※本ページ内の情報は2023年10月時点のものです。

美白高機能歯みがき剤「アパガード」をはじめ、ロングセラー商品を生み出してきた株式会社サンギ。人体にとって重要なハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウムの一種)をコア技術とし、その開発分野は医療機器やスキンケア用品と多岐にわたる。

テレビCMによって一大ブームを巻き起こしたベンチャービジネスの舞台裏について、代表取締役社長であるロズリン ヘイマン氏に話を伺った。

成功ビジネスの舞台裏~社長交代の経緯~

――創業者である会長・佐久間周治氏はご夫君でもあります。ロズリン社長が社長に就任されるまでの経緯を教えていただけますか。

ロズリン ヘイマン:
佐久間が起業した当初、共同経営の誘いを受けましたが、私は自分のキャリアを築くため一度断りました。お互いに別の道で生計を立てようと考えていましたが1999年、経営がスランプに陥った際に再度誘いを受け、「一緒にやろう」と決めました。
私の実家は自営業で、物事を整理したり、進めたりするのが得意かもしれませんが、夫は突拍子もないことを思いつくアイディアマンだったので、お互いの弱点を補えました。私1人では、この会社を作ることはできませんでしたね。

コンサルタント契約を経てから正式に入社し、副社長となりました。その後、夫から「社長の役職を譲る」とまで言われたのです。

日本における就任後のバックラッシュ

――就任後には、着手すべき課題やトラブルはございましたか。

ロズリン ヘイマン:
サンギに入社して最初の仕事は、アメリカにある子会社を閉鎖することでした。その後、マーケティングを続ける中でリブランディングの必要性に気付きました。

夫は基本的に私のやりたいことをサポートしてくれますが、巨大な船の方向性を変えることは困難なものです。当初、営業の経験がなく、日本の事情も知らない外国人女性ということで、一部では反発がありました。提案する改革で少しずつ問題を解決していったところ、社内の反応も変わっていきました。

「美白・高機能歯みがき」というジャンルのパイオニア

――貴社の歯みがき剤について、強みをお聞かせください。

ロズリン ヘイマン:
1995年からテレビCMを放送し、「芸能人は歯が命」というフレーズがブームとなりました。ある会社で800人規模の調査を行ったところ、回答者の約半分が弊社の製品を体験済みで驚きました。CMの効果で、当時歯みがき剤市場における国内シェアの約2割を獲得したのです。

競合製品が続々と増えても弊社が生存できたのは、サンギが開発した独自のむし歯予防成分「薬用ハイドロキシアパタイト」があったからです。OEM商品を含めサンギの提供する全ての歯みがき剤に配合され、使用実感もとても良いので、商品を使ったお客さまに高く評価いただけた結果だと思います。

ドイツでも歯科衛生士などを対象にテストを行ったところ、「歯が白くなったと感じる」「知覚過敏が消えた」などと好評でした。歯の滑らかさに加えて、歯の着色を抑えて歯垢を減らす効果もあります。特に「アパガード」は90年代からのリピーターも多くいます。

オーラルケア製品から医療機器まで。ブランドを生かしたターゲットの拡大

――今後、ターゲットを拡充させていきたい分野はございますか?

ロズリン ヘイマン:
一般向けオーラルケア用品が売上の95%を占めていますが、最近は医療機器の分野で認可された製品もあります。知覚過敏を軽減するクリームは治療剤として実用化し、保険の対象にもなりました。

また、歯科ルートが開拓できたのは良かったです。歯のプロたちに薬用成分の有効性を認めていただくと、患者様にお勧めとなりますので、商品に対する認知度が高まっていきます。

――法人以外の消費者に対する販促活動も変化させたのでしょうか。

ロズリン ヘイマン:
「芸能人は歯が命」というフレーズを知らない若い人たちにも、弊社の製品を試してもらえるようなアプローチをしています。たとえば、10年ほど前から「歯(8)が命(1)」と読む語呂合わせから、健康的で美しい歯の大切さを改めて考える日として「8月1日は『歯が命の日』」を制定しPRしています。

20~40代に人気のアパレルブランドとコラボした商品(歯みがきセット)も発売しました。高級なコスメのように、もっと歯みがき剤に高付加価値があってもいいと思うのです。

「後継者を決める」――会社の課題

――経営幹部の育成や後継者の育成には、どのように取り組まれておられるのでしょうか。

ロズリン ヘイマン:
我が家には子どもがいないため、後継者問題は難しいところです。

ワンマン経営にならないように外から経験者を招いたこともありますが、やはり下から育てていくのが一番だと思いました。

また、私は「ご縁」を信じているので、職種によっては中途採用も強化しています。ちなみに、現在の従業員は半数以上が女性で、育休からの復帰率が高めです。
来年は創業50周年となるので、周囲にも将来のビジョンを伝えたいと検討しています。

壁にぶつかった時に、どうするかを考える。

――若い世代や起業を考える方に向けて、メッセージをいただけますと幸いです。

ロズリン ヘイマン:
リスクばかり考えず、まずは行動することで自然と結論が出ます。もうダメだと思ったときには、誰かが助けてくれるものです。

社会人として現状に不満を感じている人は、「自分の潜在能力を生かせていないのでは?」「何を本気でやりたいのか?」と、今の状況を分析してみましょう。現状が理想と合わないのであれば、あえて勇気を持ってアクションを起こしてください。

編集後記

手探りだったベンチャー事業は、夫の発想力と妻の経営スキルという互いの強みを合わせることで成功に至った。2016年6月、ロズリン ヘイマン氏は夫・佐久間周治氏から代表取締役社長の座を受け継いだ。

「何事にも勇気を持って飛び込むことが大切」というロズリン社長からのメッセージは、ビジネスにおいて一歩を踏み出せずにいる人の背中を押してくれるに違いない。


ロズリン ヘイマン(ロズリン・ヘイマン)/ 1945年豪メルボルン生まれ。67年メルボルン大学卒業、69年仏ニース大学卒業。71年豪貿易産業省を経て、日本に留学し、77年東京大学大学院修了。同年在豪日本大使館勤務。79年共同通信社、85年ジャーディン・フレミング証券などに勤務。98年麻布大学卒業、獣医師免許を取得。同年サンギ入社。経営企画室長、副社長を経て、2016年社長就任。ライフワークとしてインタビューブログ「ロズリンの部屋」も連載中。