「1日単位で働ける」「面接・履歴書不要」「最短翌日に給与振込」のデイワークサービスを提供するWakrak(ワクラク)株式会社。

ユーザー(働き手)はアプリをダウンロードし、プロフィールを入力すれば希望の仕事の雇用契約を締結することが可能だ。

2017年12月に開始されたサービスは、都合のよい日に1日単位で仕事ができる気軽さが学生などに好まれ、アプリの登録者は4万人(2019年1月時点)を超える日本最大級のデイワークサービスに成長した。

企業側にとっても「何日の何時に人手がほしい」といったスポットの求人に対応し、かつ採用コストの大幅な削減となる同サービスは、特に人手不足が叫ばれるサービス業の現場において大きな魅力を持つ。

時間にも場所にも縛られないワークマッチングアプリを構想した代表の谷口怜央氏は、1999年生まれの19歳(取材時点)。中学時代に大怪我を負い、車椅子生活を余儀なくされたことが、世の中の働き方を変えようと思い立つきっかけになったという。

アフリカへの単身ホームステイ、日本一周ヒッチハイクなどを経て起業した谷口社長。10代の起業家が生み出さんとする、かつてない働き方とは。

突然の車椅子生活で見えた「もうひとつの視点」

―10代で起業することは、幼少期からお考えだったのでしょうか?

谷口 :
いえ、子どもの頃の将来の夢は、野球選手でした。私立の中高一貫校に進んだ中学1年生の時から野球部のレギュラーにも選ばれていたのですが、中学2年生で腰に大怪我をして、歩けなくなってしまったんです。

いつ治るかもわからないまま車椅子生活となり、下半身が動かないので人の手を借りなくては生活ができなかったのですが、当時の私には外に出たときの周囲の手助けがあまり感じられませんでした。活発だった分、精神的なショックも大きくて、部屋に引きこもるようになりました。

そのような状態を1年ほど続けていると、親がいろいろなドキュメンタリー番組を見せてくれるようになりました。中でも私が一番印象に残ったのが、キューバの革命家のチェ・ゲバラです。

私は車椅子での外出時に、いまだに世にはびこる差別や偏見を実際に体験していたので、格差や貧困をなくそうと志したゲバラに共感しました。そして彼が成し遂げられなかったことを、自分がやろうと思うようになったのです。その思いが力となり、リハビリに専念すると、足が動くようになりました。

歩けるようになった私が目指したのは、チェ・ゲバラが革命に失敗したアフリカです。さまざまな情報収集をして、なんとか高校1年生の夏にセネガルでの1か月間のホームステイにこぎつけることができました。

アフリカ生活をする中で感じた「日本人の余裕のなさ」

―言葉も通じない国への単身渡航に怖さは感じられませんでしたか?

谷口:
当時は、ただの野球少年だった自分が怪我によって生まれ変わり、高校生1人でアフリカに渡って活動するという自分でつくり上げたストーリーに魅力を感じて、怖さに勝った部分もありますね。ただ現地の生活を体験したかったのです。

実際、1ヶ月間はいろいろ出歩きましたが、基本的には見て、食べて、寝るという生活をしていました。

現地に行って感じたのは、とてもゆっくりした時間の流れです。皆、決まった予定にとらわれずに、今を生きている感じがありました。今できて、かつやりたいことをやっているので、目の前のことには全力投球。日本にはない余裕があると、私には感じられました。

―帰国後、日本での生活に変化はありましたか?

谷口:
日本にいてもできる活動を模索して、ホームレスの人たちと交流するようになりました。話しかけたり紹介されたりしていると、名古屋の街は知り合いばかりになりましたね。

ホームレスの人たちの中には、私と話をすることで新しくやりたいことを見つけ、社会に復帰していく人も多くいました。

しかし、私個人の力では社会を本質的に変えることはできないと思い、知見を深めるために高校2年生の夏は日本一周のヒッチハイクを敢行しました。

東京に来て参加したITとスタートアップのイベントで、ITの影響力の大きさを目の当たりにしたことから、起業を視野に入れました。日本人の生活の大半を占める仕事の仕方をITによって改革すれば人々に余裕が生まれ、見て見ぬふりをされている社会的に負の面にも目が向けられるのではないかと思ったのです。

まずはITや会社の勉強がしたいと思い、受け入れてくれる企業を探し、高校を休学して上京し、2016年の10月にインターン生になりました。

驚異のマッチング率90%を誇るデイワークプラットフォームの裏側

―2017年6月には御社の前身となるSpacelook株式会社を設立し、デイワークサービスアプリ『Spacework』を開始されています。なぜ、スピード感のある事業展開が可能だったのでしょうか。

谷口:
ビジネスモデルができたのは、インターンが終了する2017年3月ごろです。支援してくれる投資家をSNSで探しつつ、アプリもすぐに開発会社に依頼してつくってもらいました。

その費用の支払いをしなくはならないこともあり何十人もの投資家をあたると、Twitterで出会ったベンチャーキャピタルの方が出資してくださることになりました。

その後も何度か資金調達を実施し、サービス開始から約1年半でユーザー数は4万人を超えています。

現在、働き手となる利用者は学生が5割、主婦やフリーターが5割です。マッチング率90%という高さから、登録店舗数も1,000店舗以上になりました。

ただ、私としては、成長スピードはまだまだ遅いと感じています。年内には「いつでも、都心部で、サービス業の仕事ができる世界」を作り、月間マッチング数を10万件に伸ばすことが目標ですね。


―目標達成のため、何が一番の課題だとお考えですか?

