者の右腕というポジションに上り詰めることができたのか。

平松氏のインタビューを通じて見えた、「他人と同じ」ではない、独自の視点とは。

入社後1週間でエンジニアに転向した理由

―就職活動をされる際には、当初からIT業界に絞って活動されたのでしょうか?

平松 達矢:
いえ、最初からIT業界に絞っていたわけではありません。学生時代は経済を専攻していたものの、バンドで作曲をしてみたり、映像制作をしたりと、もともとモノを作るということが好きだったので、アニメの制作会社などを当初は検討していました。その中で、最初の就職先として出合ったのがモバイルサイトの企画・編集・マーケティングを行う株式会社Blau(ブラウ)という企業でした。

まだスマートフォンが世に出回ってない時期でしたが、これから広まるであろうモバイル分野にスコープを当てた事業内容に惹かれ、入社を決めました。


―ご入社されて、どのようなお仕事に携われましたか?

平松 達矢:
入社時の肩書はコンテンツプロデューサーだったのですが、1週間後にはエンジニアに変わりました。コンテンツプロデューサーはエンジニアに対して指示を出す側です。ただ、コンテンツプロデューサー側が知識をきちんと持っていないと、指示を出すにしても、エンジニアの仕事を評価するにしても、うまくいきません。

入社して1週間の間にそれを実感したので、「まずは技術を身につけなければならない」と思い、エンジニアになるという判断をしました。そこからサーバーサイドエンジニアとして、3年間、勤務しました。

エンジニアスキルを突き詰める中で見えた新たなキャリア

―その後、株式会社コロプラでエンジニアのキャリアを積まれたのち、株式会社ストラテジーアンドパートナーズ(現:株式会社S&P)に転職され、マーケティングなどに携わられたと伺っております。エンジニアからキャリアチェンジをされたきっかけは何だったのでしょうか?

平松 達矢:
コロプラには様々な技術を持っている人が集まっていたので、周囲からたくさんのことを学べました。ただ、エンジニアとしてのスキルを追求する中で、圧倒的な才能を持つ人の存在にも触れ、自分自身はそこを突き詰めるよりも、エンジニアという1つの側面を持ちつつ、それを生かした仕事をしていくほうが性に合っていると感じ、キャリアチェンジを決めました。

ストラテジーアンドパートナーズ(現S&P)への転職は、同社にいた友人に誘われたのがきっかけです。開発部署を創設したいが、企画業務を担える人材が足りないということだったので、管理や企画といった、エンジニアではない業務に携わるきっかけになりました。

カオナビ入社の決め手は“副社長の一線を画した営業”

―御社に入社された経緯についてお聞かせください。

平松 達矢:
私がカオナビを知ったのは、ユーザー側として営業を受けたことがきっかけです。ストラテジーアンドパートナーズ(現S&P)で開発部署の責任者だったときに、『カオナビ』の営業として副社長の佐藤が来て話をしてくれました。そのときに、人事を題材にSaaSサービスをつくっているということに面白さを感じたんです。

技術職の人は、概して顔写真を使うことに抵抗を感じる人が多いのですが、マネジメントをする側からすると、顔写真で人材を認識して業務を進めたほうが効率が良いわけです。当時の佐藤の営業トークからは、『カオナビ』は顔写真を使うことで企業の人材マネジメントを変えているんだ、という自社製品に対する自信が伝わってきました。その印象があまりにも強く心に残り、興味を抱いたんです。


―柳橋社長と初めてお会いしたときの第一印象は覚えていらっしゃいますか?

平松 達矢:
柳橋とは最終面接で初めて会いました。

私の中で面接というのは、面接官の質問に答えていくというイメージだったのですが、私の時はカオナビの事業計画について1時間話をして終わりました。その事業計画を話す柳橋から、情熱を感じたのは覚えています。ただ、「今後、これをやりたい」という話が出て、それに対して私が意見を言う、単なるブレストのような状態だったので、内心「これは落ちたんじゃないかな」と思いました(笑)


―入社後は、どのようなお仕事に携わられたのでしょうか?

平松 達矢:
入社時は開発の中の最初のステップでもある、プロダクトデザインというグループに配属されました。市場も会社自体も急成長している中、サービスは飛ぶように売れるけれども、社内体制がそこに追い付いておらず、一種の“成長痛”のようなものがある状態だというのが、私が最初に感じた印象です。ですので、プロダクトデザイングループは企画ユニットみたいな位置づけだったのですが、特定のプロジェクトチームに入って企画を立てるというよりは、全体的な段取りの調整や人員の配置、開発フローの整理をして、社内体制を強化するという側面の方が強かったですね。

最初は3名ほどのメンバーだったのですが、今では10名前後になり、私自身もやりたいことが増えてきましたので、組織を本部化して業務の幅を広げています。

コミュニケーションロスをなくす独自の取り組み

―今までいくつかの企業をご経験されたからこそ感じる、御社独自の雰囲気や文化などはありますか?