谷口:
利用していただく事業社数が圧倒的に足りません。現在、アプリに仕事を掲載すると、すぐにマッチングされてしまう状態です。例えば昨日、契約いただいている顧客から、「明日8人の人手がほしい」とご依頼いただき掲載したところ、1時間で募集は終了してしまいました。

高いマッチング率は1年かけて築き上げた成果ですが、提供する仕事をどんどん増やしていかなければ、働き手であるユーザーはすぐにサービスから離れてしまいます。

企業が『ワクラク』 を利用するメリットは、まずコストカットです。

一般的なサービス業では1回のアルバイト採用に約10万円をかけていますが、勤務継続期間の平均は1~2ヶ月。ひと月働いてもらうだけで5万円以上かけているわけですが、『ワクラク』を利用すれば手数料は5分の1には下げられます。

また、働き手のユーザーは、気に入れば同じ店で何度も働くリピーターが多いので、その店の働き手となりうる方は利用回数を重ねるごとに増えていきます。

採用コストを削減しつつ、直接契約を結ばなくとも潜在的な働き手を増やせることを、企業や事業者の方にはアピールしていきたいですね。


―なぜ、御社のサービスでは利用料を低額に抑えられるのでしょうか。

谷口:
『ワクラク』は人材を囲っていないからです。

我々がいただく手数料は時給の10%。自社で人材を持つ派遣会社のように30~40%も徴収する必要がなく、あくまで雇用契約を締結するためのプラットフォームであるために実現できている数字です。

今ご利用いただいている企業は飲食店や小売店、物流会社、ホテル、IT関連が主流ですが、現在のアルバイトの需要はほぼその中にあります。人手不足で且つ採用単価も上がっている中小企業さんたちの助けになるように、できるだけ安く良いサービスをご提供していきたいと考えています。

企業さんの採用が上手く回ることは必然と個人の働き方を自由にしていくと思います。

余裕を生み出す働き方を提供し、よりよい世の中を創る一助に

―今後はどのような展開をお考えですか?

谷口:
今は労使双方が仕事のたびに評価をしあうレビュー機能を充実させることに力を入れています。1から5までの星をつけて小数点第二位までの数値を出し、独自のアルゴリズムを用いて人材を配置するのです。

私たちのデータは実際に働いた結果なので、面接で発信される一方的な情報とは違い、どんな仕事ができて、どんな仕事が不向きな人材なのかをかなり現場に即した形で判断できます。そのため、面接に時間を要することなく、適切な人材を配置できるようになるのです。

月間10万件を達成できれば、データも膨大な量になり、対象の職種を広げていくこともできるでしょう。このアルゴリズムを完成させることで、企業からも利用者からも、さらに評価が高まってくるのではないかと思っています。

私たちは働き方に流動性を持たせたいのです。誤解を恐れずに言えば、私たちはシステムのひとつとして人をお送りしています。

コストがかからずに人が集まるのであれば生まれるというビジネスもあるはずです。

私たちのプロダクトは、そういった領域を広げていけると信じています。

さらに、なぜその領域を広げていきたいのかといえば、人の自由度を高めたいからです。

すぐに仕事が手に入る世の中になれば、やりたくない仕事に我慢して従事する必要はなくなります。本当にやりたいことだけをやれる生活になれば、人は余裕が生まれ、世の中のことにもっと目が向けられるようになると思うのです。

私たちのサービスをきっかけとして世の中を変えるためにも、2019年の内には圧倒的に優位を持つサービスに成長させることを目指していますね。

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編集後記

アフリカへの単身渡米、休学してのインターン、資金調達の前にアプリ開発の発注と、「思い立ったらすぐ行動」のエピソードが尽きない谷口社長。

自由な働き方ができる世の中をつくろうと邁進し、事業家としても着実に成長していく姿が、周囲の者を応援者として引き付けていくのだろうと感じた。

10代での起業を波に乗せることができた、谷口社長の次なるステージでの活躍に期待したい。

谷口 怜央(たにぐち・れお)/1999年生まれ。愛知県出身。「社会問題を解決したい」との思いから高校1年生でアフリカのセネガルに単身渡航しホームステイを経験。帰国後は日本人の働き方を変え余裕を生み出すことを目指して活動し、インターンを経て2017年6月にWakrak株式会社を設立。1着しか服を持たない究極のミニマリストでもある。

※本ページ内の情報は2019年2月時点のものです。