平松 達矢:
徹底的に生産性を追求している文化でしょうか。

当社はコミュニケーションをできるだけ論理的にして仕事のスピードを上げ、生産性を追求するという方針です。また、働き方にもこだわっているため、社長から従業員までほとんど残業をしません。単に労働時間ではなく、いかに効率的に成果を出したかで評価される社風ですね。

これは、ビジネスモデルなど様々な要因もあると思いますが、やろうと思っていてもなかなかできないことだと思います。


―コミュニケーションを論理的に行い、ロスを減らしていくということですが、部署間ではどのようにコミュニケーションを取られていますか?

平松 達矢:
会社の制度としては、「またぎ飲み制度」があります。これは部署を跨いで飲み会をすると会社から補助が出る制度です。このような制度を利用して、部署の垣根を越えたコミュニケーションを取ることができます。

また、業務についても、社員同士で自由にスケジュールを抑えることができる社内文化ですね。入社したばかりの社員が社長の予定を抑えて、提案やディスカッション、ブレストをすることが可能です。そうした面でも、セクションごとに分けられてしまっているという感覚はそれほど強くありません。

“わがまま”だからこそ成り立つ、社長との信頼関係

―御入社されて、わずか9ヶ月ほどで「社長の右腕」と言われる存在になられた要因はどこにあると思われますか?

平松 達矢:
おそらく、私が結構わがままな人間だからだと思います。柳橋も創業者だから自分の意志が強い。2人ともある意味“わがまま”だからこそ、会話が成り立つんです。折れるところと妥協できないところが、お互いきちんとあって、そういうパートナーシップが業務の中で生まれているからこそ、双方向で信頼できているのかなと思います。

もちろん、中期計画やそれに即したアクションプランが存在しますので、そこからずれると求めていた結果にはたどり着きません。ですので、与えられたことは確実に実行するというベクトルは外しません。やらなければならないことはきちんとやりますが、「これは違うんじゃないか」と思えば提言はします。自分の意見をもっていて「こういうことをやりたい」ときちんと伝えられることが大切だと思います。


―「社長の右腕」と言われることへのプレッシャーはありますか?

平松 達矢:
責任は確かに重いと思います。ただ、会社の構想を実現するためには色々な人に協力してもらうことが必要です。プレッシャーはありますが、営業の方からエンジニアの方まで、中途で入った私を本当に助けてくれますので、そこにストレスは感じません。私は実際にプログラミングを書いたり営業に行ったりしているわけではありません。その分、動いてくれている人たちにきちんとコミットできるようにしなければという気持ちです。

大事なのは個人ではなくチームでのモノづくり

―今後、事業や企業をどのように成長させていきたいとお考えでしょうか?

平松 達矢:
『カオナビ』というサービスをさらに使いやすいものに磨き上げて、より多くのお客様に使っていただけるものにしていきたいです。

今も説明書なしで簡単に利用できるサービスではありますが、これまでのUIやUXなどは、人事担当者やタレントマネジメントに知見の深い方向けになっていたところがありました。それを、一人ひとりのエンドユーザーまで、簡単に使うことができる優れたツールに改修していきたいですね。

私自身、これまでBtoCに特化したサービスに携わってきましたので、その経験を生かしていきたいと思っています。ユーザーの幅を広げることで、会社自体もHRテクノロジー業界のトップ企業として大きく成長させていきたいですね。


―そのためにはエンジニアの方がさらに必要になるかと思われます。求める人物像や、エンジニアの方にとって働きやすい環境がどう整えられているかなどについてお教えください。

平松 達矢:
人物像は、チームでモノをつくるのを大事にできる方ですね。有能なエンジニアの方であれば1人で全て作ってきた経験もあるかもしれません。ただ、『カオナビ』の場合、有能な人でも複数人でやらなければならないほど、膨大な量のプログラムなんです。ですので、チームでプログラミングをしていくことに重きを置ける方を求めます。

エンジニアにとって環境というのは非常に重要だと思います。当社ではエンジニアの働く環境をエンジニア自身のボトムアップで整えてきました。柳橋が技術畑の人間でしたので、その辺りはとても理解があります。

また、エンジニアだけではなく、デザイナーや企画職の人たちと共にプロダクトをつくっていますので、今後そういった職種の方も増えてくれたらいいなと思いますね。

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編集後記

「社長の右腕」になるには、会社の発展のため、忌憚なき意見を伝えられる芯の強さと、それが許される信頼関係の構築が必要だ。エンジニアとビジネスの両サイドを経験してきた平松氏の類まれなバランス感覚と、周囲の意見や協力を受け入れる柔軟さが、短期間でトップを支える唯一無二の存在になり得た要因だと感じた。

平松 達矢(ひらまつ・たつや)/1986年10月3日生まれ。明治学院大学卒業後、株式会社ブラウに就職。サーバーサイドエンジニアとして3年間勤めた後、アプリの開発に転向。その後、株式会社コロプラに転職し、スマホアプリエンジニアとしてのキャリアを積む。株式会社ストラテジーアンドパートナーズ(現:株式会社S&P)では企画、アライアンス、マーケティングを担当。2017年10月に株式会社カオナビに入社。2018年9月にプロダクト本部長就任。趣味は海外ゲーム。

※本ページ内の情報は2018年7月時点のものです。